「研究には、効率だけでは測れない側面があります」の出典
「研究には、効率だけでは測れない側面があります」。この言葉は、昆虫学者の前野ウルド浩太郎が、自身の研究とキャリアを振り返って語った一節です。2026年7月時点の肩書きを掲載した日本学術振興会(JSPS)の研究者インタビューに収録されています。効率化そのものを否定する言葉ではなく、遠回りを含む経験の意味について述べたものです。
前野は西アフリカのモーリタニアを舞台に、サバクトビバッタの行動や繁殖の仕組みを研究してきました。研究の成果が見えない期間や経済的な不安も経験しながら、フィールドワークを継続してきたと本人は説明しています。ここでの「効率」は、短い期間で成果にたどり着けたかどうかという尺度に近いものとして読めます。
記事末に示した本人インタビューでは、研究への思いや周囲の支援とともに、失敗や寄り道にも意味があったと述べています。研究で失敗することを奨励するスローガンではなく、未知のものを追う仕事を何で評価するかという問いとして、この言葉を受け止めたいところです。
砂漠でのフィールドワークには予測できないことがある
前野が取り組んだのは、アフリカで農作物に深刻な被害を与えることのあるサバクトビバッタの生態です。JSPSの本人インタビューによると、モーリタニアで9年間にわたりサハラ砂漠の野外調査を重ねました。研究対象が自然の中でいつ、どこに現れるかは、研究者の予定表に合わせて決まるわけではありません。
本人は現地で、バッタが発生せず研究を進められない時期や、言葉が通じない経験、収入の問題などにも直面したと語っています。研究室の中では整えられる条件も、野外では天候や生物の動きによって変わります。速さだけで調査の価値を決めると、観察の機会を待つという行動そのものが評価されにくくなる可能性があります。
それでも待つことが常に正しいとは限りません。安全の確保、費用の管理、地域の人々との協力など、研究を続けるために考えなければならない問題は数多くあります。予測できない出来事を引き受けることと、無計画に危険を冒すことは別。効率では測れない側面があるからこそ、何を記録し、何を改善するかを丁寧に考える必要があります。
一見遠回りだった発信活動が、研究を支えた
インタビューで前野は、研究以外に本を書いたり、ブログや講演で情報を伝えたりした経験も振り返っています。サバクトビバッタの問題は、日本では必ずしも身近な話題ではありませんでした。なぜ遠い国の昆虫を研究するのか、その社会的な意味を伝えることも、研究を続けるために必要だと感じていたのです。
2017年には著書『バッタを倒しにアフリカへ』が光文社新書から刊行されています。国立国会図書館の書誌には著者・出版年・シリーズ名が登録されています。ただし、本の出版そのものが野外研究の成果を直接証明するわけではありません。書籍は、研究の取り組みや現地での経験を広く伝える別の仕事として区別しておきます。
前野はこうした発信を通じ、自分の取り組む問題を多くの人に知ってもらい、応援が支えになったと述べています。すぐに論文の成果に結び付かない活動も、長い目で見れば研究を継続できる環境づくりにつながる場合があります。これは本人が振り返った経験であり、発信を増やせば誰もが研究職を得られるという因果の証明ではありません。
研究の成果は、どこで生まれるのか
JSPSの記録によれば、前野は野外での観察から、サバクトビバッタの雌雄が普段は離れて生活し、産卵前に交尾のため集まるという繁殖の特徴を明らかにしました。教科書の知識だけでは分からない行動が、現地で繰り返し観察することで見えてきた例として紹介されています。
多数の個体が産卵の際に集まり、数時間同じ場所にとどまるという発見も紹介されています。その性質が防除技術の開発に役立つ可能性がある一方、実験・観察の成果と、すでに現地で実用化された防除法の普及実績は同じではありません。記事では「期待される」と説明されている段階を、成果が確定したかのようには書けません。
こうした発見に至る過程では、最初から研究のすべての結果を知っていたわけではなかったはずです。未知の現象を相手にするなら、予想が外れることも情報になります。期待した答えが得られなかった経験を、次の問いへつなげられるかという視点が、単純な作業効率とは異なる研究の性格を表しています。
仕事や人生に応用するときに気を付けたいこと
仕事でも、目先の速度を上げることでかえって後からやり直しが増える場合があります。たとえば、顧客の困りごとを確かめずにシステムを作れば、完成後に用途が合わないと分かるかもしれません。始める前に話を聞く時間は、作業量だけ見れば寄り道に映っても、問題を正しく捉えるための時間になり得ます。
しかし、すべての遠回りに価値があると決めつけるのも危険です。改善できる不便や、減らせる無駄、避けられる危険はあります。効率を考えることと、効率だけで価値を決めないことは両立する。どの作業を短くし、どの観察や対話には時間をかけるのかを区別したいところです。
また、成果が出ない人へ「遠回りも大切だから我慢しろ」と命じるための言葉にしてはいけません。本人の研究が続いた背景には、支援制度や協力者が存在しました。努力する人にすべての責任を負わせず、挑戦を続けられる環境も考える。前野の語る研究と応援の関係を読むと、その点にも目を向けられます。
出典を確認して、研究を支える言葉へつなぐ
原典確認の根拠: 日本学術振興会「研究者インタビュー|前野ウルド浩太郎先生」の「未来の研究者へのメッセージ」に、本人の文章として「研究には、効率だけでは測れない側面があります」と掲載されています。掲載ページが明示する所属と肩書きは2026年7月時点のものです。発言者と前後の文脈を原典で確認できるため、出典確認済みとして扱います。
著書については国立国会図書館の書誌『バッタを倒しにアフリカへ』で2017年刊行を確認できます。この書誌は書籍の存在と刊行情報の資料であり、今回の短い言葉がその本に載っていることを証明する資料ではありません。言葉の出典はJSPSの記事に限定して表記しています。
研究を続けるための時間という観点では、北川進「時には待つことも支援だ」も読み比べられます。ほかの研究者の発言を探したい場合は科学者・発明家の言葉へ。何が研究の価値を生むのかを、研究者本人の言葉を出典へ戻して考える入口として役立ててください。