岸田周三「プロフェッショナルとは持続する情熱」|2008年の言葉と成長

一流の料理人に求められるのは、強い情熱を一度持つことなのか。それとも、その熱意を日々の仕事に結びつけ、長く続けることなのか。東京のフランス料理店「カンテサンス」のオーナーシェフ、岸田周三は2008年のNHK番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』で、この問いに答えたと複数の放送視聴記録に残っています。ところが旧記事に掲げられた「維持する情熱」という表現は、当時の記録や後年の本人取材に現れる「持続する情熱」と一致しません。言葉を直し、その背景を確認できる資料から考え直します。

2008年のテレビ番組と「持続する情熱」

NHK出版『プロフェッショナル 仕事の流儀 岸田周三 若き求道者、未到の地へ』は、岸田を扱った番組回が実在し、書籍版が出版されていることを裏づける公式書誌です。一方、番組終盤の「プロフェッショナルとは」という問いへの回答全文は、この書誌の公開範囲では掲載されていません。

放送から間もない2008年2月の視聴メモや2008年の番組紹介ブログには、「高いモチベーション」と、その熱意を持続させることを結びつける答えが紹介されています。いずれも放送局の逐語字幕ではなく個人による記録なので、完全な書き起こしだとは扱えません。

ただし、後年のGQ JAPANの2017年取材記事も「持続する情熱」という表現を見出しに掲げ、岸田の仕事の姿勢を説明しています。旧記事の「維持する情熱」より、「持続する情熱」が確認できる形に近いと判断しました。出典状態は「意訳・文言変化」とし、テレビの逐語記録は未確定であることも明記します。

プロとして「維持」するのは、熱量だけではない

モチベーションの高い日は、誰にでもあるでしょう。新しい仕事を任されたとき、大きな目標が見えたとき、うまくいったとき。しかし長く続く仕事には、毎日が気分の高揚に満ちているわけではないという現実があります。岸田の仕事における「持続」の意味を考えるなら、熱量を一定に保つことよりも、その日の判断と行動を更新し続けることに注目できます。

2017年のGQの記事で岸田は、飲食の世界は変化が速く、料理がおいしくても飽きられ得ることに触れ、少しでも進化を重ねる必要性を語っています。定番の料理を磨き直すこと、慣れた調理法でも改めて意味を問い直すことが重視されているのです。

「昨日の正解」に、今日も従う必要はない

優れた料理を作るには、長く続けてきた技術が重要です。しかし、技術を学んだ当時から食材の流通や調理設備が変わっていれば、同じ作業を繰り返すだけが最善とは限りません。岸田は朝日新聞GLOBE+の2021年の取材で、現代の条件でも昔の調理法を続ける理由があるか、と自問する姿勢を紹介されています。

伝統を否定することと、伝統を理解したうえで必要なものを選び取ることは異なります。意味がある技法は残し、状況が変わった部分は見直す。このような判断の積み重ねを考えると、情熱が「同じことを変えずに続ける意志」だけではないことが分かります。

フランスでの修業と「自分から求める姿勢」

朝日新聞GLOBE+の同記事は、岸田が若いころに渡仏し、仕事を探しながら経験を積んだ過程を紹介しています。最初から希望どおりの場所に勤められたわけではなく、学べる機会を探し、仲間からの信頼を得て仕事の場を広げていきました。

その歩みを単純な苦労礼賛へ変えるべきではありません。厳しい労働環境に耐え抜けば誰でも一流になれるという公式はありませんし、労働条件の問題があれば改善が必要です。ただ、岸田自身のキャリアには、学ぶ相手や課題を自分から探し続ける行動が見られることは、確認できる記事から言えます。

「与えられた仕事」だけで終わらせない

『致知』2022年5月号の岸田周三と米田肇の対談紹介では、岸田は、頼まれたことをこなすだけでなく、周囲が助かる仕事を率先し、挑戦したいことを自ら求める姿勢について話しています。

この言葉は、業務量を無制限に増やせという指示として読むべきではありません。現場で何が必要かを見て、自分の判断と工夫を仕事に持ち込むことが大切なのでしょう。仕事を続ける人ほど、「何を任されたか」と同時に、「何を改善できるか」を考える場面が増えます。

品質を一定に保つことと、進化すること

レストランでは、毎回別の料理を作れば顧客が喜ぶとは限りません。期待される基本の品質を守る必要もあります。他方、昨日と同じやり方に安住すれば、新しい食材や条件に対応しきれないかもしれません。維持と変化は矛盾するようで、優れた結果を続けるためには両方が必要です。

2022年の飲食店ドットコムの本人取材では、料理人として長く働き続けるために何を目指し、次世代の料理人へどう仕事の魅力を伝えるかも語られています。一つの店の成功が終点ではなく、その後にどんな仕事をするかという問いが続いていることが分かります。

情熱は、いつでも同じ強さでなくてよい

「持続する情熱」を、年中休まず働き続けることや、疲労を見せないことだと解釈するのは危険です。体調が悪ければ休む必要がありますし、生活の事情で目標に割ける時間が変わることもあります。好きな仕事でも、楽しさが薄れる日や方向を見直したい日はあるものです。

長く取り組むためには、仕事の質だけではなく、働く環境、役割分担、適切な休息も重要になります。これは岸田の発言を引用したものではなく、当サイトが「持続」という言葉を現代の働き方へ応用する際に欠かせない留保です。

一人の天才の物語だけで、店は続かない

レストランには調理場のほか、サービス、仕入れ、予約、清掃など多くの仕事があります。一人の料理人の情熱が品質づくりに関わるとしても、店全体の継続は仲間の働きや顧客との関係によって支えられます。

BS朝日「自分流」2023年の岸田密着回の公式説明には、カンテサンスが過去の来店履歴、料理、食べられない食材などを記録し、予約が入ると顧客に合わせた料理を検討する様子が示されています。顧客の経験を更新する仕事は、複数人で続ける仕組みを必要とします。

これも「情熱」だけで片づけられない、地道な実務です。記録を残し、次に生かし、スタッフが共有する。料理人の創造性を支えるのは、才能だけではなく具体的な運営の工夫でもあります。

一流の意味を「受賞歴」に限定しない

カンテサンスが高い評価を継続してきたことは、複数の取材で確認できます。しかし、星の数や受賞だけで、その人の仕事すべてを語ることはできません。名声は外から付く評価であり、当人が日々何を見直し、何を学び続けるかは別の問題だからです。

2017年のGQ取材では、常に最前線であろうとする仕事の姿勢に焦点が当てられています。何か一つの称号を獲得した時点で満足しないことは、長く続けるための一つの考え方でしょう。だからといって、他人にいつも最高の評価を目指すことを義務づけるものではありません。

働く人に引き寄せるなら、何を問い直せるか

自分の仕事で考えるなら、昨日より少し良くできる部分は何か、当たり前になっている手順に理由があるか、ほかの人が困っていることはないか、と問うことができます。大きな改革でなくても、毎日の判断を言葉にして残せば、次の人が改善のきっかけをつかめるかもしれません。

一方で、改善を続ける責任を個人の「やる気」だけに押し付けないことも大事です。必要な知識を学ぶ時間が与えられず、働く環境が整っていなければ、改善の芽は育ちにくくなります。情熱を支える仕組みも、持続の一部と考えたいものです。

関連記事:小さな楽しみと成長

岸田周三の「小さな達成を楽しむ」とされる別の記事では、日々の作業のなかで進歩の手応えを見つけるという、継続のもう一つの側面を扱っています。今回の記事では、2008年の番組に由来する「持続する情熱」という表現の検証と、その後の本人取材から見える姿勢に焦点を絞りました。

確認できた事実と未確認の部分

出典状態:意訳・文言変化。NHK出版の公式書誌で岸田周三を扱った『プロフェッショナル 仕事の流儀』の回を確認しました。2008年の視聴記録では「持続する情熱」という語が複数見られ、2017年GQの本人取材記事も同じ言い回しを見出しに掲げています。旧記事の「維持する情熱」という字句はこれらの資料と一致しないため修正しました。未確認なのは、NHK放送の完全な逐語字幕と番組内の正確な間・助詞・抑揚です。

資料:NHK出版・番組書籍の公式書誌 / 2008年の番組視聴メモ(二次資料) / GQ JAPAN・2017年の本人取材 / 致知出版社・2022年の対談 / 朝日新聞GLOBE+・2021年の取材 / BS朝日・2023年放送内容。

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