「神の叡智は創造の業に現れる」はニュートンの名言?|ジョン・レイ1691年の書名

「神の叡智は創造の業の中に現れている」。かつて当サイトではアイザック・ニュートンの名言として紹介していました。しかし、この日本語に対応する英文“The Wisdom of God Manifested in the Works of the Creation”は、ジョン・レイ(John Ray)が1691年に刊行した書籍の題名と一致します。

英国図書館由来の1691年版を含む複数の書誌情報や、後年の現物を確認できることから、少なくともこの英語を「ニュートンが述べた一文」として説明する根拠はありません。名言がどのように別人の言葉へ変わるかを考えるため、旧記事の帰属を訂正します。

1691年の『The Wisdom of God Manifested in the Works of the Creation』

この英語はジョン・レイの著書の題名です。初版は1691年にロンドンでサミュエル・スミスから刊行され、トリニティ・カレッジの礼拝堂での講義を基にしたことが長い副題に明示されています。WorldCatおよびGoogle Booksの1691年版書誌にはJohn Rayと記載されています。

1692年には増補第二版、1735年には第10版が刊行されています。Biodiversity Heritage Libraryが公開する1735年版も、著者はジョン・レイです。後年の版の刊行年だけを見て「1735年に作られた言葉」と扱うのも不正確でしょう。

ジョン・レイとはどんな人物だったのか

ジョン・レイ(1627–1705)はイングランドの自然学者で、植物、動物、自然史を幅広く研究しました。生物の特徴を観察し分類する仕事を進める一方で、自然界の秩序を神の知恵の表れとして考察した人でもあります。

『The Wisdom of God Manifested in the Works of the Creation』は、自然界の仕組みを例に神の知恵を論じる自然神学の書物です。動植物の身体、自然の働き、天体などを扱う作品であり、著者が誰かを確認せずに、現代の「科学と信仰の名言」として一文だけを抜き出すのは危険です。

「Manifested」は文の中の動詞ではなく書名の一部

この英語は「神の知恵が創造の仕事に現れていること」といった意味の名詞句を中心に組み立てられた書名です。「神の叡智は創造の業の中に現れている」という日本語は文章として自然ですが、独立した発言を日本語に翻訳したものだと判断する根拠にはなりません。

名言サイトでは書籍の題名、論文の表題、絵画の題名が、作者や出典を失い、独立した一言として紹介されることがあります。今回の例では、この形の英文そのものがレイの本のタイトルと完全に対応するという点が重要です。

ニュートンも自然の秩序と神について論じていた

この訂正は「ニュートンが神や創造について考えたことはない」という意味ではありません。ニュートンには神学・聖書研究に関する手稿が残り、『プリンキピア』1713年第二版の一般注解にも神についての議論があります。

たとえば本人の言葉として確認できるものに、「神は数・重さ・尺度で万物を創造した」という1724年の署名入り献辞があります。ただしこれにも『知恵の書』の先行思想があります。

ジョン・レイとニュートンは、自然と神の関係に関心を持っていた同時代人です。しかし思想の近さは、特定の文の作者を入れ替えてよい根拠にはなりません。ニュートンが同じ内容を別の文で述べていたとしても、1691年の書名の著者はジョン・レイです。

旧記事のどこを訂正したか

旧記事ではこの言葉をニュートンの発言とし、物理法則が神の知恵を証明したという説明や、今日の量子力学・相対性理論までを本人の主張に結びつけていました。しかし、原文が別人の書名である以上、そうした説明はこの一文の成立背景にはなりません。

そこで本記事はニュートンの成功哲学を解説する形式から、書籍の著者と名言の誤帰属を検証する形式へ切り替えました。現代人が自然の秩序に感銘を受けることと、17世紀の自然神学が何を論じたかは、別々に考える必要があります。

出典状態と今後の注意

  • 原文に一致する出典:ジョン・レイ『The Wisdom of God Manifested in the Works of the Creation』、1691年刊。
  • 文の性格:著書の題名。ニュートンが講演・書簡で述べたと確認できる原文ではない。
  • 分類:ニュートンへの誤帰属。特定の媒体が初めて誤帰属させた時期までは未特定。
  • 注意:レイの書物の主題がニュートンの神学と一部似ていても、著者と出典は別。

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