都会の喧騒から

考えるための言葉と、働くための知恵を。

ホアキン・フェニックス「自分も問題の一部だった」|2020年BAFTA受賞スピーチの意味

はじめに――受賞した本人が語った反省

賞を受け取った人は、喜びや感謝を語ることが多いものです。しかし、その場に立つこと自体が、ほかの誰かに開かれていない機会の証拠かもしれないとしたら、何を伝えるべきでしょうか。ホアキン・フェニックスは2020年の英国アカデミー賞(BAFTA)受賞スピーチで、映画業界の不平等に言及し、本人も十分な行動をしてこなかったと認めました。

短い英語の表現は「I’m part of the problem」。日本語では「自分も問題の一部だ」という意味です。誰か一人を悪者にして終わるのではなく、自分が利益を得てきた仕組みを考えるという姿勢が印象的です。

発言は2020年2月2日、映画『ジョーカー』で主演男優賞を受賞した際のものです。BAFTAは本人のスピーチ全文を公式サイトで公開しています。噂の名言や別の年のアカデミー賞スピーチとは区別し、当日の発言を主催団体の記録で確認します。

感謝と違和感を同時に語った理由

フェニックスは受賞を光栄に思い、これまでの支援に感謝すると述べました。その直後、実力のあるほかの俳優には同じような機会が開かれていないことを思うと葛藤があると語っています。個人としての喜びを認めながら、業界全体の公平さを問うという構成でした。

演説では、有色人種の俳優に対して、業界が歓迎していないというメッセージを送っているのではないかと指摘しました。これは本人が2020年当時のBAFTAや映画業界について示した批判です。賞の候補者の顔ぶれだけで、すべての構造的な問題を証明できるわけではありませんが、機会の偏りを問い直すきっかけになります。

ここで大切なのは、選ばれなかった人たちの能力を単純に推測しないことです。作品や演技の評価にはさまざまな要素があります。一方で、出演機会、制作資金、候補に挙がるまでの過程に偏りがないかは検討できます。選考の最終結果だけでなく、その前にある仕事の入口にも目を向けるという問題です。

「自分も問題の一部」とはどんな責任か

フェニックスは、自分が問題から無関係な立場にいるふりはしませんでした。自身が出演してきた映画の現場を、より多様な人が参加できる場所にするために十分な力を尽くしてこなかったと認めています。他人を批判する前に、自分が持つ影響力の使い方を振り返るという態度です。

ただし、一人の俳優が作品の採用や資金調達のすべてを決められるわけではありません。責任には立場に応じた範囲があります。できることとできないことを正確に区別したうえで、変えられる部分を見つけることが、実践的な受け止め方です。

仕事の場でも、全体の問題を知っていながら「自分の担当ではない」と考えることがあります。もちろん本当に権限がない場合もあります。それでも、情報を共有したり、改善案を出したりできることはあるかもしれません。責任を引き受けるとは、すべての罪を背負うことではなく、役割に応じて行動を見直すことです。

多様な顔ぶれだけでは十分ではない

演説では、見た目に多様な人がいる映画現場をつくることだけが解決策ではないとも述べています。フェニックスは構造的な人種差別を理解するため、より地道な努力が必要だと語りました。人数や写真で確認できる多様性と、仕事の分担や発言権まで含めた機会の公平さは、同じことではありません。

例えば、同じ会議室に異なる背景の人が集まっていても、重要な決定を常に同じ人だけが行っているなら、参加のあり方には改善の余地があります。人材を採用するだけでなく、提案が聞かれ、成長する機会があるかも考える必要があります。参加した後に何ができるかという視点が欠かせません。

一方で、こうした問題を一つの標語で解決できるとも言えません。組織の規模や職務、法律などに応じた具体的な検討が必要です。よい理念を掲げることと、その理念を制度や日常の行動へ移すことを区別して確認するべきでしょう。

自分の仕事に引きつけて考える

まず、仕事の成果が誰の協力によって成り立っているかを振り返ります。自分が目立つ役割であっても、支える人の仕事が見えにくい場合があります。成果の背景にいる人を認めることは、個人の努力を否定することではありません。

次に、仕事を頼むときの候補者が固定化していないかを考えます。実績のある人へ任せる合理性はありますが、最初の経験を積む機会がなければ、ほかの人の実力が見えないままになることもあります。評価の基準を明確にし、能力を示せる入口があるかを確かめるという方法です。

事実を確認したうえで周囲へ働きかけるという点では、トム・ハンクスの真実と無関心に関する卒業式演説も参考になります。仕組みを変える発想はフランシス・マクドーマンドの「インクルージョン・ライダー」と読み比べられます。個人の反省から組織の改善へつなげる視点が共通します。

まとめ――批判から自分の行動へ

ホアキン・フェニックスの2020年BAFTA受賞スピーチは、不公平への怒りだけを語ったものではありません。自分自身も十分な行動をしてこなかったと認め、恩恵を受けてきた仕組みを変える責任へ話を進めたところに特徴があります。

自分が何を変えられるかは、立場や状況によって異なります。それでも、関係者の声を聞き、機会が偏る理由を調べ、行動を少しずつ修正することは検討できます。自分には問題がないと言い切るより、学び直す余地を残す態度が、変化の出発点になります。

原典は英国アカデミー賞BAFTAの2020年2月2日付公式受賞スピーチ全文です。本人の短い一節だけを引用し、演説全文や第三者の翻訳を転載せず、固有の日本語解説として構成しました。

ほかの記事を探す

人物や作品を詳しく読むなら、それぞれの一覧へ。仕事の記事は分野から選べます。キーワードで探したい場合は、下の検索欄をご利用ください。

記事の記述・出典に誤りや疑問点がありましたら、お問い合わせから該当記事のURLと確認できる資料をお知らせください。内容を照合し、必要に応じて訂正します。

編集方針と運営者について →