『長靴をはいた猫』ペロー原作のあらすじと結末|カラバ侯爵の嘘と二つの教訓

はじめに|1697年のペロー版を読む

『長靴をはいた猫』は、貧しい粉ひき職人の末息子が、賢い猫の働きで王女と結婚する物語です。愉快な動物の成功談として有名ですが、シャルル・ペローが1697年に刊行した本文では、猫は架空の身分を作り、農民を脅し、城の持ち主をだまして食べます。結末には二つの教訓も付されています。本稿は1697年版「Le Maistre Chat ou le Chat Botté」を中心に、場面と教訓を当サイト独自の日本語で要約・解説します。

あらすじ①|相続したのは猫だけ

粉ひき職人が亡くなり、三人の息子のうち長男は粉ひき場、次男はロバ、末息子は猫を相続します。末息子は暮らしていけないと嘆きますが、猫は袋と長靴を用意してくれれば運命を変えてみせると話します。主人から道具を受け取った猫は、袋を使ってウサギやヤマウズラを捕まえ、王へ贈り物として届けるようになります。

あらすじ②|猫が作った「カラバ侯爵」

猫は贈り物を差し出す際、送り主を「カラバ侯爵」と名乗ります。この侯爵とは猫が主人につけた架空の肩書きです。繰り返し獲物を届けて王の好意を得た猫は、王と王女が川のほとりを通る日に主人を水浴びさせます。そして溺れていると叫んで救助を求め、服を盗まれたと嘘をつきます。実際には猫が服を隠していました。王は立派な服を与え、身なりの整った末息子を馬車へ迎え入れます。王女も若者を気に入ります。

あらすじ③|農民への脅しと人食い鬼の城

猫は王の馬車に先回りし、草刈りや収穫をしている人々に、土地はカラバ侯爵のものだと答えるよう命じます。従わなければ切り刻むと脅された人々は、王に嘘を伝えます。猫は次に、その土地と城の本当の持ち主である人食い鬼を訪ねます。鬼がライオンに変身できると知ると、猫はもっと小さなネズミにも変われるかと挑発します。鬼がネズミになった瞬間に食べてしまい、城まで主人の所有物と偽ります。王は莫大な財産があると信じ、末息子はその日のうちに王女と結婚します。猫も高い身分を得ました。

第一の教訓|相続財産より才覚

ペローは物語のあとに韻文の「Moralité」を置きます。第一の教訓は、親から受け継ぐ豊かな財産も有利だが、若者には工夫と立ち回る能力がそれ以上に役立つことがある、という趣旨です。原文の「industrie」「sçavoir faire」を、一言で「努力すれば成功する」と訳し切るのは不十分でしょう。しかもこの物語では、計画を作り実行したのは末息子本人よりも猫です。「主人の才覚」なのか「助けてくれる存在の才覚」なのかも、読み直す価値があります。

第二の教訓|服装・容姿・若さの影響

1697年版には「Autre Moralité」という二つ目の教訓もあります。粉ひき職人の息子が王女の心を素早くつかんだのは、服装、顔立ち、若さが好意を引き起こすうえで必ずしも無関係ではないからだ、という趣旨です。猫が王から上等な衣服を手に入れさせる場面は、この教訓と直接つながります。現代的には、外見が相手の評価を左右することへの皮肉として読むこともできます。ただし、その解釈と原文に実際に書かれた内容は区別します。

長靴は魔法の道具なのか?

猫は最初に「袋と長靴」を求めますが、その長靴自体が願いをかなえる魔法の道具として描かれるわけではありません。ペローの本文には、ライオンになった鬼に驚いた猫が屋根へ逃げたとき、瓦の上では長靴がかえって邪魔だった、という細部があります。猫が人間のように装う面白さと、動物としての身のこなしがぶつかる場面です。

なぜ、猫の成功を手放しで喜べないのか

猫は王へ贈り物を重ね、主人の信用を作り、上等な服を着せ、土地と城の所有権まで演出します。しかし、その過程には嘘、脅し、偽装、鬼への策略が含まれます。王も、財産があるように見える若者を好意的に扱い、農民たちは猫の脅迫によって口をそろえています。物語を単なる「知恵の勝利」と読むだけでは、誰が得をし、誰が不利益を負ったのかという問いが残ります。現代の仕事に引き寄せるなら、相手の心理を読む工夫と、他人を欺く行為は分けて考えるべきでしょう。

ペローはこの話を最初に作ったのか

ペローの1697年刊本が本記事の主な対象ですが、似た構造を持つ物語はそれ以前のヨーロッパの文学にも見られます。英国図書館が公開する研究論文は、ペローの刊行と、先行する物語素材との関係を検討しています。古い類話の存在から、現代に知られる細部のすべてが先行作品に備わっていたと断定することはできません。どの版の記述かを明示して比較することが重要です。

まとめ|才覚と欺瞞が隣り合う物語

『長靴をはいた猫』は、貧しい末息子が思いがけず富と地位を得る話です。けれども1697年のペロー版では、その成功は猫の巧妙な嘘と脅しに支えられています。末尾の二つの教訓は、相続財産と才覚、そして外見と好意の関係をそれぞれ語ります。物語を一つの美談に閉じず、才能、評判、階級、倫理の関係を考える作品として読むと、昔話の見え方が変わります。

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