菊池省三「褒めて認めて信じる」|ほめ言葉のシャワーと安心できる教室

「褒めて認めて信じる」。教育実践家・菊池省三の言葉として名言サイトで紹介される表現です。相手を大切にする態度として読みやすい反面、旧記事は、この短文を本人の確定した発言としたうえで、誰でもほめられれば成長し、職場も家庭もよくなると説明していました。本人への取材を調べると、菊池が実践してきたのは、もっと具体的な「言葉を交わす教室」をつくるための取り組みです。

「褒めて認めて信じる」はどこで語られたか

菊池省三の名言一覧には「褒めて認めて信じる」という短文が載っています。しかし、発言の収録日、インタビュー名、著書のページは示されていません。現在確認できた本人への別の取材では、「ほめて、認めて、励ます」という少し異なる指導方針が紹介されています。意味が似ているからといって、二つを同じ原文と扱うことはできません。今回の短文は出典要検証の状態とします。

教育の出発点は「ほめて、認めて、励ます」

リクルートワークス研究所が2021年2月10日に公開した菊池本人への取材では、教室の関係づくりを支える方針として「ほめて、認めて、励ます」が挙げられています。菊池の考えは、成績が良かった子だけを評価するというものではありません。子どもの小さな行動の変化や、周囲の子がそれを支えたことへ教師が言葉を向ける様子が紹介されています。

ここで重要なのは、ほめる側が権威をもって「よい子」と判定することだけではなく、子どもが互いの働きかけに気づき、相手を見て言葉にする機会を得ることです。評価の対象を試験の点数から教室での具体的な行動へ広げると、発言する勇気や、友達の話に耳を傾ける姿勢にも目が向きます。

「ほめ言葉のシャワー」はどんな活動か

明治図書の2015年の著者インタビューでは、菊池は「ほめ言葉のシャワー」を、子ども同士がよいところを見つけて伝える活動として紹介しています。一人の児童がその日の中心になり、帰りの会などに他の児童から具体的な言葉を受け取るという方法です。本人公式サイトの著作紹介にも、この実践を記した書籍が掲載されています。

これは先生一人が全員を機械的に持ち上げる仕組みとは異なります。ほめる側の子にも、相手の姿を注意して見ること、目にした行動を正確に伝えることが求められます。ほめられる側だけでなく、観察して言葉をつくる側にも学びがあるという点が特徴です。

なぜ「話すこと」と「聞くこと」が中心なのか

ワークス研究所の本人取材によると、菊池が31歳のころ、子どもたちが人前で話すことに強い難しさを抱える学級を担当した経験が、コミュニケーション指導を重視する転機となりました。菊池は恩師の助言を受け、声を出すこと、話すこと、聞くことを年間の学習課題として組み立てました。

話す練習には、誰もが経験したことのある出来事を題材にする。聞く練習には、発表に耳を傾け、応答する態度を取り入れる。こうした段階を踏んだ取り組みが紹介されています。「ほめる」という行為だけを切り離してしまうと、子どもが安心して参加できる場を長い時間かけて整えるという実践の中心を見落とします。

安心できることと、必ず話せることは違う

本人は、互いを認め合い、言いたいことを言える関係性をつくることが、教科学習にも先立つ土台になると説明しています。しかし、誰でも人前で発言することが得意になるわけではありません。緊張の強さやその日の体調、障害や特性などは一人ひとり異なります。安心できる場をつくるための方法を、全員が同じ声量で発表することへの強制に変えてはならないでしょう。

実際の学校でこの方法を採用する際には、本人が参加方法を選べること、子どものプライバシーを守ること、無理に好意的な評価を言わせないことなども考慮する必要があります。これらは菊池が上記の取材ですべて明文化した規則ではなく、当サイトが教育実践を読者へ伝える際に付け加える留保です。

「ほめる」と「お世辞」の境界

相手が何をしたかを見ず、「すごい」「えらい」と言い続ければ、言葉の意味は薄くなるかもしれません。具体的な行動に目を向け、「さっき困っていた子に声をかけたね」「最後まで話を聞いていたね」と説明すれば、評価の理由が相手にも伝わりやすくなります。ただし、すべての振る舞いを逐一評価することが適切とは限りません。

誰かの存在を認めることと、その人の行動に点数を付け続けることは同じではありません。良くない行為が起きたときは、必要な境界を示し、被害を受けた人を守りつつ、何が起きたかを話し合うことも必要です。ほめる言葉を増やすという理念を、問題を見て見ぬふりをする口実にはできません。

職場や家庭へ応用するときの注意

職場でも、具体的な貢献を観察して言葉にすることは、互いの仕事を理解するきっかけになり得ます。しかし、子どもの学級で実践された方法を、そのまま大人の人事評価へ置き換えるわけにはいきません。仕事の評価には報酬や労働条件、公平な配置、異議を伝える権利も関わります。「ありがとう」と言われたから正当な対価が不要になるわけではありません。

家庭でも、子どもや家族をほめ続けることが義務になると、かえって疲れる場合があります。まずは相手の話を聞き、本人が何を大切にしているかを知ることから始めてもよいでしょう。「信じる」ことは、相手の行動にいつも同意することではなく、必要な助けや境界を用意しながら、考える力や意思を尊重することとも両立します。

別の言葉と接続する

同じ菊池省三に帰される「主張できることは自分らしさを発揮すること」という表現は、教室で安心して自分の意見を伝えるという問いにつながります。ただし、その短文の正確な出典も別に確認が必要です。「ほめる」を目的そのものにするのではなく、異なる考えを表現できる関係へつなげる、という視点で読み比べてください。

出典・確認範囲

出典状態:要検証。確認できたのは、名言一覧に短文が掲載されていること、ワークス研究所の本人取材に「ほめて、認めて、励ます」という異なる表現があること、本人・出版社の資料に「ほめ言葉のシャワー」の具体的な方法が示されていることです。未確認なのは、見出しの「褒めて認めて信じる」という短文の逐語的な初出と掲載ページです。実践の意義については本人の説明と当サイトの評価を分けています。

主要資料:リクルートワークス研究所・菊池省三本人インタビュー(2021年) / 明治図書・著者インタビュー(2015年) / 菊池省三公式サイト『小学校発!一人ひとりが輝くほめ言葉のシャワー』 / 流通表現を確認した二次一覧。出典状態については当サイトのガイドも参照してください。

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