完璧な戦略が「スルー」され、泥臭い想いが「刺さる」という矛盾
「競合分析も完璧、SWOT分析に基づいたポジショニングも明確、LPの構成も心理学的に正しい。それなのに、なぜ顧客は動かないのか?」
多くのひとりマーケターが、この壁の前で立ち尽くしています。
あなたは日々、限られたリソースの中で最適解を導き出そうと必死にロジックを積み上げているはずです。しかし、皮肉なことに、あなたが完璧に整えたプレゼン資料よりも、創業者がたどたどしく語る「過去の苦労話」や、論理を超越した「異常なこだわり」の方が、クライアントの心を動かし、大型契約を決めてくることがあります。
これは「情熱」という曖昧な言葉だけで片付けられる現象ではありません。ここには、B2Bマーケティングにおける構造的な「限界」と、それを突破するための「原理」が隠されています。
本稿では、ロジックの限界を認め、創業者の「原体験」や「執念」をいかにしてマーケティングの最強の武器へと変換するか、その思考法を解説します。これは、目先の数字を追うためのハックではなく、あなたが扱う商材を「代替不可能」な存在へと昇華させるための本質的なアプローチです。
正しさの罠:なぜ「完璧なロジック」は人を動かせないのか
ロジックは「間違いではない」ことを証明するためのツールであり、「選びたい」と思わせるトリガーではありません。
人は感情で意思決定し、論理でそれを正当化するという人間心理の根本を理解する必要があります。
私たちはビジネスの現場において、「正しさ」こそが正義だと教わってきました。機能的優位性、コストパフォーマンス、導入効果の試算。これらは確かに必要条件ですが、十分条件ではありません。なぜなら、現代において「ロジック」は最もコモディティ化しやすい資源だからです。
競合他社もまた、優秀なマーケターとAIを用いて、あなたと同じような「正解」を導き出します。結果として、どの企業のメッセージも「高品質・低コスト・安心安全」という、非の打ち所がないがゆえに退屈な「金太郎飴」になります。
【よくある失敗パターン:スペックの羅列と正論の暴力】
「多機能で、安くて、サポートも充実しています」という、隙のない提案書を作ってしまうケースです。これは論理的には正しいですが、顧客からすれば「他社と比較検討するための材料」に過ぎません。比較可能な土俵に乗った時点で、それは価格競争への招待状を書いているのと同じです。完璧なロジックは、皮肉にも「断る理由」を消すだけで、「熱狂的なファン」を生むことはないのです。
原体験という「資産」:模倣不可能なストーリーの構造
機能や価格はコピー可能ですが、創業者の「原体験」とそこから生まれる「狂気的な執念」は、誰にもコピーできません。
これこそが、資本力のない中小・ベンチャー企業が持ち得る、唯一にして最大の「参入障壁」です。
なぜ、創業者の不器用な話が刺さるのか。それは、そこに「Why(なぜやるのか)」の強烈な証明があるからです。
サイモン・シネックの「ゴールデンサークル」を持ち出すまでもなく、人は「What(何をしているか)」ではなく「Why(なぜしているか)」に惹かれます。しかし、多くの企業が掲げる「Why」は、後付けの綺麗なミッションステートメントになりがちです。
一方で、創業者の原体験――例えば「過去に自分がこの課題で絶望的な経験をした」「既存の業界慣習に対する強烈な怒りがある」といったエピソードは、その「Why」が嘘ではないことを裏付ける、強力なエビデンスとして機能します。
顧客、特にB2Bの決裁者が最後に恐れるのは「導入したサービスが中途半端に終わること」です。論理的な戦略は市場環境が変われば変更される可能性がありますが、原体験に基づいた「執念」は、市場が変わろうとも揺らぎません。
「この創業者は、儲からなくなってもこの課題解決を諦めないだろう」という信頼感。この「人間的な担保」こそが、ロジックを超えて人を動かす正体です。
翻訳者としてのマーケター:熱量を「戦略」へ変換するフレームワーク
ひとりマーケターの役割は、ゼロからきれいなストーリーを創作することではありません。
創業者の内にある、泥臭く、時に独りよがりな「熱量」を発掘し、顧客に伝わる言葉へと「翻訳」することです。
多くのマーケターは、創業者の話を「洗練されていない」と感じ、マーケティング的に「整えよう」としてしまいます。しかし、その「整える」行為こそが、独自性を削ぎ落とす原因です。
ここでの正しいアプローチは、以下のステップで「翻訳」を行うことです。
1. 狂気の源泉へのインタビュー(Digging):
表面的なビジョンではなく、「個人的な怒り」「原体験」「恥ずかしいほどのこだわり」を聞き出してください。「なぜそこまでやる必要があるのですか?(合理的ではないですよね?)」という問いかけが有効です。
2. 普遍化(Universalizing):
その個人的な執念が、顧客にとっても「救い」になる接点を見つけます。「創業者の個人的な怒り」を「業界全体の課題に対する義憤」へと接続させるフェーズです。
3. 言語化(Verbalizing):
綺麗なキャッチコピーにするのではなく、多少荒削りでも「体温」が残る言葉を選びます。
【よくある失敗パターン:狂気の漂白】
創業者の「業界をぶっ壊したい」というような鋭利な言葉を、マーケターが気を回して「業界の革新に貢献します」といった無難な言葉に書き換えてしまうことです。これは「狂気の漂白」であり、最も避けるべき行為です。角を丸めることは、刺さる力を失うことと同義だと心得てください。
現代的実践:テクノロジーで「人間臭さ」をデリバリーする
AIやMAツールは、ロジックを自動化し、人間が「感情の伝達」に集中するための時間を生み出すために存在します。
不器用な情熱を、テクノロジーの力で効率的に、かつ劣化させずに届ける設計が求められます。
「原体験や執念が大事」というと、全てのデジタル施策を捨ててアナログ営業に戻れという話に聞こえるかもしれませんが、そうではありません。現代のひとりマーケターは、この「人間臭いコンテンツ」をデジタルの力で増幅させる必要があります。
• 生成AIの活用: 戦略の骨子やデータ分析、一般的なSEO記事の作成はAIに任せます。そこで浮いたリソースを、創業者へのインタビューや、ドキュメンタリータッチのコンテンツ制作(動画やnoteなど)に全振りしてください。
• オートメーションにおける「体温」:
MA(マーケティングオートメーション)のシナリオメールにおいても、無機質な機能紹介ではなく、創業者の独白のような「手紙」形式のメールを組み込むことで、開封率と反応率は劇的に変わります。
テクノロジーは「効率化」のために使うだけでなく、最も非効率である「人の想い」を届けるパイプラインとして設計する視点を持ってください。
まとめ:あなたは「綺麗な嘘」をつく人か、「泥臭い真実」を届ける人か
ロジックの積み上げは重要です。しかし、それは「スタートラインに立つための資格」に過ぎません。
マーケターとしてのあなたの価値は、整った戦略図を描くこと以上に、その企業だけが持つ「体温」を市場に伝播させることにあります。
創業者の不器用な原体験や執念は、一見すると非合理で、マーケティングの教科書からは外れているように見えるかもしれません。しかし、AIがどれだけ進化しても、「痛み」や「執念」を感じることはできません。つまり、そこにある物語だけが、今後も決してコモディティ化しない「聖域」なのです。
明日からの仕事において、少しだけ視点を変えてみてください。
どうすればもっとスマートに見せられるかではなく、「どうすればこの泥臭い本気度が、そのままの熱量で伝わるか」を考えてみてください。
その不格好な真実こそが、誰かの心を深く、強く突き刺すはずです。