はじめに|減らすことと良くすること
機能が多い道具ほど便利だとは限らない。ボタンが並びすぎる画面では、何を押すべきか探すだけで疲れてしまう。ディーター・ラムスの「より少なく、しかもより良く」は、機能の数ではなく使う人にとっての本質を問う言葉である。
原語は「Less, but better」。響きがよいので、部屋を空っぽにすることや装飾をなくすことを勧める標語として使われる場合もある。しかし、少ないことだけを目指したら、肝心なものまで失いかねない。
この短い句を、家具だけでなくアプリやウェブサイト、毎日の仕事にも引きつけて読むことができる。何を削るかより先に、何のための設計なのかを確かめるところから始めたい。
出典|ヴィツゥが公開する10原則
ラムスと長年協働してきた家具メーカーのヴィツゥは、彼の「グッド・デザインの10の原則」を公式サイトで紹介している。第10原則の「純粋で簡素」に、原語「Less, but better」が明記されている。
英語版では「Good design is as little design as possible」と表題が付けられ、必要な面に集中し、余計なものを負わせないという趣旨が説明される。この一節は、独立した気分の標語ではなく、設計の責任を論じる原則の一部だ。
公式資料によれば、ラムスは1970年代後半に製品と社会の関係を問い直し、原則をまとめた。ただし、句が最初に発せられた日まで確定したものではない。確認できるのは、公式に示された原文と第10原則という位置づけである。
意味|少なさそのものは価値ではない
たとえばリモコンのボタンを減らしても、残ったボタンの意味が分からなければ使いやすくない。整理の成功は、単純に減った数ではなく、迷いが減ったかどうかで決まる。
見た目が整っていても、壊れやすく使い捨てが前提なら良いデザインとは言い難い。10原則には長寿命、細部への配慮、環境への責任もある。本質だけを残すとは、使い手にとって必要な品質を残すことでもある。
逆に高度な専門道具では複雑さが必要な場合もある。必要な操作を隠してしまえば、外観が簡素でも役に立たない。減らす判断には、使う人と目的の理解が不可欠なのだ。
現代の解釈|ウェブサイトや情報の整理
サイトのトップページに同じ強さの案内が十種類並べば、初めて来た読者は入口を選びにくい。まず読者がしたいことを想定し、見出しと導線に優先順位を付けるのが実践になる。
一方で、文字数を減らすために出典や注意点まで取り去るのは逆効果だ。理解や判断のために必要な情報には十分な場所を割くべきである。情報を少なく見せることと、読者の負担を軽くすることを混同しない。
建築という別の角度では、坂茂が語る「被災者の居住環境を改善することは建築家の役割」も参考になる。設計の中心を作品の外観ではなく、人の生活に置く点で対話が生まれる。
実践|残す理由を説明できるか
机の上の道具、スマートフォンの画面、仕事の定例会議から一つを選び、目的を一文にしてみる。目的が明確でなければ、何が余分なのかも決められない。
整理した後は自分だけで満足せず、実際に使う人に試してもらいたい。使い方の説明が短くなっても、操作に失敗する回数が増えたら失敗である。よくなったかどうかは利用者の行動で確認する。
そして、必要な機能を復活させる柔軟さも持つ。引き算は一度きりの儀式ではなく、試して修正する過程だ。「少なく」と「より良く」の両方を確かめ続ける姿勢が大切になる。
まとめ|本質を選び抜く責任
ラムスの一節は、簡素な見た目だけを称賛するものではない。使う人に必要な価値を見極め、余計な負担を取り除くという設計思想を表している。
何かを増やすときも減らすときも、理由を説明できるだろうか。少ないことを成果にするのではなく、より良い体験を成果にするという順番を忘れたくない。
原典確認:ヴィツゥ公式「グッド・デザインの10の原則」第10原則。同社英語版の「Less, but better」も照合した。出典タグ114:公式資料で原文と掲出箇所を直接確認。