ジョン・ミルトン(John Milton, 1608–1674)は、17世紀イングランドを代表する詩人・散文家です。政治・宗教・出版の自由をめぐる散文を書き、詩人としては『失楽園』『復楽園』『闘士サムソン』などを残しました。
ミルトンの有名な「名言」には、作者本人の直接的な人生訓ではなく、サタン、ミカエルなど作品内の登場人物の台詞が数多く含まれます。このページでは、作者と話者を分けながら原典へ戻ります。
生涯と主要作品
Poetry Foundationによれば、ミルトンは1608年に生まれ、詩と政治的散文の両方で活動しました。1644年には出版の自由を論じた『アレオパジティカ』を刊行し、のちに視力を完全に失いながら大作の口述を続けました。
Poetry Foundation「John Milton」
『失楽園』は1667年に初版が刊行され、1674年版では現在一般的な12巻構成になりました。『復楽園』は1671年に刊行されています。
『失楽園』――印象的な言葉の多くは登場人物の声
「地獄から光へ至る道は長く険しい」は、『失楽園』第2巻でサタンが語る台詞です。
短く切り出すと「苦難を越えれば希望へ行ける」という励ましに見えます。しかし物語では、サタンが地獄から人間世界へ向かう危険な旅について語っています。
「生命を愛すな、憎むな。生くる限りよく生きよ」は、第11巻で大天使ミカエルがアダムへ語る台詞です。
こちらは、老いと死を見せられたアダムが死を必要以上に恐れなくなった後の応答です。同じ作者の作品でも、サタンの声とミカエルの声を同じ「ミルトンの人生哲学」として並べると意味が崩れます。
同じ原文が複数の日本語名言になる
「命を大切にするがよい」は原文どおり?では、第11巻の Live well が「善く生きよ」だけでなく「命を大切にする」と訳されて流通している違いを整理しています。
一つの英文から複数の日本語「名言」が生まれるため、原文・翻訳・意訳を分けることが重要です。
『復楽園』――「幼年期は成人を示す」もサタンの台詞
「幼年期は成人を示す、朝が昼を示すように」は、『復楽園』第4巻でサタンがイエスへ語る台詞です。
サタンはイエスの少年期の知性を材料に、世俗の学問や名声へ誘おうとします。これを単純な「子どもの頃を見れば将来が分かる」という教育格言だけにすると、誘惑の場面という機能が消えてしまいます。
ミルトンの言葉を読むときの注意
- 作者本人と登場人物の台詞を分ける。
- サタンの魅力的な台詞を作者の直接的な主張とみなさない。
- 原文と日本語の意訳・別訳を区別する。
- 短句だけで作品の道徳的結論を決めない。
- 『失楽園』と『復楽園』を同じ作品として混同しない。
『失楽園』を作品として読む
『失楽園』作品ページへ → サタン、ミカエル、アダムなど話者を分けながら、短い引用を作品全体の場面へ戻して読めます。
原典・参考資料
Poetry Foundation「Introduction to Paradise Lost」 / Project Gutenberg『Paradise Lost』