「おごらず、他人と比べず、面白がって、平気に生きればいい」。俳優・樹木希林の言葉として知られるこの一節は、単なる「前向きになろう」という標語ではありません。娘の内田也哉子が母から受け取った言葉として葬儀の挨拶で紹介し、その後、書籍にも収録されたものです。誰が、どんな機会に伝えたのかを押さえると、言葉の距離感が変わります。
出典は『一切なりゆき』と、娘・内田也哉子の葬儀での挨拶
2018年9月30日、東京都内で行われた樹木希林の葬儀で、娘の内田也哉子が喪主代理として挨拶しました。その中で、生前の母から受け取った言葉としてこの一節を紹介したことを、出版元の文藝春秋が伝えています。その後、『一切なりゆき 樹木希林のことば』(文春新書)に収録されました。
文藝春秋の公式サイト「本の話」に掲載された2019年12月26日の記事は、葬儀での紹介と書籍収録の関係を明記しています。同記事の続きのページには書籍199ページの言葉として掲載されています。今回はこの出版社の説明と掲載文言を照合しました。ただし、母が娘へ初めて語った際の録音や発言日時までは確認できていません。
「人と比べず」ではなく「他人と比べず」
おごらず、他人と比べず、面白がって、平気に生きればいい
旧記事の引用では「人と比べず」「面白がって平気に」となっていましたが、文藝春秋が示す書籍掲載形は「他人と比べず」「面白がって、平気に」です。似た表現が流通しても、表記の違いを黙って同一視せず、当サイトでは出版社が示す形を本文の基準にします。会話の口調や読点の位置まで最初の口頭発言と一致する、と断言しているわけではありません。
「おごらず」は、自分の価値を消すという意味ではない
何かがうまくいったとき、人は成果を自分だけの力だと感じやすくなります。「おごらず」を、自分の努力を否定することだと読む必要はありません。努力と同時に、周囲の支えや偶然もあったと考える余地を持つこと。この言葉には、地位や評判が変わっても他者への態度を必要以上に変えない、という生き方を読み取れます。
ただし、ここから先は当サイトによる解釈です。樹木希林が「おごらず」を特定の心理学的な技法として説明した証拠があるわけではありません。短い言葉から、そのまま人生全体の思想を逆算しすぎないようにしたいところです。
「他人と比べず」は、違いをなくすことではない
他人と比較することには、学習や改善のための有益な側面もあります。しかし、比較した瞬間に自分の価値まで上下するように感じると、生活は窮屈になります。ここでいう「比べず」は、他人の状況をまったく見ないことではなく、人生の評価基準を他人のものさしだけに預けない態度として読むことができます。
文藝春秋が実施した読者アンケートでは、この一節がもっとも多く選ばれました。回答者は、比較による息苦しさや、日常で言葉を繰り返し読み返すことについて述べています。読者の受け止め方は、本人の発言意図を直接証明するものではありませんが、なぜ後世に届いたかを考える手掛かりになります。
「面白がって」と「平気に」を両方残す
「面白がる」とは、目の前の出来事をすべて楽しいものとして取り繕うことではありません。思いどおりにならない状況を、観察したり、新しい見方を探したりする余地を残すこと、と読めます。一方「平気に」は、傷つかない人になる命令とも限りません。周囲の評価に振り回されすぎないようにしながら、無理に強がらず暮らす姿勢として受け止められます。
四つの動詞は、他人に立派さを示すためというより、自分の生活をどう引き受けるかを考えるための言葉として並んでいます。家族への言葉として伝わった背景も、そこに個人的な温度を与えています。
現代の暮らしでどう使えるか
仕事の評価やSNSの反応で気持ちが大きく揺れたとき、「誰に勝ったか」より「今日は自分なりに何を選んだか」と問い直してみる。予定が崩れた日には、失敗の原因を点検しつつ、その中で見つかった新しい発見を一つ書き留める。自分に許す休息を、他人の生産性と比較しない。このような小さな工夫なら、言葉の意味を単なる励ましの看板にせず、生活へつなげられます。
出典と確認範囲
出典状態:出典確認済み(書籍・出版元資料)/流通文言に差異あり。文藝春秋の公式記事と『一切なりゆき』の掲載ページ案内により、引用の書籍収録と葬儀での紹介を確認しました。娘に伝えられた時点の原音や正確な発言日時は未確認です。旧記事の「人と比べず」と、出版社の「他人と比べず」は区別して記載しました。
資料:文藝春秋「2019年ベストセラーの中で、最も読者の心に響いたのは希林さんのこのことば」 / 同記事2ページ目(199ページの表記を案内) / ORICON NEWS(挨拶と書籍収録の補足)。
関連して読む:樹木希林「あんまり頑張らないで、でもへこたれないで」 / 「失敗したら、そこからスタート」 / 名言の出典ステータスについて。
