アリストテレス「友情とは二つの身体に宿る一つの魂」|『哲学者列伝』の出典と意味

「友情とは二つの身体に宿る一つの魂」の出典

「友情とは二つの身体に宿る一つの魂である」。アリストテレスの名言として広く紹介される表現です。重要なのは、この句はアリストテレスの現存著作から直接引いたものではなく、後世の著述家が彼の発言として記録したものだという点です。

典拠はディオゲネス・ラエルティオス『哲学者列伝』第5巻、アリストテレス伝20節。そこでは「友とは何か」と尋ねられたアリストテレスが、「二つの身体の中に住む一つの魂」と答えたと伝えられています。

『哲学者列伝』第5巻20節にある記録

R. D. Hicks訳(1925年)の英訳は A single soul dwelling in two bodies.。今回確認できたギリシャ語の記載は μία ψυχὴ δύο σώμασιν ἐνοικοῦσα です。「一つの魂が二つの身体に宿る」という日本語は、その意味を伝える訳といえます。

ただし『哲学者列伝』が書かれたのは、アリストテレスの生きた紀元前4世紀よりずっと後の時代です。古代の伝記に出典があることと、本人の発話を逐語的に実証できることは別です。資料の位置は特定できますが、本人が実際に同じ語を使ったと断定はできません。

『ニコマコス倫理学』との関係は?

アリストテレス自身の『ニコマコス倫理学』第8・9巻は、友情を深く扱う作品です。そこでは友を「もう一人の自己」として考える議論があり、この比喩との思想的な共通点を見いだせます。

しかし「一つの魂が二つの身体に宿る」という一句を『ニコマコス倫理学』の直接引用として紹介するのは不正確です。「友情をめぐる本人の議論」と「後世の伝記が伝える発言」を分けると、読者は両方をより正確に理解できます。

一心同体という比喩を、どう読むか

「一つの魂」は、親友同士が同じ考えになる義務を意味するわけではないでしょう。別々の身体を持つ二人の間に、互いを自分のことのように気遣う親密さが生まれる。そんな比喩として読めます。

現実の友情では、判断が違っても相手を尊重できることが大切です。考え方の違いを消すより、相手の幸福をその人自身のために願う関係として捉える方が、『ニコマコス倫理学』の友情論にも自然につながります。これは古代の記録を踏まえた現代的な読み方です。

引用するときの適切な書き方

出典を明記するなら、「ディオゲネス・ラエルティオス『哲学者列伝』第5巻20節に、アリストテレスの回答として記される」とするのが正確です。

逆に「アリストテレスが『ニコマコス倫理学』に書いた」という説明は避けるべきです。原典が見つかったからといって、記録者と発言者の違いまで消してはいけません。

まとめ

「友情とは二つの身体に宿る一つの魂」は、完全な出典不明の言葉ではありません。古代の『哲学者列伝』に対応する記録が残っています。一方、それはアリストテレス自身の著作からの引用ではなく、後世の伝記で伝えられた回答です。

出典確認済みとする対象は『哲学者列伝』の記述であり、本人の発話そのものを直接確認したという意味ではありません。この違いを明示することが、名言を正しく読む第一歩になります。

原典・参考資料

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