河合隼雄「思い通りにならないことこそおもしろい」|『こころの子育て』と個性

「思い通りにならないことこそ、ほんとうにおもしろいことだと思っているんです」。河合隼雄のこの言葉を、人生のあらゆる困難は楽しむべきだという格言として読むと、発言の大切な前提を見落とします。今回たどり着いた資料では、子どもが親の思いどおりに育たないことへの問いに答える一節として紹介されています。一般的なポジティブ思考の標語ではなく、子どもを一人の人間として見る言葉として読み直します。

原典の有力な手掛かりは『Q&A こころの子育て』

札幌市立資生館小学校が2025年4月8日に発行した学校便りは、河合隼雄著『こころの子育て 誕生から思春期までの48章』(1999年)からの紹介として、この一節を掲載しています。「思い通りにならないのは、育て方が悪いからですか」という質問に対し、子どもも親も生きている以上、思いどおりにならないことがあるという考えが続く形です。

朝日新聞出版の公式書誌では、正式な書名が『Q&A こころの子育て――誕生から思春期までの48章』で、河合隼雄の著作として1999年3月12日に刊行されたことを確認できます。2001年には朝日文庫版が刊行され、国立国会図書館にも書誌があります。

今回、出版社の著作書誌と学校便りが示した発言の帰属を確認しました。ただし書籍現物を開いて、質問と回答の掲載ページや句読点を一字ずつ校合できたわけではありません。学校便りが示す出典の手掛かりと、書籍本文の一次確認済みという状態は分けています。

「ほんとうに」と「ほんとに」に表記の違い

旧記事の引用は「ほんとうにおもしろい」となっています。一方、学校便りに紹介された文言は「ほんとにおもしろい」です。意味は近くても、この表記の違いを黙って同じ逐語引用として扱うべきではありません。書籍原本のどちらの表記なのか、あるいは再録時に手が加わったのかは未確認です。

今回のタイトルは検索時に見かける流通形を踏まえつつ、本文では学校便りに見られる文言差を説明しています。「河合がこの文字どおりに書いた」と確定するには原本の確認が必要です。

「思い通りにならないのは親の失敗か」という問い

子育てでは、予定した時刻に食事を終えられない、子どもが大人とは違うことに興味を示す、親が伝えたいことがすぐには届かない、といった経験があります。だからといって、その一つひとつが親の努力不足を示すわけではありません。子どもには子どもの感じ方と成長の過程があります。

学校便りの紹介では、思いどおりにならないことを、子どもの個性が現れる場面として受け止めようという発想が示されています。ただし、予測できない出来事をすべて肯定するという意味ではありません。子どもの安全や健康に関わる問題には、大人による具体的な支援や対処も必要です。

子どもをコントロールすることと、育てること

親は、子どもが自分と同じ価値観や人生を選ぶように、すべてを決められるわけではありません。一方、子どもを大人と同じ責任のある存在として放任すればよいわけでもありません。発達に応じて環境を整え、危険を防ぎ、必要な規則を示しながら、子ども本人の気持ちを理解しようとすることが大切になる場面があります。

河合の言葉から考えたいのは、予定どおりに運ぶことだけを子育ての成果としない視点です。これは子育てに苦労している人へ「楽しむべきだ」と要求するものではありません。

「おもしろい」と感じられないときもある

親自身が疲れていたり、子どもが体調を崩していたり、家族に支援が足りなかったりする場合、思いどおりにいかない状況をおもしろいと感じる余裕がないこともあります。そうしたときに必要なのは、前向きな気持ちを無理に作ることではなく、負担を減らし、必要な助けを得ることかもしれません。

自分の感情が変わらないからといって、この言葉を理解できていないことにはなりません。河合の発言を、他人の不安や困難を軽く扱う口実にしないようにしたいところです。

前の記事「子どもは思いどおりにならない」との違い

当サイトには「子どもは思いどおりにならない」という別記事があります。両記事は、親が子を完全に操作できないというテーマを共有しています。しかし、こちらは学校便りに具体的な質問と書名が示されているのに対し、別記事にある「いくらお金があっても」という長文は原典未特定です。主題が似ていても、一つの発言を二つに分けたと断定しません。

両方の記事を通して見ると、確認できた資料の範囲を示しながら、どの問いに向けた言葉かを読むことが重要だと分かります。言葉の意味を理解するために、作者名だけでなく質問の内容も必要だからです。

読者が今日できること

家族との会話で予想していなかった答えが返ってきたとき、その違いをすぐに直すべき問題と決めつけず、なぜそう考えるのかを聞いてみる。子どもが別のやり方を試したいと言ったとき、安全と年齢に合う範囲で選べる機会を作る。こうした小さな対話は、本人の考えを知る入口になります。

これは当サイトの応用例です。河合がこの発言で具体的な子育て方法を段階的に指導したとするものではありません。

出典と確認範囲

出典状態:要検証/文言変化あり。学校便りが『Q&A こころの子育て』(1999年)を根拠にこの発言を紹介しており、出版社の公式書誌で著作の存在・刊行情報は確認できました。しかし書籍の原ページと照合したわけではありません。流通形の「ほんとうに」と学校便りの「ほんとに」という違いも残しています。

資料:札幌市立資生館小学校・2025年4月8日学校便り(書名付き二次再録) / 朝日新聞出版『Q&A こころの子育て』公式書誌 / 国立国会図書館・文庫版書誌。関連:河合隼雄「子どもは思いどおりにならない」 / 『こころの処方箋』の「イライラ」。

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