「今回の展示の白眉は、この一枚だ」「彼の演奏はコンサートの白眉だった」。こうした表現で使われる「白眉(はくび)」は、集まった人や作品のなかでも、とりわけ優れているものを指します。
なぜ「白い眉」が「最も優れたもの」になったのでしょうか。その出典は『三国志』の「蜀書・馬良伝」に記録された、馬良(ばりょう)と兄弟たちに関する郷里の評判です。出典の文字を読むと、見た目の特徴が、能力に対する評価を覚えやすくする言葉へ変わったことが分かります。
「白眉」の読み方と意味
「白眉」は「はくび」。本来は文字どおり白い眉毛の意味です。現代日本語では、同種の複数の人や作品のうちとりわけ優れている人・作品・部分を意味します。小学館の『デジタル大辞泉』にも、その二つの意味が記されています。
「数ある短編の中でも、この作品が白眉だ」のように使います。「珍しいもの」「人気が高いもの」だけを指す言葉ではなく、何を優れた点と評価したかが伝わる場面に向いています。
『三国志』「馬良伝」には何と書かれているか
典拠は陳寿『三国志』巻三十九、蜀書第九の「馬良伝」です。中国哲学書電子化計劃に収録された本文と、Wikisourceに公開された『三国志』の電子転写を照合すると、次の短い句があります。
「馬氏五常、白眉最良。」
原文には、馬良とその兄弟五人はみな才能によって名が知られており、郷里の人がこのように言った、と記されています。馬良は字を季常(きじょう)といい、眉の中に白い毛があったため、この言い回しで称えられたと続きます。
当サイトの説明訳なら、「馬氏の五人はいずれも優れているが、その中でも白い眉の馬良が最もよい」といった趣旨です。これは当サイトの現代語による説明であって、古代の人が日本語で言った言葉ではありません。
「馬氏五常」の「常」とは
馬良の字は「季常」。『三国志』の本文に「馬氏五常」とあることから、郷里の人々が五人の兄弟をひとまとめに「五常」と呼んだことが分かります。『日本大百科全書』は、兄弟の字に共通の「常」の字があったことが、この呼び名の背景だと解説しています。
ここでの「五常」を、儒教の徳目として知られる「仁・義・礼・智・信」の五常と自動的に同一視する必要はありません。漢字は同じでも、今回の故事では馬氏の五兄弟を指す言葉です。
また、「良」という字には良いという意味がありますが、史料に書かれていることは、白眉の馬良を兄弟の中で最も優れていると評したという事実です。彼の人生のすべての場面で、ほかの兄弟より能力が高かったと客観的に証明した記録ではありません。
なぜ眉毛の色が評価の言葉になったのか
馬良の眉の中に白い毛があった、という説明は史料の中にあります。ただし「白い眉を持つ人は優秀になる」という意味ではありません。
もともと才能で知られた五人の中で、馬良を指す目立った特徴が「白い眉」でした。その特徴を使った郷里の言い回しが、やがて特に優れた人や作品を指す一般的な表現として使われるようになりました。
身体的な特徴と人格・能力に因果関係があると主張するものではありません。外見によって現代の人の能力を判断するための言葉と混同しないようにしましょう。
馬良はどんな人物だったのか
馬良は後漢末から三国時代にかけての人物で、劉備に仕えました。『三国志』「馬良伝」は、彼が荊州で任用され、諸葛亮と文書を交わし、呉との交渉に関わったことなどを記しています。
諸葛亮を文書の中で「尊兄」と呼ぶ箇所がありますが、これだけから二人が実の兄弟だったとは断定できません。『三国志』の注釈者である裴松之も、義兄弟のような関係または親しい関係だった可能性に言及しています。
馬良の弟には馬謖(ばしょく)がおり、『三国志』には街亭の戦いに関する記事もあります。しかし「白眉」という呼び名は、後の街亭の敗戦と比較して後から付けられた、と原文に記載されているわけではありません。別の時期の出来事を、安易に由来としてつなげないことが重要です。
三国志の歴史書と小説を混ぜない
『三国志』という名前から、小説『三国志演義』やその映像化を思い浮かべる人もいるでしょう。今回の故事について直接確認したのは、歴史書の『三国志』「馬良伝」です。
歴史書の記述にも伝承や当時の人物評価が含まれますし、すべての事実を完全に確証できるわけではありません。それでも、小説独自の台詞や描写を根拠なく「馬良伝の原文」へ混ぜるべきではありません。作品の種類と版を分けることが、故事の背景を正しく理解する基本です。
「白眉」と「傑作」「代表作」の違い
- 白眉:複数のものの中でも特に優れているもの。比較や評価の含みがある。
- 傑作:出来ばえが優れている作品。その集団で最上位かどうかは必ずしも表さない。
- 代表作:作者・人物を代表するよく知られた作品。評価の高さと知名度は別の場合がある。
- 最高傑作:最も優れた作品という強い評価。何を基準にするかが問題になる。
例えば「人気が最も高い小説」と「文学的に最も優れていると考える小説」は必ずしも同じではありません。「白眉」と書くときには、優れたと考える理由も一緒に示せると、読者に伝わりやすくなります。
使い方の例文
- 「五人の発表の中で、現場の調査まで踏み込んだ発表が白眉だった。」
- 「今回の展覧会の白眉は、制作過程を追えるこの作品だ。」
- 「この短編集の白眉は、最後の一篇だと思う。」
いずれも話し手による評価です。文学・美術・研究などには、複数の評価軸があります。「白眉」といったからといって、第三者の評価が一致することを証明するわけではありません。
「白眉」を読んで考えられること
馬良が優れていたという評判は、本人の白い眉毛だけではなく、兄弟全員の才名とともに語られています。そのため、この故事からは「一人だけをほめて、ほかを貶める」という発想だけでなく、優れた仲間の中で人を評価する難しさも考えられます。
優れた作品を選ぶときには、判断の基準を確認し、評価が異なる人がいることも認められます。これは古代の史官が現代の評価制度を提案したという意味ではなく、当サイトによる現代的な読み方です。
子どもと考える問い
- 五人の兄弟は、どんなところを優れていると考えられていたのだろう。
- 見た目と、その人が得意なことは同じだろうか。
- 友だちのよいところを伝えるなら、どんな具体的なことを話したいだろう。
- 絵や本の中で「これが白眉だ」と思ったら、なぜそう感じたのだろう。
まとめ|白い眉は、才能に対する評判を伝える目印だった
「白眉」は、『三国志』「馬良伝」の「馬氏五常、白眉最良」に由来します。五人の兄弟がそれぞれ才能で知られる中、眉に白い毛のあった馬良が最も優れていると評されたことから、特に優れた人物や作品を表す言葉になりました。
原典に戻って読むと、単に「白い眉毛が幸運をもたらす」といった話ではなく、人物の特徴を使って才能への評判を伝える故事だと分かります。ことわざ・故事の案内では、ほかにも古典から生まれた言葉を紹介しています。
原典・辞典・確認した範囲
- 中国哲学書電子化計劃『三国志』「蜀書第九・馬良伝」:五人兄弟、馬良の白毛、「馬氏五常、白眉最良」の記述。
- Wikisource『三国志』巻39:馬良伝と裴松之注の電子転写。
- コトバンク収載の小学館『デジタル大辞泉』『日本国語大辞典』『故事成語を知る辞典』等「白眉」:意味、日本語用例、故事。
- 台湾教育部『重編国語辞典修訂本』「白眉」:馬良と白眉の表現の説明。
出典状態:『三国志』「馬良伝」の伝世本文を電子転写で照合し、日本語・中国語の辞典資料でも意味を確認しました。郷里の人々が実際に何人、どのような状況でこの句を用いたか、すべての異本や写本までは確認していません。本文の日本語説明と現代の用例は当サイトの独自文章です。