「生きる日のよろこび、悲しみ。一日一日が新しい彩りをもって息づいている」。岡本太郎に帰属するこの言葉は、日々の違いを「色」にたとえています。今回、イースト・プレスが2024年に刊行した『壁を破る言葉 新装版』の公式書籍紹介に近い文章が掲載されていることを確認しました。元記事の「よろこび」と出版社の「喜び」という表記の違いを明示し、悲しみを無理に肯定するのではない読み方を考えます。
出版社の公式紹介に載る「喜び、悲しみ」
イースト・プレスの『壁を破る言葉 新装版』(2024年11月26日発売、ISBN 9784781624006)の公式紹介文には、「芸術」と題した箇所の見本として、日々の喜びと悲しみ、新しい彩りについての一節が掲載されています。出版社自身が商品案内に示した文章なので、引用文と作品の対応を確かめる根拠になります。
一方、元記事は「よろこび」と平仮名表記でした。茨城県立取手松陽高等学校の「松陽便り 第8号」、埼玉県小鹿野町の『広報おがの』2021年2月号などの検索可能な掲載例にも、同じ平仮名の形が見られます。ただし、これらの自治体・学校資料は発言の初出ではありません。
出版社の新装版では「喜び」と漢字で記されています。表記の違いだけで意味がまったく変わるわけではありませんが、逐語引用の出典を示すときには重要です。新装版の書誌と掲載表現は確認済み、元の記事の仮名遣いとの相違は「文言変化・意訳」として残します。
『壁を破る言葉』は没後の編集書
もとになる『壁を破る言葉』は2005年に刊行された岡本太郎の言葉集で、岡本敏子が監修・構成を担当しました。岡本は1996年に亡くなっているので、2005年と2024年はいずれも、本人のその年の発話日時ではありません。
2024年の新装版について電子書店の説明では、以前配信していた同名コンテンツを新しいデザインで再制作し、本文内容は変更していないとされています。ただし、どの版の何ページにこの一節が載るか、元の口述・原稿がどこにあるかは今回確かめていません。
どの場面で岡本が悲しみを語ったかについても不明です。作品制作中の特定の出来事や、私生活の出来事を勝手に結びつけることは避けます。
「彩り」は、楽しいことだけを指さない
色彩は明るい色だけで成り立つわけではありません。静かな色や暗い色も、ほかの色との関係の中で印象を変えます。このたとえを生活に置き換えると、ある日は新しい仕事に心が弾み、別の日には思い通りにならないことに戸惑うかもしれません。
岡本の文章は、喜びと悲しみを並べています。その両方が一日に含まれ、前日とは違う時間として経験されるという読み方ができます。ただし「悲しい日は必ず成長につながる」「辛い経験ほど価値がある」という一般法則を本人が証明したわけではありません。
つらい出来事は、つらいままでも構いません。悲しみや喪失を、美しい色の比喩だけで軽く扱うことはできないからです。言葉を誰かに伝えるときも、その人が置かれた状況を尊重する必要があります。
岡本の作品では、色はどのような役割を持ったか
川崎市岡本太郎美術館の公式年表では、岡本が1930年代のパリで抽象芸術運動に関わり、戦後には絵画や立体作品、モザイク壁画など多様な形式で制作してきたことが記録されています。1970年には大阪万国博覧会の《太陽の塔》を含むテーマ館が完成しました。
これらの制作では、作品の造形や色彩が鑑賞者の感じ方に影響します。ただし、今回の「日々の彩り」という言葉が特定の絵画の色使いを解説したものかどうかは、掲載書籍の周辺文脈を見ていないため分かりません。
作品と文章をすぐに一対一で結びつけるのではなく、人の暮らしの経験を視覚的な比喩で表した言葉として捉えます。
「今日」を記録することは、評価をつけることではない
一日を振り返るとき、その日が成功したか失敗したかだけで判断すると、細かな経験を見落とすことがあります。たとえば話した人、気づいたこと、迷ったことなどは、すぐに結果へつながらなくても自分の時間の一部です。
反対に、毎日を意義深い日にしなければならないという義務を負う必要もありません。何もしないで休んだ日にも、その人の生活が続いています。日々を「彩り」と見ることは、一日ごとに高い成果を求めることと違います。
日々を振り返るための三つの問い
- 今日あった出来事のうち、結果とは別に印象に残ったことは何か。
- 喜びや悲しみを、無理に別の感情へ変えようとしていないか。
- 昨日とは少し違う今日の経験を、どのような言葉で記録できるか。
これは岡本の三原則ではなく、この記事が言葉を日々の生活へ引き寄せて考えるために作った問いです。
出典確認状況
出版社の2024年刊新装版の公式紹介で、同じ内容の文章が『壁を破る言葉』に収録されていることと、漢字の「喜び」という表記を確認しました。旧来の引用には「よろこび」という表記があります。最初の発話年や原稿、旧版の該当ページは未特定です。分類は「出典確認済み」「文言変化・意訳」とします。
参考資料
- イースト・プレス『壁を破る言葉 新装版』(2024年):公式紹介文に一節を収録し、「喜び」の表記を確認
- イースト・プレス『壁を破る言葉』(2005年):元の編集書と岡本敏子による監修の公式書誌
- 茨城県立取手松陽高等学校「松陽便り 第8号」:学校便りの公開検索テキストに平仮名の流通形がある。原発話の資料ではない
- 小鹿野町「広報おがの」(2021年2月):検索索引に同じ流通形が現れるが、PDF本文の直接照合は未実施
- 川崎市岡本太郎美術館「岡本太郎年表」:パリから戦後の制作・万博の経歴
- BOOK☆WALKER『壁を破る言葉 新装版』:2024年版の収録内容と既配信版との関係に関する書店案内
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何があっても自分の行動を選ぶという問題は「人生はキミ自身が決意し」、長く活動を続ける意味は「オレの人生は、道がない」で考察しています。引用状態の確認は出典ステータスガイドへ。

日々の経験を一つの色で塗りつぶさず、喜びも悲しみも、その日の自分が感じたものとして受け止める。岡本太郎の文章を、いつも明るく生きるための命令にするのではなく、違う日々が続いていくことを考える言葉として残します。