「誰も何かになろうとせず、すでに何者かであろうとする」ゲーテ|原文と意味

ゲーテが実際に書いたのは「誰も何かになろうとせず、すでに何者かであろうとする」

「誰もがすばらしい人になりたいと願っている。一方、成長することは誰も望んでいない」。この日本語はゲーテの名言として流通していますが、ゲーテの作品にこの形の文章がそのままあるわけではありません。

一方、ゲーテの『Zahme Xenien IV(穏和なクセーニエ IV)』には、よく似た発想を持つ次の詩句があります。

Mit seltsamen Gebärden
Gibt man sich viele Pein,
Kein Mensch will etwas werden,
Ein jeder will schon was sein.

後半2行を説明的に訳せば、「誰も何かになろうとはしない。誰もがすでに何者かであろうとする」という趣旨です。ここで重要なのは、現在流通する日本語をゲーテの逐語訳として引用しないことです。

「成長したがらない」は、原文そのものではない

英語圏では “Everybody wants to be somebody; nobody wants to grow.” という言葉もゲーテ名義で広まっています。1962年の『The Viking Book of Aphorisms』にもゲーテ名義で収録されていますが、具体的な作品名や箇所は示されていません。

ゲーテのドイツ語原文にあるのは werden(なる)と sein(ある/何者かである)の対比です。英語の grow、そして日本語の「成長する」は、その対比を分かりやすく解釈した表現と考える方が安全です。

したがって「成長したがらない」という現代的な言い回しを、ゲーテがそのまま発言したかのように扱うことはしません。

「なる」と「すでにある」の違い

この詩句のおもしろさは、結果と過程のずれを短い言葉で捉えている点にあります。「何者かでありたい」という願いは、肩書きや評価、完成した自己像へ目を向けます。一方、「何者かになる」には、その状態へ向かう時間や変化が含まれます。

完成した姿は欲しい。しかし、そこへ至る途中は引き受けたくない。そう読むと、後世に「誰も成長したがらない」という形へ言い換えられた理由も理解できます。

『Zahme Xenien IV』の周囲を読むと見えること

この4行だけが孤立しているわけではありません。直前には、若い人々がゲーテを「師」と呼びながら学ぼうとしない、という趣旨の詩句があり、直後には「学び直し(Umlernen)」についての言葉が続きます。

その並びを踏まえると、この一節を単なる成功哲学として読むより、「すでに出来上がった自分」でいたがることと、学びながら変わり続けることの緊張を描いた言葉として読む方が作品の流れに沿っています。

今の自分を「完成品」にしない

この言葉を現代に持ち帰るなら、「もっと成長しなければならない」と自分を追い立てる必要はありません。むしろ、自分をすでに完成した存在として固定しないことの方が重要でしょう。

知らないことを学ぶ。考えを変える。できなかったことを少しずつできるようにする。「何者であるか」より「何者になりつつあるか」に目を向ける。ゲーテの原文からは、そんな読み方ができます。

まとめ

「誰もがすばらしい人になりたい。一方、成長することは誰も望んでいない」という日本語を、ゲーテ本人の逐語的な名言として扱うのは適切ではありません。

しかし、その核に非常に近い詩句はゲーテの『Zahme Xenien IV』に実在します。原文は「誰も何かになろうとはしない。誰もがすでに何者かであろうとする」という趣旨です。

つまり完全な誤帰属として捨てるより、ゲーテの実在する詩句が後世に言い換えられ、「成長」という語を使う形で広まった可能性のある言葉として区別するのが妥当です。

出典メモ:Johann Wolfgang von Goethe, Zahme Xenien IV. 原文はProjekt Gutenberg-DE等で確認できます。英語の “Everybody wants to be somebody; nobody wants to grow.” は1962年のW. H. Auden / Louis Kronenberger編 The Viking Book of Aphorisms にGoethe名義で収録された例がありますが、ゲーテ作品中の逐語的な原文としては確認できません。

原文と前後の文脈:ゲーテ『Zahme Xenien IV』の四行詩は、Projekt Gutenberg『Gedichte. Ausgabe letzter Hand』掲載本文で照合できます。「Kein Mensch will etwas werden, / Ein jeder will schon was sein.」という原文と、後世の「誰も成長したがらない」という流通訳は区別して扱います。

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