はじめに|協力は同じ言葉を話すことから始まる
多くの人が関わる仕事で、全員が同じ専門や経験を持っているわけではない。宇宙科学研究所の研究開発員、嶌生有理は、プロジェクトを進める上で「相手の立場を理解し、相手の言葉を理解しようとする姿勢が大切」だと語った。
この一節は、何でも相手の言い分に従うべきだという意味ではない。違う専門を持つ人と協力するために、相手が何を知り、何に困っているかを理解しようとすることだ。助ける側も助けられる側も、相手の事情を知る必要があるという観点がある。
同じ日本語を使っていても、部門によって用語の意味や仕事の優先順位が異なる場合がある。まして国際的な探査活動なら、文化や制度の違いもある。言葉が通じることと、意図が伝わることは一致しないという問題を考えたい。
もっとも相手を完全に理解できると思い込むのも危険だ。大切なのは分かったふりをすることではなく、まだ知らないことがあるという前提で問いかける姿勢だろう。
原典|JAXA「宇宙・夢・人」第188回
出典はJAXA宇宙科学研究所「宇宙・夢・人」第188回「つながってプラネタリーディフェンスへ」である。『ISASニュース』2026年1月号の内容を基にした公式インタビューに、嶌生有理本人の回答として当該文言を直接確認できる。
嶌生は国際小惑星探査計画HeraやRAMSESを支える仕事に関わり、プラネタリーディフェンスにも携わっている。これらの活動には複数の組織や専門家との協力が欠かせない。違う立場の人が共通の目的へ向かう現場から出た言葉だ。
本人はプロジェクトを進めるために大切なものを問われ、「他者理解と共感ではないでしょうか」と答えた。その後、相手を理解できなければ助けを求めることも、助けることもできないと述べる。発言は単なる礼儀ではなく、協働の実務に関わる説明として語られている。
さらに子どもの頃のボーイスカウト活動を振り返り、それぞれが役割を果たし、足りないところがあれば率先して動く経験にも触れている。専門知識の違いを越えて協力する姿勢を、日常的な経験にも結びつけているのが印象的だ。
深い意味|分かり合う前に確かめる
相手を理解するという言葉は、気持ちが分かったと思うことと混同されがちだ。しかし本人の言葉には「理解しようとする」という動きがある。分かったという結論ではなく、知ろうとする行為に価値があると読める。
助けを求めるときも、こちらの事情を一方的に説明するだけでは足りない場合がある。相手が何を判断でき、どの範囲なら動けるのかを知る必要がある。相手の責任や制約を知ることで、頼み方も具体的になる。
逆に誰かを助けるときは、本人が何を望んでいるかを確かめたい。良かれと思って支援しても、相手には不要かもしれない。支援の前に聞くことが、尊重の一部になるという視点がある。
ただし、共感することは全ての判断に賛成することではない。危険があれば止める必要があり、意見が違えば議論も必要になる。相手を理解しようとすることと、自分の判断を持つことは両立する。
現代的な解釈|専門が違うチームで働く
マーケティングと開発のチームでは、同じ言葉が違う意味で使われることがある。機能の完成を指す人も、利用者が使い始める状態を指す人もいる。同じ目標を共有しているつもりでも、何を指しているか確認することが大切だ。
異文化の人と活動する場合も、単語の訳だけでは十分でない。何を優先し、どのように合意を取るのかという仕事の進め方も異なる。相手の言葉の背景にある経験や制度を理解しようとする姿勢が助けになる。
家族や友人と意見が合わないときにも、まず相手に何が心配なのか聞いてみる。結論が違っても、何を大切にしているか分かる場合がある。すぐに説得へ向かわず、理由を聞く時間を持つ方法がある。
もちろん、相手の立場を理解するために自分だけが無理を重ねる必要はない。双方に説明する責任があり、助けを求める権利がある。他者理解が一方的な我慢になるなら、関係の作り方を見直すことも必要だ。
日常生活で実践する方法|相手の言葉を確かめてから動く
誰かに仕事をお願いするとき、何をしてほしいかだけでなく、相手が今どのような状況かを確認してみる。できることと難しいことを共有すると、双方にとって無理の少ない進め方を選びやすい。
会議で分からない専門用語が出たら、知っているふりをせず具体例を尋ねてみる。一つの言葉の意味を共有するだけで、その後の議論が変わることがある。基本的な確認は、知識不足の証明ではなく協働の準備だ。
助けようと思ったときは、まず相手が何に困っているかを本人に聞く。こちらの想像だけで動く前に、必要な支援の形を確かめる。「何が必要ですか」という問いから始めることができる。
異なる専門を持つ人をつなぐ役割については小川恵美子「プロジェクト全体を広く見渡すことができる」も参考になる。小川が全体を見渡す立場を、嶌生がそのための他者理解の姿勢を語っている。
まとめ|理解しようとすることから協力が始まる
嶌生有理の「相手の立場を理解し、相手の言葉を理解しようとする姿勢が大切」は、JAXA宇宙科学研究所の第188回公式インタビューで確認できる。国際的な探査に関わる本人が、協働に必要なことを問われた場面の言葉だ。
そこには相手の気持ちに同意するという以上の意味がある。何を助けてほしいか、何を支援できるかを知るために、相手の事情を聞くことが求められている。
専門も経験も異なる人が集まれば、すれ違いは起こり得る。しかしその違いを知らないまま進めるより、言葉と意図を確かめる方が建設的だ。共通の仕事を進めるための具体的な対話につながる。
相手を完全に理解したと思い込まず、必要なときは聞き直す。理解しようとする姿勢を続けることが、助け合える関係を育てる。