続けることには価値があります。
私は、継続によってしか積み上がらないものがあると思っています。
でも、ときどき「続けてきたから」という理由だけで、続けてしまうことがあります。
ここまで時間を使ったから。お金をかけたから。努力したから。今さらやめたら、全部が無駄になる気がするから。
そんな意思決定を考えるときに使える概念が、サンクコスト(埋没費用)です。俗に「コンコルド効果」と呼ばれることもあります。
サンクコストとは、もう取り戻せないコスト
サンクコストとは、すでに支払ってしまい、現在の意思決定によって取り戻すことのできない費用です。
お金だけではありません。費やした時間や労力を考えるときにも、同じ発想が使われます。
重要なのは、過去にいくら使ったかではなく、ここから追加で何を使い、その結果として何が得られそうかです。
ところが人間は、「これだけ使ったのだから」と、過去の投資をこれからの判断理由にしてしまうことがあります。
「コンコルド効果」という名前について
この種の問題は、英仏が共同開発した超音速旅客機コンコルドになぞらえて「コンコルド効果」や「Concorde fallacy」と呼ばれることがあります。
ただし、実際のコンコルド計画が継続された理由を、単純に一つの心理バイアスだけで説明するのは避けた方がいいでしょう。国家間の事情、産業政策、技術、政治など複数の要因が絡むからです。
この記事では歴史そのものを心理学で断定するのではなく、すでに投じたものに引っ張られて将来の判断をする問題を考えるための比喩として扱います。
4,000本書いたことは、4,000本を公開し続ける理由にはならない
このサイトには、一時期4,000本を超える記事がありました。
一つひとつ書くには時間がかかっています。だから以前なら、「せっかく書いたのだから残しておこう」と考えていたと思います。
でも今は、大量の記事を見直し、重複したもの、根拠が弱いもの、今の自分が責任を持って公開したくないものを非公開にしています。
4,000本書いたことは、4,000本を公開し続ける理由にはならない。
書くために使った時間は戻りません。
だから判断すべきなのは、「この記事を書くのに何時間かかったか」ではなく、「これからも公開しておく価値があるか」です。
4,000本以上の記事を書いて「書かないこと」の価値が分かったと書いたのも、この感覚からでした。
キャリアでも「ここまでやったから」が判断を曇らせる
キャリアでも似たことがあります。
何年もこの仕事をしてきたから。資格を取ったから。この業界で経験を積んだから。せっかくここまで来たから。
もちろん、積み上げた経験には価値があります。
ただ、その価値と「今後も同じ道を進むべきか」は別の問いです。
過去の経験は、同じ仕事を続けなければ回収できないものばかりではありません。
営業で身につけた顧客理解が別の仕事で使える。技術を学んだ経験が、マーケティングで技術者と話すときに使える。異なる業界へ移って初めて、昔の経験の意味が分かることもあります。
だから私は、キャリアは一本道ではなく、後から編集できると考えています。
ただし、「やめることが合理的」とも限らない
サンクコストという言葉を覚えると、今度は何でも「過去は関係ない。やめればいい」と考えたくなります。
それも単純すぎます。
継続することで初めて得られる信用、技能、ネットワーク、習慣があります。途中までの投資によって、これから成功する可能性が本当に高まっている場合もあります。
また、人間関係や仕事には、金額だけでは測れない責任もあります。
問題なのは「続けること」ではありません。
過去に払ったものだけを理由に、未来のコストまで払い続けることです。
判断を「過去」から「ここから先」へ戻す
迷ったとき、私は問いを少し変えるのがいいと思います。
「ここまで何を費やしたか」ではなく、「もし今日初めてこの選択肢を知ったとして、ここから時間やお金を使いたいと思うか」。
もちろん、現実には過去を完全に切り離せません。それでも、この問いを入れると惰性と意思を少し分けられます。
続けるなら、「今も続ける価値があるから」続ける。
やめるなら、過去を否定するのではなく、「ここから先は別の場所へ使う」と決める。
やめても、過去まで無駄になるわけではない
何かをやめると、それまでの努力まで否定されたように感じることがあります。
でも、私はそうは思いません。
公開をやめた記事から、別の記事の核が見つかることがあります。離れた仕事で身につけた能力が、数年後に別の仕事で役立つこともあります。
過去に意味があったことと、未来も続けることは同義ではありません。
過去を大切にすることと、過去に縛られることは違う。
サンクコストという概念は、何かを簡単に捨てるためではなく、その違いを考えるための道具として使いたいと思います。
注:「コンコルド効果」「Concorde fallacy」は、すでに投じた資源に将来の意思決定が引っ張られる問題を説明する際に使われる呼称です。本記事では、実際のコンコルド計画の継続理由を単一の心理要因で説明するのではなく、サンクコストを考えるための比喩として扱っています。