「良い言葉を使い、悪い言葉を減らすことで学級崩壊の予防になるんです」。教育実践研究家・菊池省三の名とともに流通しているこの文章には、確認できる放送上の出典があります。2015年12月5日放送の日本テレビ『世界一受けたい授業』が公開する授業復習ページです。ただし、そこでの表現は現在の記事タイトルの文言と少し違います。どこまでが放送局の記録で確認できる事実で、どこからが解釈なのかを示しながら、菊池の「言葉で学級をつくる」実践を読み解きます。
日本テレビの放送記録に、対応する文章がある
日本テレビ『世界一受けたい授業』2015年12月5日放送分の「授業復習」ページでは、菊池が「学級崩壊立て直し人」として登場します。クラスの雰囲気を左右するものは何かという問いに「言葉」と答え、良い言葉を増やし、悪い言葉を減らすことを学級崩壊の予防へ結びつけた説明が掲載されています。
旧記事の流通文言は「良い言葉」「予防になるんです」ですが、公式の復習文では「いい言葉」「予防になるのです」という表記になっています。意味の核は対応しますが、完全な逐語一致ではありません。また、放送復習は番組内容を文章にまとめた資料であって、本人がその通りの助詞や語尾で発話した録音の書き起こしだとまでは言えません。
そこで出典状態は「意訳・文言変化」とし、根拠となる放送局の資料を明示します。これは菊池がその趣旨を示したことの根拠であり、流通文言の字句をすべて原文と認める判定ではありません。
「良い言葉」は、ただ明るい言葉なのか
菊池が実践で使う考え方には、「価値語」があります。明治図書の『菊池省三 365日の価値語 プラスの言葉で成長に導く最高の教室』で公開されている著者「はじめに」では、言葉を通して子どもを育てることを菊池道場の基本方針とし、価値のある言葉を子どもたちの日常へ取り入れていく考え方が説明されています。
「明るく!」「元気に!」という単純な掛け声だけが価値語なのではありません。話し合いのなかで相手を尊重する姿勢を言葉にし、行動と結びつけて意味を確かめることが大切です。言葉が目指す行動と切り離され、ただ教室の壁に貼ってあるだけなら、子どもの生活で何が変わったのかは分かりません。
教室に貼る言葉と、日常で使う言葉
日本テレビの復習ページでは、具体的な言葉を考えさせ、教室に掲示する活動が紹介されています。目に入りやすい場所に言葉を置くことで、日常の会話の中で使ったり、その意味を思い出したりするきっかけになると番組は説明しています。
たとえば誰かが発言したときに「変だよ」と即座に否定する代わりに、「なぜそう考えたの?」と尋ねられるなら、会話は続けやすくなります。「ありがとう」「助かった」と具体的に伝えることができれば、仲間の行動にも注意が向きます。ただし、これらの例は当サイトによる応用であり、放送で同じ文言の指導が行われたと断定するものではありません。
相手を傷つける言葉を「減らす」のは、禁止するだけで十分か
傷つける発言を放置してよいわけではありません。いじめや侮辱があれば、その場の行動を止め、被害者の安全を確保する必要があります。しかし、子どもに「悪口を言うな」と言うだけでは、次にどう表現したらよいか分からないことがあります。
怒りや不満そのものを持ってはいけないわけではないからです。「嫌だった」「やめてほしい」「自分は別の考えだ」と、安全に言葉にできることも大切です。気持ちを無理に押さえ込むのではなく、相手を傷つけずに伝える選択肢を増やしていく。この読み方は価値語の考えを踏まえた当サイトの整理です。
子どもの心理を、一つの原因にしない
2015年の放送復習では、学級崩壊につながる子どもの言動を、自信の欠如と関連づける説明も登場します。ただし、特定の行動の原因を、すべての子どもに共通する一つの心理だけで説明できると考えるべきではありません。学校生活の困難には、いじめ、学習面のつまずき、子ども同士の関係、教師の支援体制、環境の問題などが重なり得ます。
荒れた教室を見て、子どもだけに原因があると決めるのも危険です。授業が成り立たない背景を具体的に確認し、誰にどんな支援が必要かを考えることが不可欠です。言葉遣いを改善する工夫と、学校の体制や安全確保は対立するものではありません。
「ほめ言葉のシャワー」とのつながり
明治図書の2018年の本人インタビューは、菊池が学級経営のなかで子どもを認める実践を重視していることを説明しています。また、菊池公式サイトの著書案内には、児童同士が互いのよさを伝える「ほめ言葉のシャワー」の取り組みが紹介されています。
人が自分をどう見ているのかが分かることは、集団の中で安心する一つの材料になります。教師だけがほめるのではなく、友達も他者の良い行動を見つける。このような関係をつくることは、教室の言葉が一方通行ではなくなることを意味します。
ただし、人前で褒められることに抵抗がある子もいます。安心できる関係をつくることが目的なら、形式に無理に合わせさせるのではなく、一人ひとりの受け止め方に配慮する必要があります。
言葉だけで学級崩壊を防げると考えない
「予防になる」という説明は、言葉遣いに取り組めば必ず学級崩壊がなくなるという実証済みの万能公式とは別です。学校の構造、教員の負担、児童一人ひとりへの支援、保護者や専門職との連携など、多くの条件が学級の生活に影響します。
言葉を整える取り組みは、その一部です。短期的に静かになっただけで安心せず、子どもが安全に相談できるか、授業に参加できるか、困りごとが置き去りになっていないかを確かめ続けることも求められます。
「良い言葉」の裏にある、聞く力
言葉の価値は、声に出した回数だけでは決まりません。相手が言いたかったことを聞き取り、すぐに決めつけないことも大切です。2020年の明治図書の本人インタビューでは、菊池が対話を人との関係や自己形成につながる取り組みとして説明しています。
聞く力がなければ、良い言葉も命令として受け取られかねません。「仲良くしなさい」と掲示するだけで、トラブルを抱えている子が話しやすくなるとは限りません。安心して事情を話せるか、違う意見を言えるかを、教師が確かめる必要があります。
家庭ではどう応用できるか
子どもに「優しい言葉を使おう」と伝えるとき、大人がどんな言葉で意見の違いを扱っているかも問われます。失敗した子どもを一方的に責めるのではなく、「何があったか一緒に考えよう」と伝える。意見が違えば、その理由を聞いてみる。日々の小さなやり取りが、言葉を学ぶ場になります。
もちろん家庭ごとの事情は異なり、同じ言い方が全員に合うわけではありません。気持ちが高ぶっているときに話し合いを急がず、落ち着いた時間を選ぶことも必要でしょう。これらは菊池の番組での逐語的な指導ではなく、記事のテーマに基づく当サイトの提案です。
職場の会議に広げる際の注意
職場でも、批判が人格攻撃になっていないか、異論を歓迎できるかを考えることができます。「それは違う」という判断が必要な場面はありますが、問題にすべきなのは人そのものではなく、提案や根拠です。相手の発言を最後まで聞くことが、より良い意思決定を助ける場合もあります。
ただし、心理的な安全性は明るい言葉を使うだけでは生まれません。権限関係、評価や報酬のあり方、不当な言動への対応も重要です。学校での実践をそのまま企業に転用できると断定せず、考え方の接点として受け取るべきでしょう。
菊池省三の関連する言葉を読み比べる
「コミュニケーション指導は人間形成に関わる」では、話す・聞く力が人との関係を育てる過程を説明しています。「褒めることは認めること」では、小さな行動を見つけて言葉にすることを検討しています。「自信がないから、つるむ」では、同調を強いる関係と個人の心理を混同しないよう整理しました。今回の8680では、学級全体にどんな言葉を増やすかという視点から、それらをつなげています。
出典と確認の範囲
出典状態:意訳・文言変化。確認できる出典は、2015年12月5日放送の日本テレビ『世界一受けたい授業』の公式復習ページです。放送局の説明は旧流通文言と意味が一致しますが、「いい/良い」「のです/んです」などに違いがあり、掲載記事は録音の逐語書き起こしと確証されたものではありません。別資料で確認した「価値語」は菊池の著書にある実践であり、その全てが2015年の同番組で語られたと主張するものではありません。
参考資料:日本テレビ「世界一受けたい授業」2015年12月5日放送復習 / 明治図書『365日の価値語』著者「はじめに」 / 明治図書・2018年の菊池本人取材 / 明治図書・2020年の本人取材 / 菊池省三公式サイトの著作案内。
