はじめに
「陽はまた昇る」は、アーネスト・ヘミングウェイの名言として紹介されることがあります。
しかし、この日本語はヘミングウェイ本人が人生訓として残した一句ではありません。1926年の小説『The Sun Also Rises』の題名であり、その題名自体が旧約聖書『コヘレトの言葉/伝道の書』1章5節を含む一節から取られています。
英語初版の冒頭には、Gertrude Steinの “You are all a lost generation.” と並んで、Ecclesiastesの長い引用がエピグラフとして置かれています。
小説の題名は聖書の一節から来ている
エピグラフには、「一つの世代が去り、別の世代が来るが、大地は永遠に残る」「太陽は昇り、太陽は沈み、また昇った場所へ急ぐ」という循環の文章が引用されています。
したがって “The Sun Also Rises” は、ヘミングウェイがゼロから作った短い希望の標語ではありません。
彼が古い聖書の言葉を作品タイトルとして選び、第一次世界大戦後の若者たちを描く小説の入口へ置いたことに意味があります。
「どんな夜にも朝が来る」という励ましだけではない
旧記事では「どんな困難の後にも希望の朝が来る」というポジティブな格言として説明していました。
しかし『コヘレトの言葉』の引用は、単純な希望だけを語りません。世代が交代しても大地は残り、太陽、風、川は循環を続ける。その大きな反復の中で、人間の営みのはかなさも示されます。
『The Sun Also Rises』の登場人物たちも、戦争後の傷や空虚さを抱えながら、酒、旅行、恋愛、闘牛の中を移動します。題名は「必ず良くなる」と約束するより、人間が傷ついても世界の循環は続くという冷静な時間感覚を作品へ持ち込みます。
『日の名残り』ではない
旧記事には、『陽はまた昇る』を「『日の名残り』に登場する言葉」とする誤りがありました。
『日の名残り(The Remains of the Day)』はカズオ・イシグロの小説です。ヘミングウェイの作品は『The Sun Also Rises』で、日本語では一般に『日はまた昇る』『陽はまた昇る』などと訳されます。
「失われた世代」と並べて読む
小説冒頭では、聖書のエピグラフの前にGertrude Steinの「あなたたちはみな失われた世代だ」という言葉が置かれます。
一方には、戦争後に「失われた」と呼ばれる一世代。もう一方には、世代が去っても続く大地と太陽の循環。
この二つを並べることで、作品の題名は単なる希望ではなく、一世代の喪失と、それを超えて続く世界の対比になります。
まとめ
「陽はまた昇る」は、ヘミングウェイ本人の独立した名言ではありません。
1926年の小説『The Sun Also Rises』の題名であり、題名は『コヘレトの言葉/伝道の書』の一節から採られています。
したがって、ヘミングウェイの「希望の名言」ではなく、聖書の循環的な時間を小説タイトルとして引用したものとして扱うのが正確です。
出典メモ:Ernest Hemingway, The Sun Also Rises (1926), epigraph from Ecclesiastes 1. 題名 “The Sun Also Rises” はその引用中の表現。
ヘミングウェイを人物から読む
アーネスト・ヘミングウェイ人物ページでは、作品タイトルの引用元、小説の語り手・登場人物の台詞、本人の文体と伝記、出典未確認の流通句を区別しながら横断して読めます。
出典:ヘミングウェイ『The Sun Also Rises』初版系テキストの冒頭には、『コヘレトの言葉/伝道の書』の “The sun also ariseth…” を含む一節がエピグラフとして置かれています。したがって「陽はまた昇る」はヘミングウェイの独立した人生訓ではなく、聖書由来の作品題名として扱います。 Project Gutenbergで作品冒頭を確認する
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