「すぐ着られる簡単な服で満足している人が増えています」。川久保玲は2012年の朝日新聞ロングインタビューで、ファッションの新しさを求める気持ちが薄れているのではないかと危惧を示しました。この言葉を、服にお金をかけない人や若い人の人格を一括して批判する格言にしてはいけません。当時の社会と創造に対する川久保自身の問題意識として読み直します。
原典は2012年「ファッションで前に進む」
2012年1月7日の朝日新聞朝刊に掲載され、1月19日にウェブ公開された長いインタビューについて、J-CASTニュースの同月31日の報道が残っています。当時のインタビュー転載では、新しいものを生み出そうとする意欲、すぐ着られる服、周囲に同調する姿勢などをめぐる質問と回答が確認できます。
原掲載の紙面は今回直接閲覧できていません。したがって、2012年の朝日新聞取材に由来する発言と文脈を二次資料で照合した段階です。句読点や省略のない全文を新聞の原稿と照らし合わせたわけではありません。
「簡単な服」の何が問題なのか
すぐ着られる簡単な服で満足している人が増えています。
この表現だけを取り出すと、着やすくて実用的な服がよくないと述べたように聞こえます。しかし川久保が問題にしたのは、服が着やすいこと自体より、既存の選択肢へ疑問を持つことなく、それだけで十分だと感じる雰囲気です。
同じインタビューでは、ファッションが人を新しい挑戦へ向かわせる力を持つと考えていることも語られています。使いやすい服の価値をすべて否定する発言ではなく、創造への意欲が社会全体で薄れてしまうことへの心配として理解する必要があります。
同じものを着ることと、考えないことは同じではない
制服、仕事着、家事や育児に適した服など、毎日の暮らしには便利さや安全、衛生を優先する場面があります。周囲と同じ服を着ているからといって、その人が主体的に選んでいないとは限りません。
同じ服を好む人でも、価格、機能、耐久性、サイズ、環境への負担など、さまざまな判断をしている可能性があります。見た目の違いだけで個性や考える力の有無を評価するのは適切ではありません。
創造と「不満」の関係
川久保は当時、現状を変えたいという情熱や不満が、新しい表現へ向かう力を生むと考えていたようです。現状に疑問を持つことで、既存の流行とは異なる服を作り、着るという選択肢が生まれる場合があります。
しかし、怒りや不満がなければ創造できないという一般的な法則でもありません。好奇心、楽しさ、人との対話、生活上の必要から、新しいものを作る人もいます。川久保自身の仕事観を、すべての人に当てはまる心理の規則へ変えることは避けたいところです。
2012年という社会状況も忘れない
このインタビューは、景気の停滞や格差への問題意識、東日本大震災後の社会状況が話題になっていた時期に行われました。同じ記事には、価格を抑えた服が広まる一方、手間のかかる新しいものづくりの余地がなくなるのでは、という川久保の懸念もあります。
これは2012年の発言を紹介する文脈であり、2026年のすべての世代や衣料市場に同じ傾向が存在すると立証したわけではありません。時代が異なる発言は、当時の問いとともに残すのが適切です。
川久保は低価格の服をすべて排除したいのか
インタビューの転載では、多様なニーズに応じたビジネスの形があってよいという趣旨も語っています。即席の商品や創造性の強い服などが共存すること自体を否定していたわけではありません。
一方、ものづくりを効率だけで評価すると、時間や試行錯誤を要する創造が成立しにくくなる可能性があります。こちらの問題意識は2009年の「数百円のジーンズ」に関する発言ともつながりますが、両者は別々の取材なので混同しません。
個性とファッションについて続く回答
同じ2012年のインタビューでは、個性を持つ人が必ずしも高級な最先端の服を着ているわけではなく、Tシャツ姿でも独自の雰囲気が伝わることがあると語られています。「Tシャツ姿にも個性は表れる」と「本人の中身が新しければ」は、同じ発言群を別の角度から解説した記事です。
この関係を知ると、川久保の言葉が「変わった服を着なさい」という単純な命令ではなかったことが見えてきます。装いを選ぶ人の姿勢と、作り手が新しさを生み出す姿勢の両方が話題になっているのです。
今の生活で新しさを考えるなら
新しい服を買う前に、今持っている服を違う組み合わせで着てみる。身近な場所で、普段は選ばないものに触れてみる。自分が必要としているものは何かを考えたうえで、新しい選択肢を試してみる。そうした小さな行動にも意味があります。
これは当サイトによる現代的な応用です。川久保本人が今回の発言で、服を買い替える頻度や暮らしの具体的な手順を説明したという意味ではありません。また、服に関心が薄い人も自分なりの価値観を持って生活しています。
出典と確認範囲
出典状態:2012年朝日新聞インタビューへの帰属と前後の主題を確認/原掲載紙面は未校合。同時代の報道とインタビュー転載で、着やすい服への満足、同調、創造の意欲という話題のつながりを確認しました。流通する長い引用の完全な逐語一致は元紙面と未照合です。
資料:J-CASTニュース(2012年1月31日) / 「ファッションで前に進む」転載(二次資料) / 2012年当時の掲載案内。関連記事:「数百円のジーンズ」 / 「本人の中身が新しければ」。
