赤﨑勇「仕事に命を懸ける楽しみ」の出典を検証
「仕事に命を懸ける楽しみ、命を懸ける喜び。そういったものを持たずして何も生まれない」。赤﨑勇の名言として流通する一文には、困難な研究に深く取り組むことそのものを喜ぶという強い表現があります。
しかし、今回の調査では、この文章が赤﨑本人のどの取材・著書・講演の何ページに記録されているかを特定できませんでした。第三者の名言集では確認できますが、本人の逐語原典とは異なります。流通文の著者帰属は要検証とし、確認できない発言時期や場面を補いません。
一方、月刊『致知』2015年9月号の本人対談や京都大学のインタビューには、研究を好きで続けたこと、過去の経験を生かしたことが具体的に記録されています。言葉の意味を考える根拠は、確認できる本人の説明に置く方針です。
『致知』2015年の本人対談が伝える研究の喜び
致知出版社が2021年に再掲載した本人対談は、月刊『致知』2015年9月号の抜粋・編集記事です。対談相手は下村博文氏で、赤﨑が青色発光ダイオードの研究を長く続けた理由について話しています。出版社自身が公開する本人発言の記録です。
その対談で赤﨑は、研究が好きだったため諦めようと思わなかったと述べています。うまくいくことも、いかないこともあったけれど、それぞれの経験が後の研究につながったと振り返っています。結果だけでなく、問題を解く過程に価値を感じていたことがうかがえます。
重要なのは、同じ対談で相手が「志を持って進むことと、自分を追い込むことは別か」と問い、赤﨑もその違いを認めている点です。熱心に取り組むことを、自分を無理に追い詰める行為と同じにしない本人の考えが確認できます。
京都大学の取材で語った「自分の仕事」
京都大学の赤﨑勇インタビューでは、学生時代に湯川秀樹のノーベル賞受賞を知り、いつか誰もやっていないことへ挑戦しようと思った経緯を本人が説明しています。研究対象を選ぶまでに、長い時間をかけて育てた関心がありました。
後に光る半導体の研究へ進んだ赤﨑は、他の研究者がやめたテーマこそ自分が取り組む仕事だと感じたと語っています。周囲の評価だけではなく、自分が納得できる課題を選んだという経験です。
ただし、この取材に冒頭の「命を懸ける楽しみ」という定型句が同じ形で載っているわけではありません。研究への没頭を裏付ける経験談と、名言全文を確認できたことは区別する必要があります。
青色LED開発は一人の気合いだけでできたのか
京都大学の赤﨑勇博士紹介によると、窒化ガリウムの高品質な結晶成長や電気的な性質の制御に取り組み、青色・紫外LEDの開発に成功しています。科学的な課題を一つずつ解決した過程が成果の土台にあります。
研究では、装置を改良したり、条件を変えて実験したり、別分野の専門家に助言を求めたりする必要もありました。本人対談では、分からないことを尋ねながら実験を重ねた経験が語られています。長く働くことだけではなく、何を変えれば問題を解決できるか考えることが大切でした。
2014年のノーベル物理学賞は、赤﨑勇に加えて天野浩、中村修二の三氏が受賞しています。科学の成果を一人の意思だけで説明せず、共同研究や研究環境の役割も見る必要があります。
「命を懸ける」を文字どおりに受け取らない
日本語の「命を懸ける」は、非常に強い情熱や真剣さを表すことがあります。しかし、この表現をそのまま「健康や生命を犠牲にしなければ成果は出ない」という命令に変えるのは危険です。比喩としての熱意と、実際に危険を引き受けるべきかの判断を分ける必要があります。
たとえば研究や仕事で集中する時期があっても、休息や安全対策を不要にする理由にはなりません。実験では危険を減らす手順を守り、体調が悪ければ必要な対応を取ることが重要です。真剣であることは、安全を無視することと同義ではありません。
また、本人は好きだから続けられたと語っています。その人の経験を、好きではない仕事に取り組む人まで責める材料にしてはいけません。一人の研究者の喜びを、すべての働く人に課す規範へ変えないことが大切です。
「好き」と「やり続ける」の間にあるもの
何かが好きでも、毎日が楽しいとは限りません。難しい問題に行き詰まることも、失敗して方法を変えることもあります。好きな対象を持つことと、常に気持ちよく進められることは別です。
赤﨑の対談には、装置の手直しや他分野への質問、うまくいかなかった研究経験が後に生きたという説明があります。研究の楽しさを、成功した結果だけでなく学んでいく過程に見いだす姿勢が読めます。
一方、何年も続けたものを途中で手放したくなることもあります。生活の条件や関心が変われば別の仕事を選んでもよいでしょう。続けた人の努力を尊重することと、別の道を選ぶ人を否定しないことは両立します。
仕事や学びへ応用するときの考え方
仕事の中で新しい課題に取り組むなら、最初に「何が分からないのか」を具体的にしてみます。問題を分けて小さく試せば、次の行動を考えやすくなります。大きな情熱を掲げるより、今確かめるべき問いを見つけることが役立つ場合があります。
また、分からないことを他の人へ聞くこともできます。赤﨑の本人対談では、専門外の人に教えてもらった経験が語られています。一人で抱え込むより、必要な知識を借りることも研究や仕事の力になります。
ただし、どんな課題にも全力で向き合い続ける必要はありません。優先度を確かめ、休むべきときには休み、チームで支えることができます。持続可能なやり方を選ぶこと自体も、仕事を大切にする行為です。
まとめ|本人の研究観は確認、定型句は要検証
「仕事に命を懸ける楽しみ」という赤﨑勇名義の文章について、本人の逐語掲載先は今回も特定できませんでした。出典タグ117「要検証」を維持し、関係する発言だけで確認済みへ格上げしません。
一方、2015年の『致知』本人対談には、研究を苦痛に感じず、好きだから続けてきたという説明があります。また、自分を追い込むこととは違うという本人の応答も確認できます。研究への情熱と、無理を重ねることの違いを理解する上で重要です。
参照資料:『致知』2015年9月号の本人対談抜粋、京都大学の本人取材、京都大学の研究経歴紹介。赤﨑勇「研究に王道なし」と研究をやめなかった理由の記事では、別々の発言に対応する原典を個別に確認しています。