はじめに――夢を見るだけでは何が足りないのか
「もっと夢を持とう」と励まされても、日々の生活に追われていると、夢を考えるだけで疲れてしまうかもしれません。歌手ドリー・パートンは2009年のテネシー大学卒業式で、夢を描くことに加えて、学ぶこと、他人を思いやること、成長することを大切にしようと語りました。
その核となったのは、本人の財団でも用いられてきた「Dream more, learn more, care more, be more」という四つの短い言葉です。ここでは「もっと夢見て、学び、思いやり、成長しよう」と説明します。目標だけを大きくするのではなく、行動や他者との関係まで広げて考える表現です。
演説は2009年5月8日、米国テネシー大学ノックスビル校の芸術科学部卒業式で行われました。大学が当時の式典を報じた記事と公式映像が残り、本人の公式サイトも、のちにこの講話が書籍へ発展したことを説明しています。出所を特定できる言葉として、四つの要素を一つずつ読み解きます。
「もっと夢を」――誰かの基準だけで決めない
パートンはテネシー州東部で育ち、歌手として活動することを夢見ていました。しかし周囲の人すべてが、同じ未来を思い描いていたわけではないでしょう。夢を持つとは、周囲の期待から独立して、自分が何に関心を持っているのかを確かめることでもあります。
ただし、大きな夢を掲げれば必ず実現するという意味ではありません。仕事や進学に必要な条件を調べ、今できる行動へ分けて考えることも欠かせません。願うことと計画を立てることは、互いに補い合う別の作業です。
また、自分の夢がまだはっきりしないときに、無理に立派な目標をつくる必要はありません。何を楽しいと感じるか、どんな活動を続けたいかを少しずつ確かめられます。今の関心を育てていくうちに、新しい夢が見つかることもあるのです。
「もっと学ぼう」――読書を支援する理由
パートンは卒業式で、学ぶことは挑戦と努力を伴うと話しました。彼女が長く関わってきた活動の一つに、幼い子どもたちへ本を届ける「イマジネーション・ライブラリー」があります。学ぶ機会は本人の意欲だけでなく、本に出会える環境にも支えられるという考え方が見えてきます。
同大学の2009年の記事によると、この取り組みは1990年代に地元で始まり、のちに地域を越えて広がりました。幼児期に家庭へ本を届ける仕組みは、子ども本人だけでなく周囲の大人にとっても読書に触れるきっかけになります。知識を得るための入口を社会が整えることにも意味があるのです。
一方、たくさん読めば自動的に学力が向上すると断言するには、具体的な研究や評価が必要です。ここで確認できるのは、パートンが読書の機会を広げる活動を行ってきたということです。活動の存在と、その教育効果の大きさを同じものとして扱わないようにします。
「もっと思いやろう」――自分の成功を他人へつなぐ
四つの言葉の三つ目は「care more」。他人の状況に関心を持ち、できることを考えようという意味です。パートンは自身の成功を背景に、教育を支える財団の活動を続けてきました。成功を個人的な成果にとどめず、別の人の機会を増やすことに使うという視点です。
思いやりとは、相手が頼んでいないことを勝手にすることではありません。たとえば学習を助けたいなら、何に困っているのかを聞き、本人が望む方法を確かめる必要があります。助ける側の満足より、受け取る側にとっての価値を優先することが大切です。
また、自分の時間や生活を犠牲にし続ける必要もありません。無理なく関われる範囲を決め、必要なら適切な団体や専門家につなぎます。思いやりを長く続けるために、支える人自身の生活も大切にするという考え方が役立ちます。
「もっと成長しよう」――四つを循環させる
最後の「be more」は、ただ肩書や収入を増やそうという言葉ではありません。学びと挑戦を重ね、他人への関心も深めながら、自分の可能性を育てようとする意味として読めます。成長を他人との順位だけで測らず、過去の自分から何が変わったか考えることができます。
例えば新しい分野へ関心を持ったら、まず一冊の本を読んでみます。学んだ内容を誰かへ説明し、相手の疑問から自分の理解を深める。夢、学び、思いやり、成長という四つの言葉は、別々の標語ではなく互いにつながる行動になり得ます。
身近な目標へ集中するという点ではティム・ミンチンの「小さな目標」、一人への支援の意味はリアーナの人道賞スピーチにも関連します。夢の大きさと日常の行動を両方見つめるための視点が得られます。
まとめ――四つの言葉を毎日の行動へ
パートンの2009年卒業式演説は、「夢を持つ人は必ず成功する」という単純な励ましではありません。夢を描くこと、学ぶこと、誰かを思いやること、自分を成長させることを一緒に大切にしようという呼びかけです。
四つのどれか一つだけが完璧ならよいわけでもありません。忙しいときには学びを小さくし、誰かの助けが必要なときには無理をせず頼る。自分の生活に合わせて四つの姿勢を少しずつ実践することから始められます。
一次資料はテネシー大学が2009年5月11日に公開した卒業式取材記事と同大学公式の卒業式演説映像です。本人公式サイトによる講話と2012年の書籍との関係も参照しました。歌詞や書籍本文を転載せず、短いスローガン以外は独自の日本語で説明しています。