「理解できないことを『ムダだ』と考える」の出典
「自分が理解できる意味しか理解できない人は、自分が理解できないことを『ムダだ』と考えます」。この言葉は植松努の名言として流通しているが、今回は植松本人が公開したブログ「メリットを見いだす能力はとても大事です。」に、ほぼ同じ文言を直接確認できた。人物の言葉かどうかが曖昧な格言ではなく、具体的な事業の経験を説明する文章の一部である。
本人のブログは、誰かと力を合わせるとき、双方が何を得るかを考える必要があるという話から始まる。お金が必要だと思っても、本当に必要なのは部品の製造や技術を持つ仲間かもしれない。「ムダ」と決めつける前に、最初に想定していた利益以外の可能性を探せるかが、文章全体の主題だ。
旧記事は、あらゆる新しい趣味や異文化体験に挑めば人生が豊かになるという抽象的な一般論へ広がっていた。しかし、この言葉の背景には、ロケット研究の資金と協力の仕組みを変えた経験がある。知らないことへ前向きになるという気分の問題より、見えなかった価値を実際に探すという方法へ焦点を移したい。
2004年、研究資金の代わりに何を提供したか
植松はブログで、2004年に北海道大学の永田晴紀教授と出会った経緯を振り返っている。永田はロケットエンジンを研究したかったが、資金が十分でなく、特に部品の製造費が負担になっていた。植松も大金を用意できるわけではなかった。両者とも「現金が足りない」という問題を抱えていたのである。
そこで植松は、部品を植松電機で作る案を考えた。お金を渡す代わりに製造の能力を提供すれば、大学の研究は進められ、会社側には新たなエンジン開発の技術と経験が残る。同じ不足を「資金調達」以外の方法で解こうとしたのが転機だったと本人は説明している。
本人の回想では、この協力を経てロケットの研究が進み、そのつながりが微小重力実験や人工衛星、モデルロケット教室など、当初は想定していなかった活動にも広がった。ただし、後から成果が生まれたことをもって、すべての無償協力が得になるという保証にしない。当時の技術と相手の目的がかみ合った個別の経験である。
「役に立たない」と判断する前に問い直す
同じブログで植松は、経営者の勉強会を「時間の無駄」と考える人の例を挙げる。講義の内容がすぐに売り上げにつながらなくても、異業種の人から学び、初めて会う人と関係が生まれることがある。参加する前に決めた成果物だけを物差しにすると、別の価値を見逃すという説明だ。
もちろん、何のために参加するのかを考えずに会議へ出席し続ければよいわけではない。ブログの本人も、実際に価値の乏しい会議があることを認め、参加して初めてそれに気づけたと振り返る。「ムダと決めつけない」と「何でも有益だと信じ込む」は両立しない。時間や費用の負担を評価することも必要だ。
重要なのは、相手の言う「無駄」が、どんな判断基準から生まれたかを確かめることだ。目先の収入だけを求める人と、新しい技能を学びたい人とでは、同じ勉強会の価値は異なる。何を得たいかを明確にし、予想外の学びも観察することが、現実的な向き合い方になる。
朝礼の30分は本当に「ムダ」なのか
植松は本人ブログで、会社の朝礼に約30分を使っていることも例にする。短い作業時間だけを比べれば、製造に使える時間が減るという見方ができる。しかし、体操を行い、従業員が人前で話し、経営者の考えを共有する場にもなっているという。作業に直接使っていない時間が、すべて生産性の低い時間とは限らない。
実際に植松は、朝礼での体操や発表にいくつもの効果を感じていると述べる。ただし、これは本人の経験談であり、30分の朝礼があらゆる会社で必ず健康や業績を改善するという研究ではない。役立ったと感じる事例と、誰にでも再現できる効果を分けて扱うべきだろう。
朝礼に意味を見いだせるかを判断するには、参加者の負担や実際に生じた変化も見る必要がある。もし一方的な訓示を聞くだけで負担が大きいなら、別の方法がよいかもしれない。無駄かどうかを最初の印象だけで決めず、目的と結果の両方で確かめることが大切だ。
知らない価値を認め、必要な検証も忘れない
この言葉は、理解できないことを何でも信じろという要求ではない。たとえば危険な装置の提案なら、その仕組みや安全性を確かめなければならないし、費用が大きい企画には検証が必要だ。知らないことを理由に即座に捨てず、確かめられる問いへ分解するという態度こそ実用的だ。

原文は植松努の本人ブログ「メリットを見いだす能力はとても大事です。」で確認した。植松の企業活動は植松電機公式サイトでも確認できる。補助資料として大阪国際大学の本人インタビューでは、従来の常識を疑った磁石開発の経験が語られている。
元の名言には句読点や表記の差があっても、中心となる一文は本人の公開文章から直接確認できる。関連記事の「より良くの追求」では問題の掘り下げ方を、「足りないから助け合える」では協力する価値を扱う。本記事は、いま見えていないメリットを発見するという第三の論点へ焦点を当てた。