『三びきのくま』の原作は金髪の少女ではなかった?|1831年写本と1837年版の違い

『三びきのくま』と聞けば、森の家に入った金髪の少女が、おかゆを食べ、椅子に座り、ベッドで眠ってしまう物語が浮かぶかもしれません。けれども、よく知られる「ゴルディロックス(金髪の少女)」という主人公は、確認できる古い版では別の人物でした。

1837年に英国で出版されたロバート・サウジーの『三びきのくま』では、熊たちの家にやってくるのは少女ではなく年老いた女性です。さらに、サウジーの印刷本より前、1831年にエレノア・ミュアが作った同題の写本が残っていることが図書館の書誌から分かります。今回は資料ごとの確実な範囲を分け、登場人物と結末がどう変化したかを考えます。

まず押さえたい:1837年版は「熊の家族」ではない

サウジー版の冒頭に出てくる熊は、大きな熊、中くらいの熊、小さな熊の三匹です。この本文は、三匹を父・母・子という親子の組み合わせとして紹介しません。現代の再話によくある「お父さん熊、お母さん熊、子熊」とは別の設定です。

熊たちは森の中の家で暮らし、それぞれに大きさの違うおかゆの器、椅子、ベッドを持っています。おかゆが熱すぎるので、熊たちは冷める間に森へ散歩に出かけました。その留守中に、年老いた女性が家に入り込みます。

あらすじ①:勝手におかゆを食べる訪問者

女性は窓や鍵穴から家の中をうかがい、留守だと分かると扉を開けて入ってしまいます。サウジー版の語り手はこの女性をしつこいほど悪く評価しますが、それも1837年の物語の語り口として受け止めたい部分です。

彼女はまず大きな熊のおかゆを味見しますが、熱すぎます。中くらいの熊のおかゆは冷たすぎます。そして小さな熊のおかゆは、熱くも冷たくもなく、ちょうどよい温度。女性はその器を空になるまで食べました。

ここでの繰り返しは、大・中・小を順番に比べ、三番目で『ちょうどよい』状態へたどり着くという有名な型を作っています。しかし、この時点では、行動を選んでいるのは金髪の無邪気な子どもではありません。

あらすじ②:椅子が壊れ、ベッドに眠る

次に女性は椅子へ座ります。大きな椅子は硬すぎ、中くらいの椅子は柔らかすぎます。小さな椅子は気に入りましたが、長く座った末に座面を壊してしまいます。

そして寝室へ入り、三つのベッドを試します。大きいベッドは頭の部分が高すぎ、中くらいのベッドは足元が高すぎる。小さなベッドはちょうどよく、女性はそこで眠ってしまいました。おかゆ・椅子・ベッドという三つの段階の反復が、聞き手の予想と期待を生みます。

あらすじ③:帰ってきた熊たちの声

散歩から戻った熊たちは、おかゆを誰かが食べた痕跡に気づきます。大きな熊、中くらいの熊、小さな熊が、声の大きさまで変えながら同じ事実を確かめます。小さな熊のおかゆだけがなくなっていました。

続いて椅子を調べると、小さな熊の椅子が壊されています。寝室へ向かうと、ベッドにも誰かが寝た痕跡があります。最後に小さな熊が自分のベッドをのぞき、まだ眠っている侵入者そのものを見つけました。

原文は「大・中・小」の三回を何度も繰り返します。単純な話でも読み聞かせで独特のリズムが生まれるのは、登場人物や出来事の数だけでなく、声の高さや繰り返しを文章が要求しているからです。

1837年版の結末:女性はどうなった?

目覚めた女性は、三匹の熊を見て窓から飛び出します。ところがその後の運命を、語り手は確定しません。落ちて首を折ったか、森で行方不明になったか、あるいは警官に捕まり施設へ送られたかもしれない、といくつかの可能性を示し、熊たちが彼女を二度と見なかったところで終わります。

現代の子ども向け再話では、女の子が逃げ帰って終わる結末が多く知られています。しかし、1837年版を「あどけない少女がちょっといたずらをして無事に帰った話」と説明することはできません。原典の最後は、侵入者のその後をあえて決めずに残すのです。

さらに古い1831年の写本――最古と断定してよい?

サウジー版は1837年に出版されましたが、ニュージーランド国立図書館やCiNiiの書誌は、エレノア・ミュア(Eleanor Mure)が1831年9月に制作した韻文版『The Story of the Three Bears』の写本を紹介しています。1967年刊の複製本は、トロント公共図書館のオズボーン児童書コレクションに所蔵される写本を再現したものと記されています。

ここで確認できたのは、1831年の日付を持つ写本が現存し、1837年の印刷本より古いという書誌情報です。一方、今回その写本の本文全ページを実見・翻刻比較したわけではありません。したがって、1831年版と1837年版の台詞や結末の細部を、見てきたかのように列挙することは避けます。また、1831年版が存在するからといって、この物語がその年に初めて生まれたとも証明されません。

ゴルディロックスはいつ現れたのか

英語で広く知られる題名は *Goldilocks and the Three Bears*。今日の再話では金髪の少女と、父熊・母熊・子熊という家族構成が定着しています。しかし、1837年のサウジー版の本文に『ゴルディロックス』は登場しません。

少女への変更や固有名詞の定着は、後世の語り直しを調べるべき課題です。一般向け解説には複数の年代説がありますが、今回の一次的な確認資料だけで、名前がいつどの印刷物に最初に現れたかを確定することはできません。そのため、特定の年を『金髪の少女の初登場』と断言しないでおきます。

この物語は「ちょうどよさ」だけを教えるのか

温度や椅子の硬さがちょうどよいという仕掛けは、物語を記憶しやすくしています。しかし、1837年版を読むと、もっとはっきりと描かれているのは、他人の家へ勝手に入り、食事を食べ、家具を壊す行為です。熊たちは繰り返し、食べ物や椅子やベッドに何かが起きたと確かめます。

それでも、これを単に『子どもは勝手に他人の家へ入ってはいけない』という教訓だけに縮める必要はありません。大・中・小のリズムや語り手の誇張表現を楽しみ、なぜ後世の語りでは侵入者が少女に変わったのかという受容の歴史へ興味を広げられます。年老いた女性を否定的に描いた当時の語り手の偏見を、現代の高齢者に対する評価として引き継ぐべきでもありません。

『シンデレラ』『赤ずきん』と比べる

『シンデレラ』のペロー版とグリム版の比較や『赤ずきん』のペロー版・グリム版でも、知っている話と古い本文の間に違いがあります。ただし、物語の変化を何でも同じ『改変』として扱うのではなく、刊行年や作者・編者の介入、口承と創作との関係をそれぞれ調べることが必要です。

まとめ:三つの大きさの裏にある、登場人物の変化

『三びきのくま』の1837年刊行版では、熊たちは大きさの異なる三匹であり、家に入るのは年老いた女性です。おかゆ、椅子、ベッドの三つの反復が物語を動かし、最後に女性は窓から逃げて、その後の行方ははっきりしません。さらに1831年の写本の存在が確認できるため、1837年を物語の絶対的な起点とみなすこともできません。

なじみ深い童話だからこそ、いつの本文を読んでいるのかを確かめると、今までとは別の物語の顔が見えてきます。ほかの童話・寓話の古い版を探すには童話・寓話の総合案内へ。

参考資料・調査範囲

出典確認の限界: 1837年の印刷本文は直接読めましたが、1831年の写本は図書館の書誌説明を確認したにとどまります。全ての口承伝承、少女への変化の最初の発生時点、固有名『Goldilocks』の初出は確定していません。現代日本語訳・絵本の文章は転載していません。

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