『三匹の子ぶた』は、ワラ・木・レンガの家を作る三匹がオオカミに襲われる話として知られています。「手を抜かず、丈夫なものを作ろう」という教訓を覚えている人も多いでしょう。ところが、1890年の英語の物語集に収められた話では、最初の二匹は助かりません。そして三匹目が生き残るのは、レンガの家を作ったことだけが理由ではないのです。
この記事では、ジョセフ・ジェイコブズ編『English Fairy Tales』(1890年)の「The Story of the Three Little Pigs」を中心にあらすじと結末を確かめ、1933年のディズニー短編映画との違いを読みます。昔話の「唯一の原作」を決めるのではなく、確認できる特定の版と、後世の再話を分けるための記事です。
まず確認する:『三匹の子ぶた』の作者は誰か
英国の民話・昔話を集めたジョセフ・ジェイコブズの『English Fairy Tales』には、この物語が「The Story of the Three Little Pigs」として収められています。Project Gutenbergの英語本文で全文を読めます。同書の「Notes and References」で、ジェイコブズは出典を「Halliwell, p.16」と記しています。
ジェイコブズをこの物語の編纂・再話者として扱うことと、物語そのものを彼が最初に創作したと断定することは違います。彼自身の序文には、子どもたちが読みやすい形にするための編集に関する説明があります。さらに物語には類話もあるため、1890年版を「歴史上最初の三匹の子ぶた」とは呼びません。
1890年のジェイコブズ編纂版を読み直す
1. ワラの家とハリエニシダの家
母親に送り出された三匹は、それぞれ家を作ります。第一の子ぶたはワラで家を建てます。オオカミが現れ、家を吹き飛ばして子ぶたを食べます。第二の子ぶたは furze(ハリエニシダなどを指す低木)で家を建てますが、こちらも家を壊され、食べられてしまいます。
日本語の再話では二番目の家を「木の家」と呼ぶことがあります。しかし、ジェイコブズ版の本文では、木材一般を意味する wood ではなく furze です。なじみのある訳語と、今回参照した版の材料を同一視しないようにします。
2. レンガの家は壊されない
第三の子ぶたはレンガで家を建てます。オオカミがいくら息を吹きかけても、その家は倒れません。ここだけを取り出せば「時間をかけて堅固なものを作った方がよい」という読み方ができます。ですが、物語はここで終わりません。
3. それでもオオカミは諦めない
家を吹き飛ばせなかったオオカミは、第三の子ぶたを外へ誘い出そうとします。カブ畑、リンゴの木、そして市へ出かける約束を持ちかけるのです。子ぶたは約束より早く出かけたり、リンゴを遠くへ投げて相手の注意をそらしたりして難を逃れます。
市の場面では、子ぶたはバターを作る道具(butter-churn)の中へ入り、それが坂を転がることでオオカミを驚かせます。レンガの壁は安全の基盤ですが、危険が壁の外へ広がったときには、時機を読むことや機転が必要だったと読めます。これは物語の展開に基づく解釈であり、ジェイコブズが心理学的な理論を提示したという意味ではありません。
4. 煙突から入ったオオカミの結末
最後にオオカミは煙突から家へ侵入しようとします。第三の子ぶたは煮立った鍋でオオカミを仕留め、物語は子ぶたがオオカミを食べるという結末を迎えます。最初の二匹の救出劇は、この1890年版にはありません。 子ども向けに柔らかく語られた記憶と違っても、それを直ちに「本来の唯一正しい結末」と呼ぶ必要はありません。
1933年のディズニー版では、何が変わったのか
ディズニーの1933年の短編映画『Three Little Pigs』について、Disney+の作品紹介は、三匹とも第三の子ぶたのレンガの家へ逃げ込む筋を明記しています。ディズニー公式のD23作品事典でも、1933年公開、ワラと木の家が壊され、オオカミが煙突から入ろうとする展開を確認できます。
この違いは小さくありません。ジェイコブズ版では、準備しなかった者は失われ、最後の子ぶたが一人で危機に向き合います。ディズニー版の説明では、丈夫な家が他の二匹の避難場所になります。一人の生存を描く話と、三匹が生き残る話では、読者が受け取れる問いも変わります。 ただしディズニー版だけから、制作陣の教育的意図を断定することはできません。
『三匹の子ぶた』は「努力しない者への罰」の話なのか
ワラの家が壊れたことから、「怠ける人は失敗する」という読み方はできます。しかし、ジェイコブズ版では第一・第二の子ぶたの仕事ぶりや材料選択の理由が、現代の再話のように「遊んでばかりいたから」と詳細に説明されるわけではありません。選んだ材料と結果が結びついていることと、登場人物の性格や努力量を知っていることは別です。
また「丈夫な家を作れば必ず安全」という教訓にも限界があります。作中ではオオカミが家を壊せなくても、外で待ち伏せをし、最後は煙突から侵入します。守るべきものがあるとき、頑丈な仕組みだけでなく、脅威に気づき、状況に合わせて行動する能力も問われていると読めます。
三匹の違いから考えられる三つの問い
- 準備できる条件は同じだったか:誰もがレンガを手に入れられたのか。物語の本文はそこまで説明していません。現実の能力差を本人の努力だけで説明しないための問いです。
- 備えは何のためにあるか:準備は個人の安全を守るためだけか。他者が危険に遭ったとき、避難場所を共有できるか。これはディズニー版から考えられる読み方です。
- 物語はどう語り継がれるか:登場人物の生死や結末を変えると、どんな価値観が前面に出るか。異なる版を比較することで、普段当たり前に思っている「教訓」を問い直せます。
この三つは原作者の主張を復元したものではなく、複数の版を読んだ現代の読者に開かれる問いです。昔話を一つの道徳の正解に閉じ込めず、なぜその版ではそうなったのかと考える入り口になります。
子どもに読むなら、どの版を選ぶか
小さな子どもに読む場合、二匹が食べられ、オオカミも食べられるという古い版の結末は刺激が強いかもしれません。怖い場面を避けた再話を選ぶことは、古い版を否定することではありません。大切なのは、どの版を読んでいるかを理解し、別の結末も存在すると知っておくことです。
ある年齢で「レンガの家の強さ」を楽しみ、少し大きくなってから「最初の二匹はどうなったのか」「オオカミが家を壊せない後、なぜ話が続くのか」を確かめてもよいでしょう。年齢別の読み聞かせ効果を実証した研究として書いているわけではなく、読書の提案です。
まとめ:強い家だけでなく、物語の変化も見る
『三匹の子ぶた』の1890年ジェイコブズ版では、最初の二匹はオオカミに食べられ、最後の一匹は家の頑丈さと機転で危機を切り抜けます。1933年のディズニー版では三匹がレンガの家へ避難します。同じ題名でも、何が起こり、誰が生き残るかが違うのです。
ほかの昔話でも結末の違いを読みたいなら、『赤ずきん』のペロー版とグリム版や『アリとキリギリス』の伝承と再話も参考になります。童話・寓話を読み比べるガイドから、別の物語にも進めます。
出典と確認範囲
- Joseph Jacobs 編, English Fairy Tales(1890年), “The Story of the Three Little Pigs”および “Notes and References”:英語の物語全文、二匹の結末、カブ・リンゴ・市・煙突の場面、「Source.—Halliwell, p.16」という編者注記を確認。
- Project Gutenberg 書誌(eBook 7439):作品集と編者の情報。公開電子版は1890年の刊本そのものの画像ではなく電子テキスト。
- Disney+「Three Little Pigs」(1933年)作品紹介:三匹がレンガの家へ避難する説明。
- Disney D23「Three Little Pigs (film)」:公開年、登場人物の対比、煙突と鍋の場面。
確認の限界:ハリウェルの該当原刊本、さらに古い口承の全異本は直接照合していません。ディズニー作品は公式のあらすじを参照しており、映像全編を独自に逐語比較したわけではありません。本記事は1890年版を物語の唯一の「原作」と定めません。