「数と重さと尺度から神はすべてを創造した」。この言葉はニュートン本人が書いたラテン語の格言として確認できます。しかし、その元になった思想はニュートンの独創ではありません。「数・尺度・重さ」によって神が万物を整えたという発想は、さらに古い『知恵の書』11章20節にさかのぼります。
原文が残っていることと、最初に思いついた人物が誰かという問題を分けて考えると、17〜18世紀の科学研究と宗教的世界観の関係が見えてきます。
本人の筆跡が残るラテン語
署名入りの原語は“Numero pondere et mensura Deus omnia condidit.”。当サイトの説明訳では「神は数、重さ、尺度によって万物を造った」となります。numero、pondere、mensuraは三つとも手段・基準を表す語で、「数と重さと尺度を材料として造った」という意味とは限りません。
スウェーデンのウプサラ大学図書館が所蔵する、クリスティアン・ルートヴィヒ・リプテンの記念帳(Y 82 b)には、1724年9月15日付でニュートンがこのラテン語と署名を記したページ(22r葉)があります。ウプサラ大学の研究者が公開した記念帳の研究では、実物の写真、日付、所蔵番号が示されています。
著作の結論ではなく、人に贈った言葉だった
この記録は『プリンキピア』の物理学の証明から直接引用された結論でも、現代の数学教育向けの講演でもありません。訪問先の記念帳に残した献辞で、本人の署名と記念帳の持ち主を祝う文言が続きます。
1722年にも別の訪問者に同じ趣旨の一文を記したとする史料が報告されています。このことはニュートンが好んで使った言葉だった可能性を示しますが、彼がいつ最初にこの表現を見つけたのかまでは特定できません。
『知恵の書』11章20節にある古い表現
『知恵の書』(ソロモンの知恵)11章20節には、神が万物を尺度、数、重さによって秩序づけたとする文章があります。ニュートンの文とは語順や表現が完全には同じでなくても、三つの尺度を重ねる発想は先に存在していました。
そのため「ニュートンがこの言葉を実際に書いた」ことは確認できる一方、「ニュートンがこの発想を生み出した」とするのは誤りです。この区別は、同じ思想が別の時代の著名人の言葉として流通する例にも通じます。なお『知恵の書』の聖書内での位置づけや一部の節番号は、版・教派によって異なります。
科学と信仰を単純に対立させない
ニュートンが運動や重力を数学的に記述したことはよく知られますが、彼は聖書の解釈や神学にも長い時間を費やしました。自然の秩序を数理的に解明しようとする関心と、世界は神によって秩序づけられていると信じる関心は、当時のニュートンにとって完全に無関係ではありませんでした。
だからといって、この一文を「自然科学が神の存在を証明した」という実験結果に変えてはなりません。また「世の中のあらゆる価値は計算できる」という現代のデータ主義の根拠にすることもできません。
今の暮らしで読み直すなら
数値化や測定は、たしかに問題を理解するうえで強力な手段です。しかし測定の仕組みや、測られていない事実にも注意が必要です。仕事の成果指標なら、測定できた結果だけでなく、見落としている影響を考えることが重要でしょう。
これは当サイトの現代的な考察であり、ニュートンが現代のデータ分析やAI時代の働き方を指導したという意味ではありません。
出典の判定と参考資料
- 原文:Numero pondere et mensura Deus omnia condidit(ニュートンの署名入り献辞で確認できる)。
- 自筆の事例:1724年9月15日、ウプサラ大学図書館の記念帳 Y 82 b、22r葉。
- 先行思想:『知恵の書』11章20節。数・尺度・重さはニュートン独自の三要素ではない。
- 日本語:「数・重さ・尺度によって創造した」と訳す方が「から創造した」より自然。
ウプサラ大学の記念帳研究『Memoriæ ergo scribebat』(1724年の写真と書誌を収録)。セント・アンドリュース大学のニュートン格言資料。『知恵の書』11章20節の各英訳。ニュートン人物ガイド、「真理は単純さの中にある」。
