はじめに
「すべて自然でないものは不完全である」は、ナポレオンの言葉として紹介されることがあります。
興味深いのは、この言葉が19世紀の哲学者ショーペンハウアーの文章にも登場することです。
しかしショーペンハウアーは、それをナポレオンの確定発言としてではなく、“a maxim attributed to the Emperor Napoleon”――「皇帝ナポレオンに帰せられる格言」と明示しています。
19世紀の時点ですでに「伝承」だった
これは引用史を考えるうえで重要です。
現代のウェブサイトが出典を落としたのではなく、比較的古い時代から「ナポレオンに帰せられる」という距離を伴って紹介されていたことになります。
現在の監査でも、ナポレオン本人のどの書簡・会話・布告にこの文があるのかは特定できません。
ショーペンハウアーは「自然さ」の例として使った
ショーペンハウアーは文章・表現について論じる中で、作為的で不自然なものより自然な表現を評価する文脈でこの格言を引いています。
したがって、旧記事のように「自然に従えば人生は完全になる」という広大な人生哲学をナポレオン本人へ直接帰属させる根拠にはなりません。
引用された場面では、むしろ過度な作為を避ける美学・表現上の原則に近い役割を持ちます。
帰属の不確実さ自体が情報になる
歴史的名言には、「古くから本人の言葉とされているが、一次資料が見つからない」というものがあります。
この場合、無理に本物か偽物かの二択にする必要はありません。
「ショーペンハウアーの時代ですでに attribution として引用されていた」と残すことで、言葉がどのように伝わったか自体を読めます。
まとめ
「すべて自然でないものは不完全である」は、古くからナポレオン名義で流通しています。
しかしショーペンハウアー自身も「ナポレオンに帰せられる格言」と距離を置いており、一次出典は現在の監査でも未特定です。
判定:古い帰属例あり/一次出典未確認。
出典メモ:Arthur Schopenhauer cites the sentence as “a maxim attributed to the Emperor Napoleon,” not as a securely sourced quotation.
ナポレオンを人物から読む
ナポレオン・ボナパルト人物ページでは、本人の書簡・演説、後年の回想、20世紀の語録集、一次出典未確認の流通句を資料距離ごとに分け、ナポレオン像がどのように作られたかを横断して読めます。