はじめに――チャンスを待つだけでよいのか
成功した人の話を聞くと、運よくチャンスに恵まれたように見えることがあります。しかし、後から振り返って初めて、地味な仕事の経験が次の機会につながっていたと気づく場合もあるでしょう。俳優アシュトン・カッチャーは2013年のTeen Choice Awards受賞スピーチで、機会と日々の仕事の関係を語りました。
本人が述べた短い表現は「opportunity looks a lot like hard work」。ここでは「チャンスは、懸命に取り組む仕事のような姿をしている」と説明します。好機が華やかな招待状で届くとは限らず、目の前の役割に取り組むことから次の可能性が生まれるという見方です。
発言は2013年8月11日のTeen Choice Awardsで、カッチャーがアルティメット・チョイス賞を受賞した際のものです。放送局系列のFOX6が当時の受賞スピーチを報じ、CBS Newsも同日の発言を記録しています。後世の名言画像ではなく、式典当時の資料に戻って読みます。
皿洗いから工場まで、若い頃の仕事
カッチャーは13歳で父親と屋根材を運ぶ仕事をし、その後も皿洗い、食料品店、工場の掃除などを経験したと演説で語っています。どれも映画スターの仕事とは大きく違います。華やかな職業に就く前に、さまざまな現場で働いた経験を自分の言葉で示したのです。
本人は一つひとつの仕事が次の仕事への足掛かりになったと振り返りました。ただし、この順序をそのまま他人に当てはめることはできません。同じ仕事を経験した人が必ず俳優になれるわけではないからです。自分の経験談と、誰にでも成立する成功の法則を混同しないことが重要です。
地味な仕事にも、時間を守ること、周囲と協力すること、相手が求めるものを理解することなど学べる点があります。一方で、劣悪な労働環境を我慢する必要まで肯定されません。成長につながる仕事を大切にすることと、不適切な条件から離れる権利は両立するはずです。
「魅力的」であるとは何か
演説でカッチャーは、一般に外見の話と受け取られやすい「セクシー」という言葉を意外な意味で使いました。知的であること、相手を思いやること、寛大であることが魅力につながると話したのです。人の価値を見た目や流行の基準だけで決めないという助言です。
彼は、劣等感を刺激して商品を売るようなメッセージに振り回されないでほしいとも伝えました。特に若い視聴者の多い授賞式だったことを考えると、外見への不安を抱く人にも向けた言葉だったと理解できます。他人がつくった理想像に合わせることだけが、自分の魅力を育てる方法ではありません。
ただし、知識や優しさを持つ人は必ず社会で評価されるという保証でもありません。個人の魅力には文化や環境による違いがあります。他人の期待に振り回されすぎず、自分が大切にする振る舞いを考えるきっかけとして受け止めたい言葉です。
自分の人生を「つくる」という呼びかけ
カッチャーは映画『スティーブ・ジョブズ』で本人役を演じた経験にも触れ、人生を誰かが用意した枠の中だけで考えないよう呼びかけました。作品の宣伝時期でもあったため、スティーブ・ジョブズの考え方を紹介する流れがありました。与えられた選択肢を選ぶだけではなく、自分で選択肢をつくる可能性を考えるという内容です。
ただし、演説中でジョブズに帰属させた言葉を、ジョブズ本人の一次資料で確認できたとみなすことはできません。ここで確実に言えるのは、カッチャーがその話を引用して卒業生世代の観客へ語ったということです。伝えた人物と、引用された言葉の本来の作者を分けて考える必要があります。
人生をつくるというと、起業や転職のような大きな行動だけを思い浮かべるかもしれません。しかし今の職場で仕事の方法を改善することや、地域の活動に参加することも選択の一つです。自分の手が届く範囲から変えていくという理解なら、実践しやすくなります。
小さな仕事を次の機会へ変えるには
日々の仕事で「何を学べたか」を短く振り返ってみます。結果が目立たなくても、困った点を改善した経験や、初めて誰かと協力できた経験は残るでしょう。仕事の価値を肩書だけではなく、次に使える知識や技術として見る方法です。
一方で、働いた時間が長ければ必ず成果につながるという考えには注意が必要です。十分な睡眠や休息を確保し、健康を守ることは大切です。努力の量だけでなく、目的に合った仕事をしているか、環境を変える必要がないかも考えるべきでしょう。
努力と社会への貢献を両方語った演説としてシュワルツェネッガーの「成功の6つのルール」があります。また、進路を選び直す視点はウィル・フェレルの2017年USC卒業式演説にもつながります。機会をつくることと、機会を見極めることを組み合わせたいところです。
まとめ――機会は仕事の中に隠れていることもある
2013年のカッチャーの言葉は、努力すれば必ず夢がかなうと保証するものではありません。目の前の仕事を単なる遠回りと決めつけず、そこから何を学び、次へどうつなげるか考えるという助言です。
大切なのは、仕事を続けることだけでなく、何をしたいのかを問い直すことです。自分に合わない環境へ無期限にとどまる必要はありません。小さな経験から学びながら、よりよい働き方を選び直すことも機会を生かす一つの形でしょう。
原典確認にはFOX系列局FOX6による2013年の当時の映像付き報道を用い、CBS Newsの同日付発言記録と照合しました。短い英語表現のみ引用し、映像やスピーチ全文・既存訳文の転載はしていません。