はじめに――金メダリストは「優勝より過程」を語った
記録を追う競技の頂点に立った選手なら、何よりも勝利を大切にしているはず。そう思いがちですが、**競泳選手ケイティ・レデッキーが2025年のスタンフォード大学卒業式で語ったのは、表彰台よりも日々の取り組みを愛するという考え方**でした。
この演説の英語の一節は「Fall in love with the process, not the podium」。当サイトの説明訳では「表彰台ではなく、その過程を好きになろう」です。**優勝を軽視しているのではなく、他人との順位で自分の取り組みの価値を決めない**という意味に近いでしょう。
原典は2025年6月15日のスタンフォード大学第134回卒業式での本人の講演全文です。大学が実際に届けられた発言として公開しています。**水泳の技術論だけでなく、努力・成果・人とのつながりをどう考えるかという人生の話**として読み解きます。
15歳のオリンピックで、なぜ周囲の予測に従わなかったのか
レデッキーは2012年ロンドン五輪、15歳で初めての金メダルを獲得したレースを振り返っています。経験豊富な選手との対戦を前に、指導者は興奮して前半から飛ばしすぎないよう助言しました。ところが本人は序盤から先頭に出て、そのまま泳ぎ切ったと語っています。**この逸話を使って、若く無名であることがかえって強みになる場面を伝えました**。
しかし、指導者を無視することが正しいという教訓に単純化してはいけません。レデッキー自身も、周囲の助言に耳を傾ける必要があると述べています。そのうえで、自分の状態や可能性を自分で判断することの重要性を語りました。**専門家の助言を尊重することと、自分の感覚に責任を持つことは両立します**。
仕事でも、実績が少ない人に「まだ早い」と声がかかることがあります。それが安全を守るための助言なのか、従来の常識にすぎないのかを見極める必要があります。**勢いだけで突っ走るのではなく、準備したうえで前に出る機会を逃さない**ことが、この話の使いどころでしょう。
勝利という比較より、自分の記録を追う
演説で彼女は、自分が設定する目標は勝利そのものではなくタイムだと説明しています。誰かより上の順位を取ることは、どうしても相手の実力や状況に左右されます。**一方、自分の泳ぎを磨く目標なら、今日の練習から改善できる**という違いがあります。
例えば、営業で一位になることを目指す人も、他人の成績ばかりを見ていると焦りが増えるかもしれません。準備した提案の質や、顧客の課題を理解する力など、具体的な行動目標も持てば成長を確かめやすくなります。**外部の順位だけでは見えない自分の努力を、測れる形にする**のが工夫のポイントです。
もちろん、競争が不要だという話でもありません。レデッキー自身、勝つ喜びを認めています。しかし順位を唯一の尺度にしないことで、結果が出ないときにも改善を続けられます。**勝利は大切な成果であっても、取り組み全体の価値を判定する唯一の審判ではありません**。
「26,000マイルの練習」が教えること
レデッキーは演説の中で、これまでの水泳練習で泳いだ距離を約2万6000マイルと見積もっています。一方で、オリンピック決勝で泳いだ距離を積み上げると数マイル程度だと説明しました。**華やかな舞台を成立させているのは、観客のいない時間の圧倒的な積み重ね**なのです。
ただし、数字だけを見て「長時間練習すれば成功する」と結論づけるべきではありません。質の低い練習を続ければ体を傷める可能性もあります。長い年月の中では、指導や休養、技術の調整、チームの支えも必要です。**大切なのは努力の長さを誇ることではなく、目標に向けて過程を育てること**でしょう。
毎日少しずつ本を読む、書いた文章を推敲する、企画を試す。一回の成果だけではなく、一つひとつの行動が力をつくります。**記録に残る瞬間を待つあいだにも、本人の中で成長は進んでいる**という見方が、長期的な挑戦を支えます。
レデッキーが語る「時間」と支えてくれる人々
この演説は技術やタイムの話だけで終わりません。彼女は東京大会のあるレースで思うような結果が出ず、次の長距離種目まで短い時間しかなかった場面を語りました。不安が強いときに思い浮かべたのは、家族、とりわけ祖母たちの存在だったそうです。**自分一人で戦っているように見える競技にも、人から受け取った力がある**ということです。
結果を出した人の名言は、しばしば「自分を信じればできる」という一文に縮められます。しかし演説全文には、家族、指導者、仲間の存在が繰り返し現れます。**自己信頼と他者への感謝を切り離さないことが、この講話の強さ**だと感じられます。
失敗と継続の関係をさらに考えるなら、マイケル・ジョーダンが失敗について語った言葉、コナン・オブライエンが挫折後の進路を語った演説も参考になります。**競技の結果、仕事の結果、人生の満足を区別して読むと、言葉の適用範囲が見えてきます**。
まとめ――表彰台のない日にも意味はある
ケイティ・レデッキーが2025年の卒業式で伝えたのは、目標を持つことをやめようという話ではありません。**高い目標があるからこそ、それを支える日々の過程に目を向けたい**という提案です。メダルを得ることと、競技を好きでいられることは、両方大切にできます。
まずは、他人との順位とは別に、自分が磨きたい力を一つ具体的に決めてみましょう。そこへ向かう習慣をつくり、必要なときは助言を求めます。**結果が見えない日にも続けられる仕組みがあれば、長い挑戦を少し楽しくできます**。
出典はスタンフォード大学公式「Don’t be afraid to take the lead」(2025年6月15日)です。大学が公表した本人の講演全文を確認し、短い英語の一節以外は独自の日本語説明で構成しました。**演説全文や既存の翻訳文は転載していません**。