『シンデレラ』といえば、魔法使い、かぼちゃの馬車、十二時の鐘、ガラスの靴が思い浮かぶでしょう。けれども、これらがどの時代の、どの本文にあるのかを確かめると、物語の姿は変わります。
シャルル・ペローが1697年に刊行した「サンドリヨン」と、グリム兄弟の『灰かぶり』(1812年初版、1857年最終版)は、いずれもシンデレラ型の話ですが、魔法を与える存在、靴の材質、結末での継姉たちの運命が違います。
本記事ではフランス語の1697年刊行本文と、ドイツ語の1812年・1857年の翻刻を読み比べ、「本当の原作は一つだけ」と決めつけずに相違点を整理します。
「シンデレラ」の原作は一つではない
ペローの作品名は Cendrillon ou la petite pantoufle de verre(サンドリヨン、あるいは小さなガラスの靴)。1697年の『過ぎし昔の物語集』に収録され、フランス国立図書館の書誌で刊行情報を確認できます。
一方、グリム兄弟の Aschenputtel(灰かぶり)は『子どもと家庭のメルヘン集』のKHM21です。1812年に第1版、1857年に第7版が刊行されました。グリム兄弟自身も物語を編集・改訂しており、「グリム版」でもいつの版かを区別する必要があります。
昔話としてのシンデレラ型物語には、さらに多くの伝承があります。ペローが世界で最初にこの型を作ったとも、グリム兄弟が一から創作したとも断定しません。
ペロー版のあらすじ――かぼちゃ、妖精、ガラスの靴
ペロー版のサンドリヨンは、継母や継姉から召使いのように扱われ、灰のそばで暮らしています。王子の舞踏会へ行きたいと思っても、晴れ着がありません。
彼女を助けるのは代母(名付け親)の妖精です。妖精はかぼちゃを馬車に、ネズミを馬に、トカゲを従者に変え、華やかな服とガラスの靴を与えます。
ただし魔法は永遠ではありません。真夜中を過ぎると元に戻るため、サンドリヨンは時間に気を配って舞踏会へ出かけます。最初の夜は早めに帰りますが、二度目の夜には時間を忘れ、十二時の鐘を聞いて急いで逃げます。その際にガラスの靴を一足落としてしまいます。
王子は靴に合う足を持つ女性を探し、サンドリヨンにたどり着きます。そして彼女は王子と結婚します。
ペロー版の結末――継姉たちは許される
見落とされやすいのは、ペロー版の結末です。正体が明らかになると、継姉たちは彼女に行った仕打ちを謝罪します。サンドリヨンは二人を許し、宮殿に住まわせ、宮廷の貴族との結婚まで取り計らいます。
本文末尾には、物語の教訓として詩が二つ添えられています。一つは美しさに加えて「優雅な振る舞い」の価値を語り、もう一つは、才能や資質があっても後援者・後ろ盾がなければ世に出るのが難しいという、少し現実的な視点を示します。
「努力すれば絶対に幸せになる」という一句だけでは、ペローの結末と二つの教訓を言い表せません。本人の美徳だけでなく、誰に支えられるかという問題も物語に埋め込まれています。
グリム1812年版――母の墓の木と鳥が助ける
グリム兄弟の1812年版では、母親が亡くなる前に娘へ言葉を残し、娘は墓に木を植えます。継母と継姉たちは少女を虐げ、少女は灰のそばでつらい労働をさせられます。
彼女を助ける中心は母の墓の木と鳥たちです。鳥は豆を拾い分け、木は美しい衣装を与えます。ペロー版で重要な「妖精の代母」に置き換えて、この部分を説明してはいけません。
1812年版には舞踏会での深夜の帰還を促す場面や馬車が登場しますが、それはペロー版の魔法の代母・かぼちゃの馬車をそのまま収録したことを意味しません。同じ印象的な道具が出てきても、その仕組みが違うのです。
また、王子が探す相手を見分ける靴は、グリム版では金の靴です。ペロー版のガラスの靴と混ぜないようにしましょう。
グリム版で姉たちは何をする?――足の傷と結末の違い
グリム1812年版にも、靴を履くために継姉たちが足を傷つける描写があります。母親は靴に合わせるため、足の一部を切るように勧めます。王子は一度だまされますが、鳥の声によって靴の血に気づき、誤った花嫁を連れ戻します。
1857年最終版でも、継姉たちがつま先やかかとを切る場面は残ります。それに加え、結婚式に来た継姉たちの両目を鳩が突き、目が見えなくなる場面で物語が閉じられます。
つまり、強烈な身体的な罰のすべてが、私たちの見た1812年初版の最後にもそのまま載っているわけではありません。1812年本文の末尾は、鳥が正しい花嫁であることを知らせて王子が少女を連れて行くところで終わっています。「グリムの原作では」と紹介するときは、版の違いまで説明する必要があります。
小さな子どもに読み聞かせる場合、傷や失明の描写があることは事前に配慮したい点です。
ペロー版とグリム版の主な違い
| 項目 | ペロー1697年版 | グリム1812・1857年版 |
|---|---|---|
| 代表的な助け手 | 妖精の代母 | 母の墓の木と鳥 |
| 馬車 | かぼちゃを変える | 1812年版に馬車の描写があるが仕組みは異なる |
| 靴 | ガラス | 金 |
| 舞踏会 | 二夜の描写 | グリムの版により細部が異なる |
| 継姉たちの結末 | 許され、良縁を得る | 1857年版では失明に至る |
この表は三つの確認した本文を比較したもので、世界に存在する「シンデレラ型」すべての版の分類ではありません。
ガラスの靴は「毛皮の靴」の誤訳なのか?
ガラスの靴には「本当は毛皮(vair)だった」という説が語られることがあります。しかし、1697年のペロー版の刊行本文には明確に verre(ガラス)と表記されています。
フランス国立図書館の資料も、ペローの物語のガラスの靴を紹介しています。後世の推測を根拠に「初版の本当の靴は毛皮だった」と修正することはできません。民話の変種や語源を論じる場合も、確認できる刊行本文の表記を起点にしましょう。
「正しい靴」の違いは、何を意味するか
ペロー版ではガラスの靴が本人を見つける手がかりになり、グリム版では金の靴と鳥の知らせが、王子の誤認を正します。
どちらにも「見た目だけでは本当の人物を見分けられない」という読み方ができます。しかし、靴や鳥を作者が何の象徴として設計したかを、現存資料だけから一つに確定することはできません。
さらにペローは許しや後ろ盾へ、グリム1857年版は欺きへの罰へと結末の重点が変わります。同じ有名な題名でも、終わり方が違えば読後に残る問いも違うのです。
グリムの異版をさらに読む
同じグリム童話でも、『ラプンツェル』の1812年版と1857年版の比較では、物語の改訂によって登場人物の発言や展開が変わっています。
また、『かえるの王さま』の原作は、よく知られる「キスで変身」という再話との差を原典で確かめられます。昔話を読むときは、作品名だけではなく版と伝承を見分けることが大切です。
まとめ――どれが「本当のシンデレラ」?
ペロー1697年版には、かぼちゃの馬車、妖精の代母、ガラスの靴、継姉を許す結末があります。グリム版には母の墓の木と鳥、金の靴、足を傷つけて王子を欺こうとする継姉が登場し、1857年版では結婚式後の罰まで描かれます。
原作を確かめる目的は、誰かが覚えている物語を「間違い」と責めることではありません。どの本文がどの物語を語ったのかを区別することで、同じ主人公の多様な読みが生まれます。
ほかの童話も童話・寓話の総合案内で原典から紹介しています。
主な出典と確認範囲
- ペロー『Cendrillon』1697年刊フランス語本文:かぼちゃ、ガラスの靴、十二時、二つの教訓、継姉たちへの許しを確認した刊行本文の翻刻。
- フランス国立図書館(BnF)1697年刊行書誌:刊行年・収録作品を確認。
- グリム『Aschenputtel』1812年版:墓の木、鳥、金の靴、足の傷、1812年版の末尾を確認。
- グリム『Aschenputtel』1857年版:1857年版の靴、足の傷、結婚式と失明の結末を確認。
- グリム版1812年・1857年比較:改訂差を探す補助資料。本文の確認は上記の刊行版で実施。
確認の限界: 1697年、1812年、1857年の刊行本文の電子翻刻を比較したもので、全世界のシンデレラ伝承や後世の翻訳すべてを調査したわけではありません。現代の映画や絵本の文章は引用・転載していません。比較と現代的な解釈は本記事独自の記述です。