「とにかく、やってみようよ!!」。小田和正の言葉として紹介されるこの短い一文からは、思いついたことをためらわず始める、前向きな姿勢が伝わります。しかし、この句読点と感嘆符まで含めた文言を小田本人がどこで話したかについて、今回の調査では原典を特定できませんでした。名言集で流通する短文と、本人が公式に残した発言を分けて考える必要があります。
その一方で、小田の公式サイトには「とにかくやろう!」という近い言葉を、本人が実際に口にしたインタビューが公開されています。2001年の音楽特番『クリスマスの約束』の制作を振り返る場面です。何も考えず飛び込んだ話ではなく、先行きの分からない企画に取り組み、思うようにいかなかった点も引き受けようとする態度が語られていました。
確認できた本人の言葉:2001年の公式インタビュー
小田和正公式サイトの「クリスマスの約束…きっと君は来ない」には、ファンクラブ会報『FAR EAST CAFÉ PRESS』2001年11月25日付Vol.134のインタビューが掲載されています。小田は番組制作について成果と反省を問われた際、思いどおりにいかないこともあるが、まず一生懸命やってみるという姿勢で臨んだと話しました。
このインタビューには「とにかくやろう!」という表現が登場します。旧記事の「とにかく、やってみようよ!!」と趣旨は近いものの、文言の一致は確認できません。したがって、公式サイトの掲載をもって旧記事の引用そのものが逐語的に立証された、と扱うことはしません。
ここで小田は、望む成果が得られるかどうかは事前には分からず、うまくいかなかった結果も受け止めようと考えたと説明します。行動すれば必ず成功するという楽観論ではなく、結果の不確実さを引き受けたうえで、一度つくってみるという構えが見えます。
何に挑戦していたのか:『クリスマスの約束』の出発点
TBSによる番組の公式発表によれば、『クリスマスの約束』は2001年に小田が他のアーティストに共演を依頼する手紙を書いたことから始まり、長年にわたって続いた音楽特番です。TBSショッピングのBlu-ray案内では、初回は2001年12月25日放送で、小田自身が出演した楽曲一覧を確認できます。
ファンクラブ会報のインタビューは、こうした企画に臨む小田が、当時どんな不安や目標を持っていたかを伝える資料です。後年の成功を知っている読者は、最初から特番が長寿企画になると確信していたように思いがちですが、当時の本人の言葉には結果を予測できないことへの不安が残っています。
その意味で「まずやってみる」は、成功した人が過去を美化するための標語というより、未知の仕事を始めるときの判断として読むほうが具体的です。後に長く続いたという事実と、始める時点で成功が分からなかったという事実は、両立します。
成果は先取りできない
何かを始める前には、成果を完璧に予測したくなります。しかし、テレビ番組や音楽作品のように多くの人が関わり、受け手の反応も含まれる仕事では、事前にすべてを確かめることはできません。
小田が述べたのは、結果が思いどおりにならなくても、それを含めて自分の経験として引き受けるという態度です。これは、根拠のない自信を持つこととは少し違います。計画を立て、準備をしたうえで、それでも残る不確実性に向き合うということです。
「やってみれば何とかなる」という言葉は、時に慎重な人を軽んじるものになってしまいます。しかし公式の発言から読み取れるのは、失敗があり得るから何もしないのではなく、失敗もあり得るまま取り組むという選択です。
番組制作で残った反省:体調も成果の一部
同じインタビューで小田は、番組に力を注ぐあまり大幅に体重が落ち、リハーサルなどで歌いすぎて本番の声の状態に影響したことを反省点として挙げています。ここは、短い名言だけでは見落とされやすい部分です。
「全力でやることが大切」という考え方と、自分の身体を保つために、準備のやり方を調整する必要があるという反省が、同じインタビューに並んでいます。だから、この言葉を「休まず無理をすればよい結果になる」と読み替えることはできません。
新しいことへ向かう熱意は貴重です。それでも、仕事を長く続けるには体調や時間の配分も必要です。実際に試みるからこそ、計画時には気づかなかった負担や改善点が見えることもあります。
一度やって、結果を受け取り、次につなげる
未知の仕事を始めるには、少なくとも三つの局面があります。第一に、何を実現したいかを決めて準備すること。第二に、成果が確定しないまま実行すること。第三に、うまくいかなかった点も含めて見直すことです。
今回のインタビューが面白いのは、実行したことを誇るだけでなく、具体的な反省にまで話が進んでいる点です。最初からよい結果が保証された行動だけを選んでいれば、新しい試みそのものが難しくなります。けれども、実行のあとに振り返る習慣がなければ、同じ負担を繰り返すことになるでしょう。
この三段階の整理は当サイトによる解釈であり、小田が仕事術の体系として発表したものではありません。
小田が後年も語った、挑戦と観客の関係
芸団協CPRAの『SANZUI』2015年冬号インタビューでは、小田は新曲で観客に喜んでもらおうとする難しさや、毎回ライブを新鮮な気持ちで迎えようとする姿勢を語っています。
2001年の発言と同一のインタビューではありませんが、結果が分からない挑戦を続ける理由について考える補助資料となります。新しい曲が観客に届くかどうかを案じながらも、決まった型を繰り返すだけで終わりたくない。そうした創作の意思が伝わってきます。
ただし、異なる時期の発言をつなげて、本人の生涯にわたる一貫した哲学を断定することは避けます。
読者が自分の仕事へ引き寄せるなら
たとえば、小さな記事を一本公開する、新しい技術を学ぶ、初めての企画を提案する。結果を完全に予測できないものでも、必要な準備をしてから小さく試すことはできます。
一方、金銭的な損失や他人の安全に関わる決定では、十分な検証や合意が欠かせません。「やってみよう」という掛け声だけで危険を引き受けさせてよいわけではないのです。挑戦の大きさを自分で選び、失敗の影響を小さくして始めることにも意味があります。
さらに、うまくいかなかったときの反省を次に生かせるよう、結果を記録しておくことも重要です。小田の体調に関する反省を読むと、頑張ったという感情だけで仕事を終わらせないことの大切さが分かります。
旧記事からの訂正と出典判定
旧記事では「とにかく、やってみようよ!!」を、小田本人がどこかで確実に語った名言として扱い、挑戦すれば人生が変わるという一般論を繰り返していました。今回、逐語出典が未確認の流通文言と、2001年の公式インタビューに実際にある近い表現を区別し、具体的な番組制作と本人の反省を中心に再構成しました。
出典状態:要検証。記事タイトルに残す「とにかくやってみようよ」という表現は原典未確認。確認できる本人発言は公式掲載の「とにかくやろう!」などであり、同一の文言として扱いません。
参考資料
① 小田和正公式『クリスマスの約束…きっと君は来ない』(『FAR EAST CAFÉ PRESS』2001年11月25日付Vol.134の本人インタビュー)。② TBS『クリスマスの約束』公式発表(番組の始まりと長期的な経緯)。③ TBSショッピング『クリスマスの約束2001~2003』(初回の放送日と内容)。④ 芸団協CPRA『SANZUI』小田和正インタビュー(後年の別取材)。
同サイトでは「好きだと感じるものを作品にする」で、曲づくりと観客との関係を扱っています。名言の出典については出典監査索引も参照してください。
