はじめに|知りたいことと作りたいことをつなぐ
夜空の星に興味を持つ人は多いが、星を調べるための道具を自分で作りたいと考える人は少ないかもしれない。JAXAで宇宙望遠鏡の開発に携わる高橋葵は、幼いころに抱いた思いを「自分でつくった望遠鏡を宇宙に打ち上げて研究したい」と表現している。
この言葉には、宇宙を理解することと、宇宙を理解するための道具を作ることが一緒に含まれている。知識を受け取る側だけでなく、知るための方法そのものを生み出したいという願いだ。
本人はその思いを一度も迷わず追い続けたわけではない。高校時代には宇宙を趣味にしようと考え、大学ではボート部の活動に夢中になったという。夢を持つことと、進路に迷わないことは別である。
やりたいことが複数あると、どちらかを諦めなければならないと思うことがある。けれど、互いに違う関心が一つの仕事へ結びつく場合もある。二つの好きなことをどう組み合わせられるかが、この言葉の中心にある。
原典|JAXA「宇宙・夢・人」第184回
出典はJAXA宇宙科学研究所「宇宙・夢・人」第184回「望遠鏡をつくり、打ち上げ、宇宙を見たい」である。高橋葵本人が、子どものころの進路への思いについて「自分でつくった望遠鏡を宇宙に打ち上げて研究したい」と語っている。
高橋は小学生のころから宇宙教育のイベントに参加し、すばる望遠鏡の製作者による児童書を読んだ経験を語る。そこから観測する研究者だけでなく、観測のための装置を作る人がいると知った。一冊の本が、職業の選択肢を具体的に広げたという文脈である。
高校ではいったん別の進路を考えたが、宇宙教育センターのプログラムに参加して考えが変わったという。その後、大学で光学の技術を学び、研究機関で望遠鏡や観測装置の開発に取り組んだ。一直線に進んだ成功物語としてだけ語られていない点が重要だ。
現在の本人の仕事には、赤外線位置天文観測衛星JASMINEの望遠鏡に関する光学設計も含まれる。ただし、本記事の中心は計画の技術紹介ではなく、研究したいという願いと、装置を作りたいという願いが一つになった言葉の意味である。
深い意味|研究する人が道具を作るという発想
研究では、既にある装置を使って測定することも、新しい装置を作って今まで測れなかったものを調べることもある。道具の性能が、知ることのできる世界の広さに関わる場合があるのだ。
高橋の発言は、ものづくりが研究の付属作業という見方を変えてくれる。望遠鏡の光学や温度変化への対策は、どんな観測が可能になるかと直接結びついている。作る過程そのものに、新しい知識を生む可能性がある。
一方、作りたいという思いだけで科学的な成果が得られるわけではない。装置が正確に動くか、得られたデータをどう解釈するかを検証する必要がある。制作の喜びと、測定の厳密さを両立することが研究の仕事だ。
また、一人ですべてを作るという意味でもない。宇宙望遠鏡には光学、熱、構造など、異なる専門の人が関わる。自分の得意な部分から全体へ参加し、協働して形にすることが重要になる。
現代的な解釈|好きなものを掛け合わせる
仕事を選ぶとき、好きなことを一つに絞らなければならないと思う人もいる。しかし人に説明することと技術を作ること、文章を書くことと情報を整理することなど、複数の関心が交わる仕事もある。どちらかを捨てず、二つが出会う場所を探す方法がある。
学校で理科を学ぶとき、既に知られた答えだけを覚えていると、研究の手触りがつかみにくい。身近な道具を作り、観察して、予想と違う結果を確かめる。学ぶことと試すことをつなぐことで、知識の意味が変わる。
ただし夢のある技術には費用や危険が伴うこともある。大きな装置を作るためには、細かな設計や長期の確認が必要だ。憧れを現実の仕事へ変えるためには、地道な工程を受け止める必要がある。
一度考えた進路を変えることは、必ずしも失敗ではない。高橋自身も別の活動へ熱中しながら、以前の関心に立ち返っている。寄り道で身につけた経験が、その後の選択に役立つ場合もある。
日常生活で実践する方法|二つの興味を一つの課題へ
自分が興味を持っているものを二つ書き出し、両方に関わる活動がないか探してみる。研究と工作、音楽とプログラミングなど、組み合わせはいろいろある。自分の関心を一つの分類へ押し込めず、接点を考えることから始められる。
少し試せることが見つかったら、小さな作品や実験で確かめてみる。思ったより難しかった部分は記録する。頭の中の理想を実際の工程へ変えると、次に学ぶべきことが明確になる。
以前好きだったことへ再び関心が向いたなら、過去に諦めた理由を一度見直してみてもよい。今は新しい方法や協力者がいるかもしれない。一度離れた道へ戻ることを、後ろ向きと決めつけない。
宇宙へ向かう学びの姿勢については諏訪理「今まで避けてきたことだからこそ」も参考になる。高橋は二つの興味を結びつける夢を、諏訪は苦手だと感じていた領域へ向き合う学びを語っている。
まとめ|夢と技術は一緒に育てられる
高橋葵の「自分でつくった望遠鏡を宇宙に打ち上げて研究したい」は、JAXA宇宙科学研究所の第184回公式インタビューに確認できる。子どものころに観測装置を作る仕事を知って抱いた願いだ。
ここから読み取れるのは、宇宙への憧れだけではない。世界を知りたい気持ちと、世界を知るための道具を作りたい気持ちを一緒に育てるという姿勢である。
実際の道のりには進路の変更や別の活動への没頭もあった。それでも学んだことを生かして、望遠鏡の開発に関わっている。一つの夢に向かう道が一本である必要はない。
やりたいことが複数あるなら、互いに関係のないものとして分ける前に考えたい。好きなことを組み合わせる場所に、自分らしい仕事の形があるかもしれない。