はじめに――成功のルールを誰でもまねできるのか
「成功するには何をすればいいのか」。筋肉を鍛える方法から仕事の進め方まで、答えを探す人は多いものです。俳優で元カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツェネッガーは、2009年の南カリフォルニア大学卒業式で、自分なりの成功の六つのルールを語りました。
なかでも印象的なのは、最後に「Give something back」と呼びかけたことです。ここでは「得たものを社会へ還元しよう」と説明します。成功を自分の利益だけで終わらせず、周囲に何を返せるかまで考えるという言葉です。
この演説は2009年5月15日のUSC全学卒業式で行われました。大学公式の当日記事が六つのルールを明示し、同時代の新聞にも演説の全文記録があります。後世の短い自己啓発動画ではなく、大学の当日記録を起点に読みます。
まず自分を信じ、必要なら慣習を疑う
一つ目の助言は「自分を信じる」です。彼はオーストリアで育ち、ボディービル、映画、政治という異なる分野で活動してきました。他人が不可能だと考える選択に取り組むため、自分の進みたい方向を見失わないことを重視したのです。
二つ目は「ルールを破れ」。ただし、本人は演説で法律を破るように勧めたわけではありません。固定観念や、誰もが従うべきだと思い込んでいる慣習に疑問を持つという話です。法令や他人の権利を無視することと、前例を疑うことはまったく異なります。
仕事でも、長年続いてきたやり方が今も最善とは限りません。変える理由を調べ、小さく試し、結果を比較することはできます。自分を信じるとは自分の考えを無条件に正しいと決めるのではなく、検証する勇気を持つことだと考えられます。
失敗を恐れず、否定的な声と付き合う
三つ目は「失敗を恐れないこと」です。挑戦すれば、期待した成果が得られない場合もあります。結果が分からないから何もしないのではなく、失敗したときに何を学べるか考えて動くという助言でしょう。
四つ目は、否定的な人々の声に振り回されないことです。ただし、人からの批判がいつも間違っているわけではありません。技術的な問題や安全面の指摘には耳を傾ける必要があります。「どうせ無理だ」という決めつけと、具体的な改善に役立つ助言を区別するのが現実的です。
例えば新しい仕事を始めるなら、必要な知識や費用を調べ、試行期間を決める方法があります。希望を持つことと危険を無視することは別です。前向きな姿勢を保つほど、判断材料を集める慎重さも欠かせません。
努力を重視する言葉の限界
五つ目のルールは、懸命に働くことです。シュワルツェネッガーはトレーニングにも俳優業にも多くの時間を費やしたと振り返りました。理想を語るだけでは技能は身につかず、反復して練習する必要があるという経験に根ざしています。
一方、演説には睡眠時間に関する「もっと速く眠ればいい」という冗談も登場します。これは卒業式の笑いを誘う表現であり、睡眠を削る健康上の助言と受け取るべきではありません。努力する時間の長さだけで成功を決めず、休息と健康を維持できるかも考える必要があります。
さらに、努力の成果には本人の能力だけでなく、育った環境、機会、周囲の支えも関係します。誰もが同じ時間と資源を使えるわけではありません。努力を尊重することと、成果の差をすべて努力不足で説明することは違います。
最後のルール「恩返し」を仕事へ持ち込む
六つ目は、自分が得たものを社会へ返すことです。彼は学校の放課後活動やスポーツに関わってきた経験を語り、人を助ける活動が自分自身の満足にもつながったと説明しました。成功したからこそできる支援を考えることも、仕事の延長にあるという価値観です。
仕事が軌道に乗った人なら、若い人へ経験を伝えたり、地域の活動へ時間を使ったりできます。資金や知名度がなくても、困っている人の質問に答えることはできるかもしれません。誰かの機会を増やす行動は、大きな寄付だけに限られません。
行動に移すという点ではションダ・ライムズの「夢見る人より行動する人に」が、他人への貢献という点ではリアーナの「見返りを求めず一人を助けよう」が参考になります。個人の成長と社会への貢献を切り離さずに考えられます。
まとめ――六つのルールを自分に合わせて使う
シュワルツェネッガーの六つのルールは、すべてを実行すれば誰もが同じ成功を手にするという保証ではありません。本人もこれらは自分のルールであり、当てはまるかどうかは人によると説明しています。憧れの成功者の方法を、そのまま唯一の正解にしないことも大切です。
自分の目標を確かめ、慣習に疑問を持ち、挑戦と改善を繰り返し、無理なく学び続ける。そして機会を得たら誰かのためにも使う。結果だけではなく、どのように働き、誰と成長するかまで含めて成功を考えることができます。
原典は南カリフォルニア大学の2009年5月15日付式典記録、補助資料はロサンゼルス・タイムズ掲載の当時の演説全文です。原文の短い句だけを引用し、演説全文を転載せず、独自の日本語で説明しました。