はじめに|職場にいるのに、なぜ仕事が進まないのか
会社へ仕事をしに行っているのに、重要な作業は帰宅後のほうが進む。そんな経験に心当たりはないだろうか。ソフトウェア起業家のジェイソン・フリードは2010年のTEDxMidwest講演で、オフィスで働く人の時間が、細かな割り込みによって分断されていると問題提起した。
講演の題名は「Why work doesn’t happen at work」。TED公式サイトによれば、フリードは職場を仕事に向いた場所へ変えるため、特に二つの要因を指摘し、三つの工夫を提案している。単なる在宅勤務の推奨ではなく、集中して働ける条件を考え直す話である。
本記事はTED公式の講演情報と英語の発言記録を確認して、会議、管理職による割り込み、静かな時間の設計を読み解く。2010年の講演者の体験と意見であり、あらゆる企業に同じ成果が保証された実験結果ではないことを前提とする。
背景|仕事が進む場所を尋ねると、なぜ自宅が挙がるのか
フリードは、重要な作業をするのに向いた場所や時間を人々へ尋ねると、自宅、移動中、早朝、深夜などが挙がりやすいと話す。オフィスに設備がそろっていても、最も集中できる場所だとは限らない。道具の豊富さと、途切れず考えられる時間の確保は別の条件だ。
彼は、仕事には段階を踏みながら深く考える過程があると説明し、その過程を睡眠にたとえる。何度も起こされてしまうと十分な睡眠が難しいように、複雑な仕事もたびたび中断されると進めにくいという比喩だ。作業時間の合計だけでなく、連続した時間がどれくらいあるかに注目している。
ただし、この比喩を神経科学の厳密な理論として扱う必要はない。睡眠と仕事の仕組みが医学的に同じだと証明する講演ではないからだ。中断の多さが体験上どのような問題を生むかを説明する、分かりやすい比喩として受け止めたい。
二つのM|管理職と会議が割り込みを生む
講演で繰り返し出てくるのが、管理職と会議を指す二つのMである。上司が進捗を確認しようと話しかけることも、予定された会議へ呼び出すことも、作業者の思考を中断する場合がある。悪意のない確認が、集中の妨げになり得るという指摘だ。
フリードはとりわけ会議について、参加者全員の時間を同時に使う費用を問題にする。一時間の会議に十人が参加したなら、個々の予定表では一時間でも、合計では十人分の時間が使われる。会議時間だけでなく、出席する人数と中断された仕事まで考える必要がある。
もっとも、管理職も会議もすべて不要だという結論は早い。安全確認や緊急対応、意見を出し合う場は重要である。やり取りが必要な場面と、一人で考える時間を守るべき場面を分けるという問いが、講演を実務へ生かす第一歩になる。
提案その一|木曜の午後を静かな時間にする
フリードが示す最初の工夫は、月に一度の木曜午後を、職場で互いに話しかけない時間として試すことだ。講演では「No-talk Thursdays」と呼び、四時間ほど誰にも邪魔されず取り組める時間を用意するという発想で紹介された。
大切なのは曜日そのものではない。事前に関係者へ伝え、緊急でない相談や打ち合わせをその時間帯に置かないことで、長い作業へ集中できるようにする。個人の意志に任せず、職場全体で中断を減らすことが特徴だ。
ただし、顧客対応や医療、安全に関わる仕事では、すべての連絡を止めることはできない。緊急窓口を維持するなど条件を調整したうえで、試した後に結果を確認したい。静かな時間をつくることと、必要な連絡を無視することは同じではない。
提案その二|非同期の連絡を使い分ける
二つ目の工夫は、すぐに相手を呼び止める連絡と、相手が自分の都合で読める連絡を使い分けることだ。フリードは電子メールやメッセージのように、後から確認できる方法を勧める。送る側の思いついた時刻を、受け取る側の作業中断の時刻にしないという考え方だ。
例えば情報共有だけなら、短い文章で送っておき、相手が作業の区切りに読む方法がある。一方、すぐ決めなければ影響が広がる問題なら、電話や対面の会話のほうが適切な場合もある。連絡手段を一律に決めるのではなく、緊急度と必要なやり取りで選ぶことが大切だ。
また、非同期の連絡を導入しても、即時返信を暗黙に要求していれば割り込みは減らない。返信期限や優先度を明確にする必要がある。道具の名前を変えるだけでなく、周囲がいつ反応すべきかという期待も設計し直すことで効果を考えられる。
提案その三|次の会議を一度取りやめてみる
三つ目の提案は、予定されている会議を一つ取りやめてみることだ。フリードは、別の日へ移すのではなく、本当に必要なのかを一度問い直すよう勧める。会議がカレンダーに入っていることと、開催する価値があることは別だ。
会議をなくす前には、目的、必要な判断、参加者を明確にするとよい。議事録の共有だけで済むなら文書で伝え、議論や合意が必要な点だけを短い時間で扱う方法もある。集まることを目的にせず、何を決めるために集まるのかを確認したい。
関連して、トム・ウージェックのマシュマロ・チャレンジは共同作業の試行錯誤を扱い、マーガレット・ヘファーナンの異論に関する講演は建設的な議論の価値を語る。集中のため会議を減らすことと、必要な協力や異論まで減らすことは違うと読み比べられる。
まとめ|職場の生産性は予定の空白からも生まれる
ジェイソン・フリードの2010年TEDx講演は、会議や進捗確認のたびに作業が中断され、オフィスが集中しにくい場所になっていると指摘した。仕事のために集まる場が、仕事をする時間を奪っていないかを問い直す内容である。
本人の提案は、静かな半日を設けること、非同期の連絡を増やすこと、不要な会議を取りやめることの三つである。必要な協力を残しながら、作業を続けられる時間を増やせるかを小さく試して確認したい。
主な出典:TED公式「Why work does not happen at work」2010年TEDxMidwest講演、TED公式・ジェイソン・フリード講演者紹介。具体的な三つの提案は講演の発言から整理し、現代の職場への応用は当サイトによる考察として記した。