小倉昌男「デメリットを恐れたら発展はない」|『経営はロマンだ!』とサービス投資

「物事には裏と表がある。デメリットを恐れたら発展はない。メリットをそれ以上に大きくすればいい」。小倉昌男に帰属する言葉です。独立した標語として読むと、どんなリスクも勇気で乗り越えられるという意味に受け取られかねません。しかし、小倉の回顧録『経営はロマンだ!』123ページを挙げる読書記録では、宅急便の「サービスとコスト」という二律背反をどちらから解くかを論じる一節として紹介されます。経営のリスクを無視するのでも、行動しない理由にするのでもない判断を考えます。

出典候補は小倉の回顧録『経営はロマンだ!』

2021年2月7日に公開された佐々田法男氏の読書記録には、小倉の『経営はロマンだ! 私の履歴書』123ページからとして、サービスを優先するため採算意識をいったん脇に置き、メリットを大きくすべきだという文章が引用されています。現在流通する名言と意味は近いものの、読書記録では「物事には何でも」「デメリットを恐れて立ち止まったら」という別の文言になっています。

同書は小倉昌男が著した『私の履歴書』を基礎とする回顧録で、e-honの書誌には2003年1月刊、日本経済新聞出版社、ISBN 9784532191627とあります。ページ番号を示した資料が存在することは手がかりですが、今回、当該書籍の123ページを直接閲覧したわけではありません。文言差を「文言変化・意訳」、原本の逐語照合未了を「要検証」として記録します。

本来の論点は、事業が伸びるまでのサービス水準

宅急便では顧客が荷物を送ろうと思うとき、電話で集荷に来てくれることや、分かりやすい料金、配達が早いことなどがサービスの価値になります。一方、それを実現するには車両、営業所、配達員などが必要で、荷物が少ない段階ではコストが重くなります。

小倉は事業の最初から収支だけを厳密に管理して集配能力を狭めてしまえば、利用者にとって十分便利なサービスにならず、荷物そのものが増えないと考えました。佐々田氏の読書記録では、サービスをよくして荷物の密度を高めれば採算の条件を変えられるという論理が、前後の文章に示されています。

ここで大事なのは、将来の利益を確実に保証する法則として紹介しないことです。需要の予測が外れたり、維持費が想定を超えたりすれば、投資を続けても採算が合わない可能性があります。事業の条件を把握し、いつ何を優先するかを決めた具体的な経営判断なのです。

1976年に宅急便を始めるまでに考えたこと

ヤマトホールディングス公式『宅急便誕生』によれば、小倉は1971年に社長へ就任し、長距離輸送への参入の遅れや1973年の石油危機による業績悪化に直面しました。個人から個人へ荷物を届ける仕組みへ目を向けたのは、その立て直し策を考える過程でした。

家庭から荷物を送る不便さ、牛丼のように取り扱う商品を絞る発想、1973年に米国で観察したUPSの集配車の密度など、複数の情報が材料となりました。1975年には宅急便開発要綱をまとめ、1976年1月20日に関東でサービスを発売します。

これは、リスクを何も考えず大きな投資に踏み切ったという話ではありません。配送する荷物の大きさ・料金・翌日配達の範囲を定め、どうすれば利用者が選ぶサービスになるかを検討していました。

スキー宅急便には、事業のデメリットが現実に表れた

1982年、長野支店ではリンゴの出荷が終わる冬に取扱荷物が減るという課題がありました。現場のセールスドライバーが、スキー客の板を運べば利用者が手ぶらで移動できると考えたことが、スキー宅急便の出発点になりました。ヤマトの公式開発史によれば、翌1983年12月に全国向け商品として発売しています。

ところが1984年の冬、大雪による遅配が発生し、利用者がスキー旅行で使うはずの荷物を届けられない事態が起きました。ヤマトはレンタル代や宿泊費などの負担に応じ、翌年以降は雪上車を導入するなどサービス体制を改善しています。

この事例は、商品の便利さというメリットだけに目を向けても成功できないことを示しています。雪による配送不能、補償、設備の追加投資など、デメリットは想像の問題ではなく、実際に負担すべき責任として表れました。

「メリットを大きくすればいい」という言葉を生かすなら、リスクを見なかったことにするのではなく、事故や失敗が起きたときにどう責任を取り、仕組みを直すかまで考える必要があります。

リスクには受け入れられるものと、許されないものがある

設備投資に伴う費用、需要予測の外れ、新商品を覚えてもらうまでの時間は、事業上ある程度の不確実性を伴います。そうした課題なら、小さく試す、損失額を限定する、結果を測って改善するなどの方法があります。

一方、人命や安全、法令遵守に関する問題は、「利益が大きければ危険でもよい」と扱うべきではありません。小倉自身は交通安全について「安全第一、営業第二」を掲げ、営業成績と安全が衝突する場合の優先順位を明確にしていました。

事業のメリットとデメリットは、すべて一つの金額へ換算して比較できるわけではありません。許容できない危険は先に除き、その範囲でどの価値を高められるかを考えるのが現実的です。

投資・改善を考えるための四つの問い

  • 自社にとってのコストと、利用者にとっての価値を分けて記述できるか。
  • どのリスクを引き受けられ、どれは安全や権利のために避ける必要があるか。
  • 先にサービスを改善すれば需要が増える、という仮説をどう確かめられるか。
  • 結果が期待と違った場合、いつ方法を変え、どんな条件で撤退するか。

これらは小倉がそのまま挙げた公式の四原則ではありません。本人の回顧録を示す読書記録と、ヤマト公式社史から本記事が整理した実践上の問いです。

出典確認状況と参考資料

言葉の主要な出典候補は『経営はロマンだ! 私の履歴書』で、読書記録に123ページの表示があります。元記事の引用とは文言に一部差があるため、「文言変化・意訳」「要検証」とします。サービス開発の日付や事業の失敗については、ヤマト公式史と出版物の書誌で別途確認しました。

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安全に関する優先順位を具体的に知るには「安全第一、営業第二」、実際に試して得た結果を経営へ生かす考えは「考えて、考えて、考え抜く」をご覧ください。出典ステータスガイドも参照してください。

小倉の言葉の核心は、デメリットを無視して突き進むことではありません。サービスが便利になれば新しい需要が生まれるという仮説を持ち、リスクを確かめながら仕組みを改良する。長期的な価値をつくる判断と、失敗に責任を持つ行動を合わせて考える一節です。

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