「鏡に向かって微笑みなさい。毎朝微笑みなさい」。オノ・ヨーコの言葉として広く紹介されるこの表現は、本人の公式サイトに英語原文が掲載されています。さらに、2010年のCNNインタビューでは、本人が鏡を使って笑顔を試した経験を振り返っています。今回は名言サイトではなく、この二つの直接資料へ戻ります。
ただし、この言葉を「朝に笑えば、人生の問題が必ず解決する」という万能の教訓にするのは適切ではありません。本人の経験と表現、病気や心身の健康についての科学的な効果は、区別して考える必要があります。
オノ・ヨーコ公式サイトに英語原文が残る
IMAGINE PEACE公式「Book recommendations by Yoko Ono」では、オノ本人が読んだ本や雑誌を薦めています。その中で、日々の習慣について述べる箇所に、鏡に向かって微笑み、毎朝続けると生活に変化を感じるだろうという文章があります。
英語は「Smile in the mirror. Do that every morning …」と続きます。日本語の旧記事にある「鏡に向かって微笑みなさい」は翻訳です。本人がその日本語の表現を使ったと確認したわけではありませんが、英語の言葉が本人の公式サイトに載っている点は確認済みです。
同じページでは本を読んで考えを変えた経験や、健康や生活についての主張が語られています。ただし、本人の人生観として語られていることと、それが医学的に検証済みであることは異なります。
2009年7月24日の「How To… SMILE」
IMAGINE PEACE公式「#smilesfilm by yoko ono」には、本人名義の「How To… SMILE」と、2009年7月24日という日付が残っています。鏡へ微笑みかけることを始めても、すぐには気分の変化を感じないかもしれないと説明したうえで、本人独自の笑顔の作り方を提案しています。
重要なのは、最初に微笑むだけで必ず大きな変化が起こる、という単純な書き方をしていないことです。本人は口元や目、呼吸、身体の感覚にも注意を向けるよう促しています。
一方、その説明には身体の健康や若さが改善するといった本人の期待も含まれます。これを実証された治療法や健康効果として紹介することはできません。芸術家による個人的な実践の提案として読むのが適切でしょう。
2010年のCNNインタビューに残る経験談
CNN「Anderson Cooper 360°」2010年10月19日放送分の公式トランスクリプトでは、オノ本人がつらい時期に鏡を見て、自分の表情を変えてみようと思った経験を語っています。
話はジョン・レノンを失った後の生活にも関わります。オノは子どものショーンのことも気にかけながら、毎朝、鏡の前で微笑むことを試みたと振り返ります。最初は口元は動いても目は笑っていなかった、とも説明していました。
続けるなかで生きている実感が戻ったという趣旨の話ですが、これは本人が自らの経験を語ったものであり、同じことをすればすべての人が同じ経過をたどるという研究結果ではありません。
鏡の前の笑顔と、作品としての笑顔
オノの笑顔への関心は、生活上の習慣にとどまりません。公式の「#smilesfilm」には、世界の人々の笑顔を集めて映画にしたいという1967年の構想や、ジョン・レノンの表情を撮影した1968年の『Film No. 5』(『Smile』とも呼ばれる作品)が紹介されています。
映画では、短い時間に生まれる表情の変化を長く映し出すことができました。普段なら見過ごす表情へ視線を向けさせる行為そのものが、作品の核になっています。
ニューヨーク近代美術館(MoMA)のオノ・ヨーコの作家紹介も、鑑賞者の行為や想像を作品に関わらせる指示作品を重要な表現として説明しています。笑顔を送ったり、それを受け取った人が他の人へ伝えたりする「SMILE PIECE」も、参加を促す作品として公式サイトに紹介されています。
1968年の映画と2009年の生活上の助言は、同じ言葉を繰り返した一つの作品ではありません。ただし、表情や身近な行為へ長年関心を向けてきたことは、別々の資料から確認できます。
「笑顔でいなければならない」という命令ではない
笑顔を試して気分が変わると感じる人もいるかもしれません。しかし、悲しさや疲れを感じている人へ、笑えばすぐ治るはずだと押しつけるべきではありません。笑えない状態そのものが、本人の努力不足を示すわけでもありません。
とりわけ病気や強いストレスを抱えた人には、休息や周囲への相談、適切な医療が必要な場合があります。笑顔を作る習慣は本人が選んで試すことのできる一つの行動であり、専門家の支援に代わるものではありません。
小さな行為から他者とのつながりを考える
公式サイトには、友人へ笑顔を送る「SMILE PIECE」も紹介されています。笑顔の写真や言葉など、受け取る人が自分なりの方法で返せる作品です。
一人の大きな成果を称えるというより、複数の人が小さな行為をつなぐ点に特色があります。この考え方を知ると、鏡に向かうという個人的な行為と、周囲の人との関係を考える作品が同じ作家の活動に共存していることが分かります。
ここから「毎朝の小さな行動を自分で選ぶ」という現在の生活への応用を考えることはできます。ただし、これは当サイトの解釈であって、オノが一般的な医療・心理療法の方法を体系化したことを意味しません。
旧記事からの改善と出典判定
旧記事は出典を示さず、「笑顔なら人生を大きく好転させられる」とする一般論が中心でした。今回は英語原文の掲載先、2009年の本人文章、2010年の本人の回想、1968年の映像作品をそれぞれ異なる資料として示し、実際に確認できた範囲へ説明を絞りました。
出典状態:本人公式文章で英語表現を確認済み。旧日本語は訳文。① IMAGINE PEACE「Book recommendations by Yoko Ono」(本人名義での英語表現)。② IMAGINE PEACE「How To… SMILE」2009年7月24日(本人の手順と映像作品)。③ CNN「Anderson Cooper 360°」2010年10月19日放送の公式トランスクリプト(鏡の前で微笑んだ個人的経験)。④ MoMAオノ・ヨーコの作家情報(指示と参加を通じた芸術)。
引用や翻訳の扱い方は出典監査索引をご覧ください。
