はじめに
「理性によってのみわれわれは人間となる」。この日本語には、デカルト『方法序説』第1部の真正な文章が対応します。
原文の趣旨は、理性あるいは良識が「われわれを人間にし、動物から区別する唯一のもの」だというものです。
『方法序説』冒頭の文脈
この一節は、良識は人々の間に比較的平等に分配されているという議論の中にあります。デカルトは、人によって理性そのものの量が大きく違うというより、思考をどのように導くかが違うと考えます。
そのため、この文章を単に「感情より論理を優先しよう」という生活訓へ置き換えると、文脈を狭めてしまいます。
デカルトの「理性」と動物
『方法序説』では後に、人間と動物の違いについて言語や思考能力から論じます。現代の動物認知科学とは前提の異なる17世紀の哲学ですが、デカルト自身の体系では、思考する精神が人間を特徴づける重要な位置を占めます。
つまりこの言葉は、批判的思考のすすめというより、人間とは何かというデカルトの哲学的人間観に属する文章です。
まとめ
「理性によってのみわれわれは人間となる」には真正な原典があります。ただし「感情に流されず論理的に判断しよう」という現代的な教訓だけではありません。
理性とは何か。そしてそれは人間を他の生き物からどう区別するのか。『方法序説』のこの一節は、方法論だけでなくデカルトの人間観へつながる言葉です。
原典・関連ページ
原典:René Descartes, Discourse on the Method, Part I|Project Gutenberg