大橋巨泉「人間至る処青山あり」|2015年の本人取材と月性の漢詩

はじめに

「人間至る処青山あり」。テレビの司会や事業を手がけ、海外でも暮らした大橋巨泉は、この言葉を自分の座右の銘だと語っている。どこに住むかを一つの土地に固定しないという人生観を、古くから伝わる成句に重ねたのである。

この言葉は巨泉が考案した名言ではない。幕末の僧・月性が詠んだ漢詩の末句に由来し、故郷を離れて志を果たそうとする覚悟を表す。成句の元の意味と、巨泉が自分の暮らしに引き寄せた使い方を分けて読むと、言葉の面白さが増す。

元の記事は「中国の故事に由来する」と説明していたが、国語辞典は日本の月性の詩を出典に挙げている。まずはこの点を正し、本人の取材記録と古い文献の双方に立ち戻ろう。

本人が座右の銘と語った2015年の取材

『日豪プレス』の2015年6月8日公開記事「独占インタビュー 大橋巨泉」には、本人がこの言葉を座右の銘と明言した発言がある。取材は同年4月3日に東京・新橋で行われた。新聞・雑誌の名言まとめを経由しない、本人への直接取材記録である。

質問は、海外で暮らした日本人が年齢を重ねると故郷に帰りたくなるのではないか、というものだった。巨泉は、日本へ帰る人が周囲に多いことに触れつつ、自分はどこにいてもよいと思っていると答えた。ここでの話題は抽象的な成功論ではなく、生活の拠点をどう選ぶかだった。

巨泉は気候や食べ物、ゴルフを楽しめる条件も挙げている。続いて、東京にいれば東京が、海外にいればその土地が家でよいと語った。一か所での成功より、自分に合う暮らしの場所を選ぶ自由が、本人の語る「青山あり」に近い。

成句の出典は月性の漢詩

小学館『精選版 日本国語大辞典』は「人間到る処青山あり」の用例として、幕末の僧・月性による詩「将東遊題壁」を挙げる。『清狂遺稿』1892年刊の記載が辞典上の出典例になっている。中国の古典から直接引いたと決めつけるべき言葉ではない。

詩の末句は「人間到処有青山」。一つ前には、故郷の墓地に埋葬されることを当てにしないという趣旨がある。つまり世間のどこにでも骨を埋める場所があるのだから、志を抱いて旅立てるという、故郷を出る者の覚悟を示した言葉だ。

「人間」の読みは、辞典によって「じんかん」とも「にんげん」とも案内される。ここでの「人間」は一個人ではなく、人の暮らす世界や世間を指し、「青山」は緑の山の風景ではなく埋葬の地を意味する。言葉を字面だけで受け取らないことが、元の詩を理解する鍵となる。

巨泉は古い詩をどう使い直したのか

月性の詩は、学問や志のために郷里を離れる場面で詠まれた。一方、巨泉が語ったのは、仕事と生活を日本以外の場所にも広げる選択についてである。二人の事情は違っても、生まれ育った場所だけが自分の居場所ではないという感覚が重なる。

巨泉は海外で土産物店を営み、インタビューではカナダ、ニュージーランド、オーストラリアの暮らしにも触れている。その経験は成句を自分の言葉として使った背景になる。しかし、漢詩の原作者が海外移住を推奨していたとまで解釈するのは行き過ぎだ。

また、どこにでも住めるという話を、簡単に誰でも海外に移れるという励ましへ変えないことも必要だ。移住にはお金、仕事、家族、言語、制度といった条件がある。自由な選択を支える準備や環境まで含めて考えたい。

現代の働き方と居場所を考える

働く場所や暮らす場所を選ぶとき、昔からの慣習を理由に選択肢を狭めてしまうことがある。移住するか残るかの二択に見えても、時期をずらす、複数拠点を持つ、短期間試すなど、異なる道がある。選択肢を調べること自体が、自由の最初の一歩となる。

反対に、地元で暮らす人が志に乏しいわけではない。古い詩の挑戦心も、巨泉が楽しんだ暮らし方も、他人へ一律に押しつけるべき規範ではない。大切なのは、土地に残るか出るかより、自分で意味のある選択をすることだ。

そして、同じ土地でも人間関係や仕事が変われば新しい居場所を作れるかもしれない。居場所を地図の一点としてではなく、自分が行動し、人と関わる場所として考える。「青山あり」を、自分の可能性を一つに閉じない比喩として読むことができる。

まとめ・出典

大橋巨泉が「人間至る処青山あり」を座右の銘と語ったことは、2015年の本人インタビューで確認できる。成句の元は月性の「将東遊題壁」であり、巨泉の発言の原典と、言葉そのものの古い出典を両方示せる。記事の出典状態は「原典確認済み」とした。

原典:日豪プレス「独占インタビュー 大橋巨泉」(2015年6月8日公開、4月3日取材)。語句の典拠:『故事成語を知る辞典』「人間到る処青山有り」/『精選版 日本国語大辞典』。関連記事:巨泉「今回の人生ではやめておこう」/出典の確認状態。

本人がこの言葉を座右の銘にした最初の時期までは確認していない。確認済みなのは2015年の直接取材と、成句の古い出典である。

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