はじめに
「幸福は夢にすぎず、苦痛は現実である」。ヴォルテールの言葉として知られる、かなり悲観的な一節です。
これは真正な言葉で、1774年3月16日、フロリアン侯へ送った書簡に確認できます。当時ヴォルテールは79歳、80歳を迎える年でした。
「80年間、それを経験してきた」と続く
有名な一行の後でヴォルテールは、自分は80年間それを経験してきた、と続けます。そして、ハエがクモに食べられるために生まれ、人間が悲しみに食べられるために生まれたかのようだ、というほど暗い比喩まで記します。
つまりこれは若い思想家が抽象的に人生を悲観した言葉ではありません。老いと病を経験していた晩年の書簡です。
「幸福を決意した」ヴォルテールとの矛盾?
同じ人物には、後世に「幸福であろうと決意した」と整えられた別の言葉も流通しています。一方では陽気でいようとし、一方では苦痛を現実と呼ぶ。
しかし人間の思想は一枚岩ではありません。時期、健康状態、相手、文章の目的によって語り方は変わります。名言を一行だけ集めると、この矛盾や変化が消えてしまいます。
まとめ
「幸福は夢にすぎず、苦痛は現実である」は1774年3月16日の書簡に確認できる真正なヴォルテールの言葉です。
一人の思想家を「楽観主義者」「悲観主義者」と一語で固定せず、その言葉が人生のどの時点で書かれたかを見る。この一節は、その大切さも教えてくれます。