エルバート・ハバード(Elbert Hubbard、1856–1915)は、アメリカの著述家・出版人・事業家です。ニューヨーク州イーストオーロラでロイクロフト(Roycroft)の出版・工芸活動を育て、1899年の随筆『A Message to Garcia(ガルシアへの手紙)』で大きく知られるようになりました。
現代では「間違いを恐れ続けるな」「本当の友人とは」といった短い名言の作者としても紹介されます。しかし、本人の刊行物に出る言葉、すでに他者が使っていた格言、後世の短縮形を分けて読まないと、彼の創作と編集の仕事の両方を見失います。
1856年に生まれ、広告・販売の仕事から出版へ
ハバードはイリノイ州で生まれ、若いころラ―キン社で販売と広告に関わりました。後に文学と出版の仕事へ移り、ウィリアム・モリスらのアーツ・アンド・クラフツ運動にも影響を受けます。
現在も資料の保存・紹介を行うロイクロフト・キャンパスの公式歴史ページによると、ハバードは1897年にイーストオーロラの印刷所を整備し、美しい本の製作を出発点として、家具・金属工芸などの工房へ活動を広げました。これらの活動を、現在の企業経営や自己啓発という視点だけでなく、当時の工芸思想と結びつけて捉える必要があります。
雑誌『The Philistine』と多くの警句
ハバードは自ら刊行した雑誌『The Philistine』で、社会批評や短い警句を発表しました。現代の名言サイトで独立した一文として流通する文章の中には、もともとこのような媒体に、他の文章と並んで置かれていたものがあります。
「最大の誤りは、誤りを恐れ続けること」は、1901年11月の『The Philistine』に掲載されたとする具体的な調査があり、1913年の本人の『The Book of Business』にも再登場します。これは帰属を支持する重要な材料です。
1899年『ガルシアへの手紙』と、その読み方
『A Message to Garcia』は、1899年の米西戦争に関連する使者の物語を使い、任された仕事を自らやり遂げることを称えた小品です。最初は『The Philistine』に発表され、その後小冊子として広く流通しました。
ただし、記された物語をすべて史実と同一視することはできません。また、上司の指示に従うことを強調する当時の労働観も、現代の職場で無条件に模範とすべきではありません。行動力と責任感は重要でも、質問・異議申し立てや安全への配慮が不適切になるわけではないからです。
1899年版の本文はGoogle Booksの書誌やProject Gutenbergで確認できます。言葉を人物の人生論へ結びつけたいときは、こうした本人の出版物へ戻ることから始めたいところです。
友情の言葉には先行する別の表現がある
「友人とは、すべて知っても好きでいてくれる人」という言葉もハバードの1910年の雑誌や1911年の格言集にあります。しかし1905年には、10歳の少年が示した友情の定義として、ほぼ同じ内容が雑誌『The Century Magazine』に載っていました。
本人が用いた原文は still likes you であり、「still loves you」として流通する形より弱いニュアンスです。すでにあった格言を言い換えたのか、独立に作られたのかは資料だけでは確定しないため、ハバードを確実な初出作者とは記しません。
言葉の帰属と著名人の名前は別の問題
ハバードのように大量の警句を発表・編集した人物では、同じ言葉が他者の名前で引用される、反対に別人の言葉が本人に結びつく、刊行年の違う異形が一つの名言としてまとめられる、といったことが起こります。
『The Philistine』が1901年にこの一節を載せたという事実と、ハバードが社会に向けて何を主張したか、彼が最初に表現を考えたかは、それぞれ違う問いです。出典を調べるうえでは、この複数の層を分けておく必要があります。
1915年の死とロイクロフトの継承
1915年5月7日、ハバードと妻アリスは客船ルシタニア号がドイツの潜水艦に撃沈された際に亡くなりました。その後は息子がロイクロフトを引き継ぎ、工房は時代の変化と経済危機の影響を受けながら存続しました。現在のロイクロフト・キャンパスは、出版と工芸に関する記録を保存・公開しています。