ピーター・ドラッカーとは
ピーター・F・ドラッカー(Peter F. Drucker, 1909–2005)は、オーストリア生まれの著述家・教師・経営コンサルタントです。「現代マネジメントの父」と呼ばれることが多い一方、本人の関心は企業経営だけに閉じていませんでした。
Drucker Instituteは、ドラッカーが生涯を通して目指したものを“a functioning society(機能する社会)”と説明しています。企業、非営利組織、政府などの組織が成果を上げ、同時に人間と社会に責任を持つにはどうすればよいか。その問いからマネジメントを考えました。
このページでは、意思決定、integrity、顧客、マーケティング、知識労働、組織と社会をつなぎながら、ドラッカーの言葉を原典へ戻して読みます。
1909年ウィーン生まれ――経営学者になる前のドラッカー
ドラッカーは1909年11月19日、ウィーンに生まれました。知識人が集まる家庭で育ち、若い頃はドイツで貿易会社に勤めながら学び、新聞の編集者としても働きました。
1932年にフランクフルト大学で国際法の博士号を取得。その後ナチスの台頭を受けてドイツを離れ、イギリスを経て1937年にアメリカへ移ります。
Drucker Instituteによれば、彼の初期著作『The End of Economic Man』は、第一次世界大戦と大恐慌の後に社会制度が機能しなくなり、ファシズムが台頭した問題を扱いました。
企業経営へ関心を持った背景にも、強力な組織をどうすれば社会の破壊ではなく、機能する社会の一部として働かせられるかという問題意識がありました。
1946年『Concept of the Corporation』――企業を社会制度として見る
1940年代、ドラッカーはGeneral Motorsを研究し、1946年に『Concept of the Corporation』を刊行しました。
企業を単なる利益獲得装置ではなく、意思決定、権限、働く人、社会との関係を持つ制度として観察したことが、その後のマネジメント論の基礎になります。
1954年の『The Practice of Management(現代の経営)』では、マネジメントを一つの独立した仕事・実践として体系化していきました。
企業の目的は「顧客の創造」
『The Practice of Management』でドラッカーは、企業の目的は企業の内部ではなく社会の側にあると論じ、“There is only one valid definition of business purpose: to create a customer.”――「企業目的の有効な定義は一つしかない。顧客を創造することである」と書きました。
利益を不要だと言っているわけではありません。利益は企業が存続し、リスクを負い、仕事を続けるために必要です。しかし「何のために事業が存在するのか」という目的そのものを利益だけで定義しません。
顧客が何を価値と考え、何を必要とし、何を買うのか。そこから事業を見る視点は、現在のマーケティングやGTMにも直接つながります。
マーケティングとイノベーション
ドラッカーは事業の基本機能として、マーケティングとイノベーションを重視しました。
1973年の『Management: Tasks, Responsibilities, Practices』では、マーケティングの目的を、顧客を深く理解し、製品やサービスが顧客に合って「自然に売れる」状態へ近づけることとして説明しています。
これは「営業をなくせる」という単純な話ではありません。企業側が売りたいものから始めるのではなく、顧客が何を価値とするかから事業を組み直すという考えです。
「マーケティングの目的は販売を不要にすること」では、この考えを『Management』の原文と、BtoBにおける顧客理解・営業との関係から詳しく読めます。
このサイトのBtoBマーケティング領域で扱う顧客理解、GTM、営業とマーケティングの連携も、この問いと接続できます。
「正しいこと」と「受け入れ可能なこと」
「正しいことから始める」というドラッカーの言葉は、1967年の『The Effective Executive(経営者の条件)』にあります。
ただし日本で流通する「できることから始めるのではなく」という訳は、原文と少し違います。
原文で対比されるのは right と acceptable。つまり「正しいこと」と「受け入れ可能なこと」です。
ドラッカーは、現実の意思決定では最後に妥協が必要になるからこそ、最初から妥協案を答えにせず、まず何が必要条件を満たすかを考えよと論じます。
意思決定は「実行」されるまで決定ではない
同じ『経営者の条件』で、ドラッカーは意思決定を思考だけで終わらせません。
誰が知る必要があるのか。誰が行動するのか。何をいつ行うのか。実行可能な仕事として組み込まれなければ、決定ではなく「良い意図」にすぎないと考えます。
この点でもドラッカーの思想は、抽象的な経営理念より、成果へ変換される実践を重視します。
integrity――リーダーの品性は「人事」に現れる
「リーダーシップは品性を通じて発揮される」という考えは、『Management: Tasks, Responsibilities, Practices』に確認できます。
日本語では「管理者は高潔な品性を持ってこそ指導力を発揮し、多くの人の模範となる」と一文にまとめられますが、原文では複数の文章にわたって integrity of character が論じられます。
重要なのは、「人格者になれ」という道徳訓だけではありません。ドラッカーは誰を管理職へ置くかを問題にします。
能力が高くてもintegrityを欠く人物へ権限を与えれば、人、組織の精神、成果を壊す。その人物を選んだ上層部への信頼も失われる。組織文化は標語より人事で伝わる、という厳しい考えです。
知識労働者――人を「コスト」だけで見ない
ドラッカーは20世紀半ばから、知識を主要な生産手段とする「knowledge worker(知識労働者)」の重要性を論じました。
工場設備のように会社が所有する資産ではなく、知識は働く本人の中にあります。そのため、命令と監督だけでは成果を最大化できません。
自分の強み、時間、貢献を自ら管理する必要があり、組織側も人を単なる交換可能な労働力として扱えなくなります。
現在の専門職、コンサルタント、エンジニア、マーケターなどを考えるうえでも、ドラッカーの自己管理論が読み継がれる理由の一つです。
マネジメントは企業だけのものではない
ドラッカーは企業だけでなく、非営利組織、病院、大学、政府なども研究・支援しました。
Drucker Instituteが強調するように、彼にとってマネジメントは「会社を儲けさせる技術」より広い概念です。
使命を定め、人を生かし、限られた資源を成果へ変え、社会に責任を持つ。組織が目的を果たすための実践としてマネジメントを捉えました。
「ドラッカー名言」は本人の文章とは限らない
ドラッカーほど、短い経営格言を大量に帰属される人物も多くありません。
たとえば “Management is doing things right; leadership is doing the right things.” は非常に有名ですが、初期の出典をたどると、効率と有効性をめぐるドラッカーの表現や、後のWarren Bennis、Stephen Coveyによる引用が重なって現在の定型句になった経路があり、単純な「ドラッカーの一文」として扱うには注意が必要です。
思想が本人らしくても、逐語的な原文かどうかは別に確認する。このサイトではドラッカーについても同じ基準で扱います。
どこから読むか
事業の目的と顧客から入るなら、「企業目的の有効な定義は一つ、顧客を創造すること」。
マーケティングと販売の違いから入るなら、「マーケティングの目的は販売を不要にすること」。
意思決定なら、「受け入れ可能なことではなく、正しいことから始める」。
リーダーシップと人事なら、「リーダーシップは品性を通じて発揮される」。
事業・顧客・マーケティングへ広げるなら、BtoBマーケティングの総合ガイドへ進んでください。
参考資料
The Drucker Institute “About Peter Drucker”、Claremont Graduate UniversityのPeter F. Drucker紹介、Peter F. Drucker, The Practice of Management (1954), The Effective Executive (1967), Management: Tasks, Responsibilities, Practices (1973) を参照しています。