オスカー・ワイルド「老人はすべてを信じ、中年はすべてを疑い、青年はすべてを知っている」|1894年の原典

はじめに

「老人はあらゆる事を信じる。中年はあらゆる事を疑う。青年はあらゆる事を知っている。」

英語では “The old believe everything: the middle-aged suspect everything: the young know everything.”。この一文はオスカー・ワイルドの言葉として原典を確認できます。

1894年12月、オックスフォードの学生雑誌『The Chameleon』に掲載された“Phrases and Philosophies for the Use of the Young”に収録された警句の一つです。

したがって、作品中の架空人物の台詞をワイルド本人の発言へ置き換えたケースではありません。一方、「ワイルド自身が年齢を重ねた経験から到達した人生哲学」と説明するのも行き過ぎです。これは、逆説と誇張によって常識をひっくり返す短い警句として読む必要があります。

『Phrases and Philosophies for the Use of the Young』とは

この一文が掲載されたのは、若者向けの格言を真面目に並べた人生指南書ではありません。ワイルドは、もっともらしい常識を逆転させる警句をまとめています。

たとえば同じ文章には、「真実を語れば、遅かれ早かれ必ずばれる」「試験では愚者が賢者にも答えられない質問をする」といった逆説的な一文も並びます。

その中に「老人はすべてを信じ、中年はすべてを疑い、青年はすべてを知っている」が置かれています。

つまり、この一文だけを取り出して「人間は青年期から中年期、老年期へこのように心理的に変化する」と読むより、世代について語られる決まり文句そのものを、極端な形へ圧縮したウィットとして読む方が原典の性格に合っています。

三世代すべてがからかわれている

この警句には、誰か一つの世代だけを持ち上げる正解がありません。

老人は「すべてを信じる」と言われ、中年は「すべてを疑う」と言われ、青年は「すべてを知っている」と言われます。

最後の「青年はすべてを知っている」は、もちろん本当に若者が万能の知識を持つという意味ではありません。若さに伴う自信や、「もう分かった」と思いやすい態度を誇張した笑いでしょう。

同様に、中年を本質的に猜疑的な世代、老人を本質的に騙されやすい世代と断定する必要もありません。三つを並べることで、それぞれの年代にまつわるステレオタイプを鮮やかに見せています。

「普遍的な人生法則」にしない

旧来の解説では、この言葉を「人生の異なるステージにおける心の変遷」「経験の蓄積による普遍的な成長過程」と説明したくなります。

しかし、原典からそこまでの理論は確認できません。また、「ワイルド自身が若い頃は自信に満ち、後半の困難を経てこの言葉に到達した」といった伝記的因果関係を、この一文だけから作ることもできません。

むしろワイルドの警句の強さは、詳細な理論を説明せず、一行で人間の思い込みを笑いの対象にするところにあります。

年齢を重ねれば自動的に賢くなるわけでも、若ければ必ず無知なわけでもない。それでも私たちは世代ごとに「若者はこう」「中年はこう」「老人はこう」と語りたがります。この一文は、その癖そのものを映す鏡としても読めます。

現代に引き寄せて考える

現代でも、世代論は人気があります。「若者は○○」「中高年は○○」という説明は、複雑な人間を簡単に理解した気にさせてくれます。

ワイルドの一文を現在読む価値があるとすれば、三世代のどれが正しいかを決めることではなく、人間を年代だけで説明したくなる自分たちの思考を疑うことかもしれません。

そして、もっと身近には「自分はもう知っている」と思った瞬間にも使えます。知っているつもり、疑っているつもり、信じているつもり。その態度そのものを少し笑ってみる。ワイルドの逆説は、そのための小さな装置になります。

まとめ

「老人はすべてを信じ、中年はすべてを疑い、青年はすべてを知っている」は、1894年の『The Chameleon』に掲載されたオスカー・ワイルドの “Phrases and Philosophies for the Use of the Young” に確認できる真正な警句です。

ただし、これは年齢による心理発達を説明した学説でも、ワイルドの人生経験をそのまま告白した文章でもありません。

老人、中年、青年の全員を一行ずつからかう。その軽さと鋭さを残したまま読むことが、この言葉を「名言らしい一般論」に変えてしまわない一番よい方法でしょう。

オスカー・ワイルドを人物から読む

オスカー・ワイルド人物ページでは、本人が書いた警句と、小説・戯曲・対話篇の登場人物の台詞を区別しながら、逆説・美・自己演出・翻訳の変化を横断して読めます。

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