はじめに
「土も水も空気も大切」。フランス料理人・上柿元勝の言葉として掲載されている短い一節です。食卓に料理が並ぶまでには、農作物を育む土、育成に必要な水、自然の環境、生産者の仕事が関わっています。料理を皿の上だけで完結する仕事として見ない姿勢を、この言葉は思い出させます。
ただし、元の短文が上柿元自身によっていつ、どこで発せられたかという直接の資料は今回見つかりませんでした。一方、本人が食材や自然環境を大切にする考えを語った2002年の新聞取材と2015年のラジオ取材は確認できます。
ここでは出典未確認の短文を断定的な名言として扱わず、本人の確認できる考えを中心に読み解きます。また、自然由来であれば無条件に安全で健康的、加工された食べ物は劣るといった主張は行いません。環境を大切にすることと、食品の安全性を決めつけることは別の問題です。
「土も水も空気も大切」はいつ語られたのか
この短い文章について、本人の著書やインタビューの掲載位置を指定できる資料は特定できませんでした。内容が上柿元の考えに合っているように見えても、それだけでは逐字的な引用として確定できません。出典は「要検証」のまま示すのが適切です。
代わりに確認できるのが、『日本食糧新聞』2002年1月の上柿元本人へのインタビューです。そこでは地元や旬の食材の選び方、自然への感謝について具体的に語っています。上柿元が食材を自然との関係で捉えていたことは、本人の発言から確かめられます。
さらに、FM福岡「匠の蔵」の2015年の取材では、料理人は自然の恵みを受け取る仕事なのだから地球環境も考えるべきだと説明しています。食の仕事と環境への配慮を明確に結びつけた本人の考えが確認できます。
食材を育てる風土と料理
料理人が使う野菜や果物は、場所や季節によって味わいが変わることがあります。2002年の取材で上柿元は、海のものなら海の香り、野菜なら土の香りが伝わるような食材を選ぶと語っています。産地や旬を、単なる宣伝文句ではなく味を考える手掛かりにしていました。
特に、旬は季節の「走り」を意味するわけではないという説明が印象的です。出回り始めたという珍しさだけで判断せず、よく育ったもの、実際に味のよいものを見極めようとしています。料理の判断は素材の状態に戻って考えるという姿勢です。
関連記事の「旬の食材でもてなす」では、本人の2002年の取材に基づき、旬と走りの違いを詳しく扱っています。一つの言葉に意味を詰め込みすぎず、関連する本人の思想を読み合わせると理解が深まります。
自然への感謝を具体的な仕事にする
2015年のFM福岡の取材で上柿元は、料理人が扱うのは地球から得られる産物であり、その環境を損なわないよう考えて仕事をするべきだと語っています。感謝の言葉で終わらせず、厨房の使い方や生産者との関係へつなげようとする点が重要です。
料理には、材料を選び、洗い、調理し、後片付けするまで、多くの過程があります。その過程では水やエネルギーを使い、廃棄物も生まれます。一皿を作る前後の工程に目を向けることも、自然環境を考える方法の一つでしょう。
ただし、環境への負担は単一の条件だけでは決まりません。「地元産だから必ず環境負荷が低い」「包装がないから常に安全」といった単純な比較はできません。調達、保存、調理、衛生など複数の条件を考える必要があります。自然にやさしそうな印象と、実際の効果を混同しないことが欠かせません。
生産者と一緒に食文化を育てる
農林水産省が紹介する2017年度の「料理マスターズ」受賞者情報には、上柿元が地元食材の発掘やブランド化、生産者との協働、食育に取り組んだ実績が記されています。食材を買うだけでなく、その価値を生産者とともに伝える活動です。
上柿元はFM福岡の取材で、師であるアラン・シャペルから地産地消の大切さを学んだと語っています。フランス料理の技術と、九州や長崎の食材への関心を組み合わせたわけです。技法を学ぶことと、地元の文化を大切にすることは対立しません。
こうした考え方には、生産者の技能や労力を尊重する意味もあります。食材に感謝するのなら、それを育てたり運んだりする人の仕事を見落とさないこと。自然の恵みを人の仕事から切り離さずに捉える姿勢を学べます。
「自然なものなら健康によい」とは限らない
元の記事には、加工食品や添加物を避け、自然な食材を選ぶことが健康の条件であるかのような説明がありました。しかし、自然由来か加工品かという区別だけで、安全性や栄養価の優劣は決まりません。食品の安全や栄養を語るなら、衛生状態、成分、量、食事全体のバランスなどを考える必要があります。
上柿元の言葉を環境や食文化への関心として読むことと、根拠なく食品の安全を断定することは違います。「無添加」と書いてあれば必ず健康によいという保証もありません。料理人の哲学を、医学的な効能の保証へ勝手に置き換えないことが重要です。
同様に、農業や食品加工にはさまざまな方法があり、一律に良い・悪いとは評価できません。必要なのは、具体的な取り組みが何を改善したのかを確かめることです。自然に配慮する気持ちと、証拠に基づいて判断する姿勢を両立することが大切でしょう。
家庭の食卓からできること
買い物をするとき、旬の食材や地元で育てられた食材を少し調べてみることができます。味や調理法について店の人に尋ねるのもよいでしょう。食材を知らないまま消費するのではなく、少しだけ関心を寄せることが、食べる楽しさを増やします。
食材を無駄にしない工夫もあります。必要な量を買い、適切に保存し、残った材料を使える料理を考える。ただし、傷んだ食品を無理に使う必要はありません。食品ロスを減らすことと、安全に食べることを両立させたいところです。
また、特別な高級食材を選ばなければ自然に感謝できないわけではありません。手頃な材料で作った家庭料理でも、作り手への感謝を持てます。高価な料理を食べることより、身近な食材の背景に気づくことが、この言葉から得られる一つの示唆です。
まとめ
「土も水も空気も大切」という短い言葉の正確な初出は確認できませんでした。一方、上柿元勝本人が2002年と2015年の取材で、地元食材の選び方や自然環境への配慮を語ったことは確認できます。短い流通句の真正性は留保し、本人の発言から料理哲学を理解するのが適切です。
上柿元が考えた料理は、目の前の食材だけで完結するものではありませんでした。その土地の自然、生産者、食べる人、調理する人が関わります。素材に敬意を払い、食の営み全体に目を向ける点が重要です。
環境への関心は、曖昧な健康神話で支えるものではありません。食材を知り、仕事の影響を確かめ、無理なく改善していく。自然を大切に思うからこそ、具体的な事実に基づいて行動する姿勢を持ちたいものです。
出典と確認範囲
日本食糧新聞「シェフと60分:上柿元勝」(2002年1月21日):地元食材、旬の見極め、自然への感謝に関する本人の発言を確認。FM福岡「匠の蔵」(2015年):食材の産地や地球環境を重視する本人の発言を確認。
農林水産省「料理マスターズ」上柿元勝受賞者紹介(2017年度):食文化の普及、生産者との協働、地元食材の発掘活動を確認。元の短文の原掲載位置・逐字一致は確認できていません。そのため出典分類を要検証とし、出典ステータスガイドも参照してください。
