『マクベス』最初の場面を締めくくる魔女たちの言葉
「きれいはきたない、きたないはきれい」と訳される “Fair is foul, and foul is fair” は、『マクベス』第1幕第1場で三人の魔女が一緒に語る一節です。
Fair is foul, and foul is fair;
Hover through the fog and filthy air.
劇が始まってわずか十数行。雷鳴の中で魔女たちがマクベスと会うことを決め、この二行を残して退場します。
fair と foul は一つの日本語に固定しにくい
fair には美しい、好ましい、公正な、晴れたなどの意味があり、foul には汚い、不快な、邪悪な、荒れたなどの意味があります。そのため「きれい/きたない」「良い/悪い」など訳し方によって響きが変わります。
重要なのは、通常なら反対に置かれる二つを魔女たちが入れ替えていることです。作品の冒頭から、見た目と実態、善と悪、吉兆と凶兆が簡単には分けられない世界が提示されます。
直後のマクベス自身の言葉にも響く
第1幕第3場で初登場したマクベスは、その日の天候と戦いを指して “So foul and fair a day I have not seen.” と語ります。魔女の言葉を知らないはずのマクベスが、同じ二語を組み合わせるのです。
この反響によって、魔女たちの逆説が単なる謎めいたキャッチフレーズではなく、これからのマクベスの物語へ入り込んでいく感覚が生まれます。
「善悪は相対的」という哲学に固定しない
旧記事では「道徳的判断は単純ではない」「物事の表裏一体を示す」と一般化していました。そうした読みも可能ですが、この二行だけから「シェイクスピアは善悪に絶対的基準はないと主張した」と断定することはできません。
まず作品の中では、魔女たちが矛盾した言葉を発し、予言も後に二重の意味を持ってマクベスを惑わせます。「言葉や見かけをそのまま信じられない」という劇世界の入口として読むのが確実です。
まとめ
“Fair is foul, and foul is fair” は『マクベス』第1幕第1場、三人の魔女の台詞です。
人生訓として切り出すより、劇の冒頭で世界のルールを揺らし、その後の予言・偽装・錯覚へつながる言葉として読むと、この有名な一節の役割が見えてきます。
出典メモ:William Shakespeare, Macbeth, Act 1, Scene 1. Speakers: the three Witches. “Fair is foul, and foul is fair; / Hover through the fog and filthy air.”
シェイクスピアを人物から読む
ウィリアム・シェイクスピア人物ページでは、作品に実在する一節を「作者の名言」にせず、登場人物・偽手紙・巻物など話者と劇的文脈を区別しながら横断して読めます。