「与える袋と受け取る袋」はゲーテ「Sprichwörtlich」の詩句
「楽しく生きていきたいなら、与えるための袋と、受け取るための袋を持って行け」として知られる言葉には、ゲーテの原文があります。「Sprichwörtlich(ことわざ風に)」に収められた次の六行です。
Willst lustig leben,
Geh mit zwei Säcken,
Einen zum Geben,
Einen um einzustecken.
Da gleichst du Prinzen,
Plünderst und beglückst Provinzen.
冒頭四行は、おおよそ「楽しく生きたいなら、二つの袋を持って行け。一つは与えるため、一つは受け取るため」と読めます。日本語で広く紹介される形は、この部分を簡潔にまとめたものです。
原詩は単純な「ギブ・アンド・テイク論」ではない
旧記事では、この言葉を「与えることと受け取ることのバランスが幸福を生む」という人生哲学として説明していました。しかし原文には、もう二行続きがあります。「そうすれば君は君主たちのようになり、地方を略奪し、同時に幸福にもする」といった、少し皮肉めいた結びです。
そのため、現代的な相互扶助の標語としてだけ読むと、原詩のユーモアや毒気が消えてしまいます。ゲーテは短いことわざ風の形式で、「与える」と「受け取る」を軽やかに並べ、その先に権力者を思わせる意外な比喩を置いています。
受け取ることも、生きることの一部
それでも冒頭四行から、与えるだけでも受け取るだけでもない往復を考えることはできます。人は他者に何かを渡す一方で、他者から助け、知識、好意、機会などを受け取って生きています。
ただし、これは原詩から考えられる現代的な読みです。「ゲーテは相互依存の重要性を説いた」といった形で、後世の概念を本人の思想として断定する必要はありません。
短く切り取ると消える、詩の表情
名言は短くなるほど覚えやすくなります。その一方で、前後にあった冗談、皮肉、語り口は失われがちです。この言葉も「二つの袋」だけなら温かな人生訓ですが、全文を読むと少し違った表情を見せます。
原典へ戻る価値は、正誤を判定することだけではありません。切り取られた一文に、もともとどんな声色があったのかを取り戻すことにもあります。
まとめ
「楽しく生きたいなら、与えるための袋と受け取るための袋を持って行け」は、ゲーテ「Sprichwörtlich」に原文を確認できる言葉です。
ただし原詩はそこで終わらず、君主や略奪を持ち出すユーモラスな二行が続きます。「与えることと受け取ることの大切さ」という教訓だけに閉じず、ことわざ風の機知まで含めて読むと、この短詩はもっと面白くなります。
出典メモ:Johann Wolfgang von Goethe, 「Sprichwörtlich」。「Willst lustig leben, / Geh mit zwei Säcken, / Einen zum Geben, / Einen um einzustecken …」