菊池省三「主張できることは自分らしさ」|教室の対話と意見を伝える力

「主張できるっていうのは自分らしさを発揮できるということだ」。菊池省三の言葉として広まっている表現です。旧記事では、自分の信念を強く言えば人生が充実するという一般論として解説していました。しかし、教育現場における「主張」には、相手の話を聞くこと、自分の考えを言葉にすること、異なる意見を持つ人と関係を続けることが伴います。菊池が実際にどのような授業を構想したのかへ戻ります。

短い流通文言の出典は未確定

菊池省三の名言を掲載する二次的な一覧には、この短文が本人の言葉として載っています。しかし、元となる本のページ、番組や取材日時、前後の文脈を特定できませんでした。以下で紹介する本人取材や著書には関連する考えが記されていますが、短文そのものの逐語的な原典が確認できたわけではありません。出典状態は「要検証」とします。

言いたいことを言える教室は、自然に生まれない

リクルートワークス研究所の2021年の本人取材によると、菊池は31歳のとき、子ども同士の関係が冷え切り、うまく話せない児童もいる学級を担当しました。そこで指導の柱にしたのは「声を出す」「話す」「聞く」という三つの活動でした。はじめから堂々と主張できる子だけが評価される教室をつくったのではありません。

誰もが参加しやすい題材を使って話す経験を増やすこと、相手の話を聞き、応答する姿勢を確かめること、話した内容をからかったり無視したりしない雰囲気を整えること。そうした小さな実践が、意見を持っていても口に出せない子を支える土台になると考えられます。これは上記の取材を踏まえた当サイトの整理です。

「主張する」と「声が大きい」は同じではない

発表が得意でなくても、自分の考えを持ち、書いたり、少人数の相手へ伝えたりする方法があります。意見を言う力を、声量や話す速さだけで測るなら、慎重に考える子や、その場で言葉がまとまりにくい子の経験を見落とします。

一方、言葉にする機会をまったく持てない環境にも問題があります。誰かが発言を独占している、違う意見を言うとからかわれる、質問が許されない。そのような場では、主張できない原因を個人の勇気不足だけに押し付けるべきではありません。周囲の関係を整えることと、一人ひとりの表現方法を増やすことは、切り離せない課題です。

2020年の本人取材に見る「違う意見」との対話

明治図書の2020年3月5日の著者インタビューで菊池は、コミュニケーションを温かな人間関係と捉えると説明しています。また、ディベートが難しい理由を、異なる考えを持つ人との対話そのものが難しいからだと述べ、議論を言葉のキャッチボールとして楽しむ姿勢を重視しています。

これは単に反対意見を打ち負かす訓練とは異なります。意見が違う相手に質問する、何を根拠に考えたのか説明する、相手の説明を聞いて自分の考えを調整する。自分らしく主張するとは、周囲を説得して勝つことだけではなく、自分の考えを他者と共有可能な形にすることでもあるでしょう。

教室の係活動にも「自分らしさ」がある

明治図書が公開する『菊池省三 365日の学級経営』の内容紹介には、菊池自身の文章として、係活動で自分らしさを発揮し、友達と議論・対話しながら学級全体に提案することが述べられています。係活動を、先生の指示で決まった役割をこなすだけの仕事ではなく、自分たちで提案して動く経験として捉えているのです。

たとえばクラスの本を読みやすく並べたいと考えた児童が、どう並べると便利かを友達へ提案する。その方法には複数の可能性があり、ほかの子の工夫から案を修正する場合もあります。具体例は当サイトが考えた架空の場面ですが、こうした活動なら、主張を「自己表現」と「共同生活の調整」の両面から考えられます。

意見を尊重することと、すべて受け入れることは違う

子どもが意見を持つことを尊重しても、その提案が必ず採用されるわけではありません。安全や公平さを欠く案もあれば、ほかの児童の権利とぶつかる案もあるでしょう。大切なのは、意見を出した人の存在を否定せず、提案の内容について議論できることです。

菊池の指導を紹介するときも、「どんな意見でも通す」と単純化する必要はありません。理由を説明する、反対する場合でも人格を攻撃しない、どうしたら実現可能かを探る。こうした対話の作法は、一人ひとりの考えを尊重することと両立します。これは当サイトによる教育的な解釈であり、引用文から自動的に証明される心理法則ではありません。

話すことを強制しない配慮も必要

誰かが話せないとき、「主張しなければ自分らしくない」と迫ることは逆効果になりかねません。心身の状態や障害・特性、家庭の事情、過去の経験によって、集団の前で話すことに困難がある場合もあります。すぐ発表できることだけを自立の証明にせず、紙に書く、少人数から始める、考える時間を持つなどの選択肢を用意する視点が必要です。

2021年の取材で語られた学級づくりの経験は、個人へ勇気を要求する話というより、話しやすい関係をどのように育てるかという問いにもつながります。意見を言える環境をつくる責任まで、発言の苦手な子へ負わせるべきではありません。

大人の職場へ応用する場合

職場でも、自分の見方を説明することと、別の部署の事情を聞くことは同時に必要です。提案が受け入れられなくても、何が検討され、なぜ別の判断になったかを確かめることには価値があります。しかし、子どもの学級の話を持ち込むだけで、組織の権限や上下関係、報復への不安が解消されるわけではありません。安心して発言できる制度や運用が伴わなければ、個人の努力だけでは限界があります。

「ほめる」と「主張する」は別の目的を持つ

同じ菊池省三を扱った「褒めて認めて信じる」の記事では、「ほめ言葉のシャワー」を通じて安心できる教室を整える実践を扱いました。本記事では、その先で子どもたちが自分の考えを表し、異なる意見と向き合う過程に焦点を当てています。共通しているのは、言葉を交わす前提となる関係づくりですが、読者が考えるべき問いは異なります。

出典と確認範囲

出典状態:要検証。未確認:冒頭の「主張できるっていうのは自分らしさを発揮できる」という短文の初出、本人の発言との逐語一致、発言が生まれた場面。確認済み:本人取材に、安心して発言できる学級を整えた経験と、異なる意見との対話を重視する説明があること。明治図書の著書紹介には、係活動で自分らしさを発揮するという本人の説明があること。短文の由来と、思想の関連資料は分けて扱っています。

資料:リクルートワークス研究所・2021年の本人取材 / 明治図書・2020年著者インタビュー / 明治図書『菊池省三 365日の学級経営』内容紹介 / 流通表現を確認した二次的な一覧。出典ステータスの読み方も参照してください。

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