はじめに|学んだ知識だけで世界を理解できるか
専門的な知識を身につけると、それを使って多くのことを説明できるようになる。しかし科学技術が社会でどう使われ、どんな不安を生むかは、専門家だけで決められない。日本科学未来館の科学コミュニケーターだった三井広大は、「自分自身を日々『更新』し続けることが大事だと感じています」と語った。知識を増やすだけでなく、物事を見る前提も見直すという姿勢だ。
この言葉は、新しい情報を片端から追いかけるという意味ではない。三井は研究室の外へ出て、来館者や異分野の研究者と対話する中で、以前の自分の視野の狭さに気づいたと説明する。知らなかった意見に触れ、自分の理解を改める経験が背景にある。
情報が多い時代ほど、すでに知っていることだけで結論を出したくなる。その習慣を変えるには、学ぶ姿勢と同時に自分の限界を認める姿勢が要る。自分を完成した存在として扱わないという意味を考えてみたい。
この名言の背景|日本科学未来館の対話の現場
科学技術振興機構のサイエンスポータルは2021年10月6日、日本科学未来館の科学コミュニケーターを取材した記事を公開した。三井は来館者との対話や、ロボット研究に関係するイベントに携わっていた。研究成果を分かりやすく伝えるだけでなく、社会と研究者の間に会話を生む仕事だった。
記事では、人間に似たアンドロイドをめぐり、工学、法律、哲学・倫理学の研究者が参加する企画が紹介されている。同じ技術を見ても、分野の違う人は異なる問題を考える。研究者同士の意見の食い違いさえ、新しい理解を得る手掛かりになるという場面だ。
その経験を説明した後、三井は大学時代には研究のことばかり考えていたが、未来館で視野の狭さに気づいたと述べた。そして自分自身を更新し続ける必要を感じると語った。発言は学習法の一般論ではなく、人と話す仕事によって考え方が変化した本人の記録である。
この名言が示す深い意味|意見が違うことを恐れない
他人と考えが違うと、どちらかが間違っていると思いがちだ。しかし扱う課題の種類が異なれば、同じ技術でも別の問題が見える。ロボットの性能を考える人と、社会での扱いを考える人では問いが違う。相手の答えを聞く前に、何を問題としているかを確かめることが重要だ。
また、以前の判断を修正することは、過去の自分を否定する行為ではない。知識が増え、社会の事情が分かれば、判断を変える理由が生まれる。考えを変えることを弱さではなく、新しい証拠や経験への対応と捉えるのが「更新」という比喩の意味だ。
もちろん、反対意見が存在すれば何でも同じ重みで扱うべきという話でもない。事実については証拠を確認し、価値観の違いについては背景を聞く。根拠を確かめる厳密さと、相手を理解する柔軟さを両立させることが必要になる。
この名言の現代的な解釈|AIの答えをそのまま正解にしない
生成AIは短い時間で多くの説明を示すが、文章が流ちょうでも正しいとは限らない。まず事実を確かめ、別の視点から見直す必要がある。便利な答えを受け取った後も、自分の理解を更新する役割は残るのだ。
仕事で担当分野が変わったときも、以前の成功方法が通用しない場合がある。そこで相手の話を聞き、条件が違う理由を探せば、使える知識と変えるべき方法を区別できる。過去の経験を持ちながら、その経験を絶対化しない姿勢が役立つ。
一方、新しい情報に触れるたびに判断を変えればよいわけではない。根拠が弱い噂に振り回されることもある。更新とは流行を追うことではなく、確かな理由を持って考え直すことだと理解したい。
この名言を日常生活で実践する方法|違う専門の人に聞いてみる
まず、自分が詳しいと思っているテーマについて、別の立場にいる人が何を気にするか尋ねてみよう。技術者なら利用者、作り手なら読み手、教える人なら学ぶ人の視点を聞いてみる。相手の意見をすぐ評価せず、どの問題を見ているか把握するのが第一歩になる。
次に、対話の後に自分の説明を一つ書き換えてみる。何を見落としていたのか、今までの判断を変える必要があるのかを区別する。違いが分からなければ、分からない点を残してもよい。一度の会話で完成した答えを得ようとせず、考え続ける余地を残すことが大切だ。
使う人の状況を深く理解する話として、高岡綾が人間中心設計を語った記事も読める。専門家の見方だけでは分からないことを、相手の経験から学ぶという点で、二つの言葉はつながる。
まとめ|日々の対話で自分の見方を変える
「自分自身を日々『更新』し続けることが大事だと感じています」は、JSTの2021年10月6日公開記事で、三井広大が日本科学未来館での経験について語った言葉だ。大学での研究中心の見方から、科学と社会をつなぐ視点へ変化した文脈を確認できる。
三井が語った「更新」とは、知識を捨てることではない。自分の専門を大切にしながら、異なる分野の研究者や来館者の見方を取り入れ、理解を広げることだった。変化に向き合うために、まず自分の視野の限界を認めるという姿勢がある。
違う意見を聞いても、必ず同意する必要はない。事実を確かめ、相手の立場を知り、そのうえで自分の考えを見直せる。専門性と柔軟性を一緒に育てることが、この言葉から得られる教訓である。