シャルル・ペロー(Charles Perrault、1628〜1703年)の『昔話または過ぎし日の物語、教訓つき』(Histoires ou Contes du temps passé, avec des Moralitez)は、1697年にパリで出版された8編の物語集です。『赤ずきん』『シンデレラ』『眠れる森の美女』『長靴をはいた猫』は今でも広く読まれていますが、グリム兄弟の版や近年の絵本・映像版と結末が同じとは限りません。
本ページでは1697年刊本の書誌と目次を軸に、収録順と教訓の読み方を確かめます。現在当サイトに独立した解説がある6編は記事へ、まだ独立記事がない2編は原文を収めた目次へ案内します。各話の原文、翻訳、後の再話を一つの「唯一の原作」に混ぜないことを優先します。
まず1作品を読む:赤ずきん|救出されない結末 / 青ひげ|血の鍵と二つの教訓 / 仙女たち|宝石と蛇・二つの教訓 / シンデレラ|ガラスの靴と異版 / 眠れる森の美女|目覚めた後 / 長靴をはいた猫|二つの教訓。全8編の収録順と未整備2編については、続く本文で確認できます。
1697年に出版された8編を、まず目次から確かめる
フランス国立図書館(BnF)の1697年刊本の書誌には、出版者Claude Barbin、出版地パリ、収録8編の作品名が記されています。1697年刊本に基づくフランス語の目次と翻刻でも同じ並びを確認できます。現代の日本語題は案内用の呼称であり、原題と必ず一対一の訳語ではありません。
収録順は、①『眠れる森の美女』(La Belle au bois dormant)、②『赤ずきん』(Le Petit Chaperon rouge)、③『青ひげ』(La Barbe bleue)、④『長靴をはいた猫』(Le Maistre Chat, ou le Chat botté)、⑤『仙女たち』(Les Fées)、⑥『シンデレラ』(Cendrillon, ou la petite pantoufle de verre)、⑦『巻き毛のリケ』(Riquet à la houppe)、⑧『親指小僧』(Le Petit Poucet)です。
収録作のうち独立解説があるのは、現在確認できた範囲では6編です。それ以外の作品について、このページで具体的なあらすじや結末まで原典照合済みと主張しません。フランス語本文を読みたい場合は、上記の目次から各編へ進めます。
①『眠れる森の美女』――目覚めた後も続くペロー版
『眠れる森の美女』の原作と異版では、1697年のペロー版とグリム版『いばら姫』を比べています。グリムの1857年版では王子と王女の結婚が結末となる一方、ペロー版では結婚の後に生まれた子どもたちと、人食いの王太后をめぐる後半があります。
「王子がキスで起こしたらすべて終わり」と聞いて育った人ほど、残っている後半の意味は大きく見えるでしょう。物語のどこを結末として選ぶかで、登場人物への見方が変わるという典型例です。妖精の人数や祝福の与えられ方なども、版を分けて確認する必要があります。
②『赤ずきん』――ペロー版には猟師による救出がない
『赤ずきん』の原典とグリム版比較では、ペロー1697年版の結末に、猟師による救出がないことを確認しています。少女と祖母は狼に食べられて終わります。グリム兄弟の版では二人が救出される展開が知られ、同じ題名でも読後感が大きく変わります。
ペロー版の終わりには「教訓(Moralité)」の詩が置かれています。狼をただの動物として捉えるのでなく、優しい言葉を使って近づく危険な人間の比喩として読む入口です。1697年版「Le petit chaperon rouge」の本文にも、救出のない結末とその後の教訓が続いています。
③『青ひげ』――血の鍵と二つの教訓
目次の3番目は『青ひげ』(La Barbe bleue)です。『青ひげ』1697年版の原作・結末・二つの教訓では、血のついた鍵が消えない理由、姉アンヌと兄たちによる救出、妻の財産相続までをフランス語本文から確認できます。物語の起源や実在人物への比定については、特定の人物が「唯一のモデル」だったと断定しません。
ペロー版の末尾には、好奇心への戒めを語る教訓と、恐ろしい夫は過去の物語の存在だと皮肉る別の教訓が並びます。「妻が禁を破ったこと」と「青ひげの殺人・脅迫の責任」を混同せず読むことが重要です。1697年版のフランス語本文でも両方を確認できます。現代の映像や再話の結末を原著へそのまま持ち込まないでください。
④『長靴をはいた猫』――才覚と欺瞞が隣り合う
『長靴をはいた猫』の原作解説では、末息子に残された猫が、自分の知恵で「カラバ侯爵」という架空の立場を作り、農民を脅し、人食い鬼の城まで手に入れる流れを読みます。「利口に行動すれば誰でも成功する」という標語だけでは済まない物語です。
1697年版には、物語の後に二つの教訓が付いています。一方は相続財産より才覚を、もう一方は服装や外見、若さが人の心へ及ぼす影響を語ります。猫の大胆な嘘と教訓をどう折り合わせるかに、皮肉と解釈の余地があります。1697年版の原文でも二つの「Moralité」を確認できます。
⑤『仙女たち』――口から出る宝石と蛇、二つの教訓
第5編の原題は Les Fées。日本語では『仙女たち』『妖精たち』などの題で紹介されます。『仙女たち』1697年版の原作解説では、二人の姉妹が泉で同じ妖精に出会い、妹の口から花と宝石、姉の口から蛇とヒキガエルが出るようになる物語を、フランス語本文から読み直せます。
原典では妖精が妹には貧しい女性、姉には豪華な服の女性として現れ、姉は孤独のうちに森で亡くなります。末尾には「やさしい言葉」と「礼儀への気配り」をめぐる二つの教訓が添えられています。本文の細部を後世の再話と混同しないため、独立解説の記事から原典へたどれます。
⑥『シンデレラ』――ガラスの靴はどの版か
『シンデレラ』の原作・異版比較では、ペロー1697年版に登場する妖精の名付け親、かぼちゃの馬車、ガラスの靴と、グリム1812・1857年版の母の墓の木・鳥による助けとを区別しています。継姉たちへの処遇や物語の結末も同じではありません。
同じ「シンデレラ型の物語」でも、靴の材質や助け手が誰かによって、主人公を取り巻く社会と魔法の仕組みは変わります。物語全体の起源を1697年刊本一冊に限定するのではなく、ペロー版とグリム版をそれぞれ特定できる歴史的な文章として比較する方法が有効です。
⑦『巻き毛のリケ』――見た目と知性の問い
7番目は Riquet à la houppe です。『巻き毛のリケ』『リケとふさふさ頭』など日本語題に揺れがあり、訳書によって印象が違うことがあります。この作品の題名を記録しておけば、異なる訳題を見たときに同じ物語かどうか調べやすくなります。
知性や美しさをめぐる物語として知られますが、当サイトにはまだ独立した原典確認記事がありません。あらすじの細部や作者が意図した教訓を、二次的な要約から確定することは避け、本文を確認してから改めて整理します。
⑧『親指小僧』――収録8編の最後の物語
最後は Le Petit Poucet、『親指小僧』などと呼ばれる物語です。ほかの童話集や地域の「小さな子どもが主人公の話」と題材が似ている場合も、それだけで同じ原典にはなりません。1697年の目次における最終話として把握し、ほかの再話との違いは原文比較の対象として残します。
この作品も、現在のサイト内に独立解説があると確認できていません。8編すべてを一度に解説済みと装うより、既に解説がある6編と、これから確認すべき2編を見える形で分けることで、読者も編集側も調査範囲を把握できます。
「教訓つき」は、一作品一つの正解という意味ではない
表題には avec des Moralitez とあります。物語の後に置かれた詩の教訓は重要ですが、それがそのまま単純で一貫した道徳の正解を意味するわけではありません。『長靴をはいた猫』のように、二つの教訓と物語上の欺瞞が並ぶ場合もあります。
また、初刊本の献辞には「P. Darmancour」の署名があり、出版特権も同名義です。BnFの書誌にこの事情が記されているため、1697年刊本をペローの作品として読む際にも、作者の帰属、献辞の署名、版の発行名義は別の事実として扱う必要があります。BnFのペロー人物典拠は、息子名義での出版について説明しています。
グリム兄弟の昔話集と読み比べる意味
グリム兄弟の『子どもと家庭のメルヒェン集』ガイドでは、1812年の刊行開始から1857年最終版までの編集・改訂を解説しています。ペロー1697年版は、この作品集より一世紀以上前に出版されましたが、出版年が古いだけで「すべての昔話の起源」とはいえません。
『赤ずきん』『シンデレラ』『眠れる森の美女』は、刊本ごとの違いが大きい代表例です。ペローの物語にある結末や「教訓」を、グリム兄弟の版で補ったり、逆にグリム版の救出をペローの本文へ持ち込んだりしないことが、作品を比較して読む第一歩になります。
どこから読み始める?
はじめて異版を比べるなら、救出されないペロー版『赤ずきん』から。よく知っている物語が別の顔を見せる例なら、ガラスの靴と助け手が違う『シンデレラ』へ。物語が想像以上に長いと気づきたいなら、目覚めの後も続く『眠れる森の美女』、寓話の皮肉を読みたいなら二つの教訓を持つ『長靴をはいた猫』をおすすめします。
ほかの作者・版も探す場合は童話・寓話から考える、昔話以外の文学作品も探したい場合は作品索引へ。これらの導線は、単に記事数を増やすのではなく、自分が読んでいる物語が「どの作者・編者による、いつの版か」を確かめるためのものです。
原典・公的資料と確認の限界
フランス国立図書館(BnF):1697年刊本『Histoires, ou Contes du temps passé』 — 書誌、Claude Barbinの刊行情報、8編の収録順、献辞の署名。
Wikisource:1697年刊本の目次と翻刻 — 本文の入口。翻刻は校正・検証状態がページごとに異なるため、紙面の画像や別資料との照合が必要な場合があります。
アカデミー・フランセーズ:Charles Perrault — 1628年生まれ、1671年の会員選出、文筆と宮廷・行政での活動。
BnF:Charles Perrault人物典拠 — 生没年、献辞・出版名義と、作品帰属についての書誌情報。
確認範囲:1697年刊本の目次を照合し、個別作品の詳細はサイト内で原典を調査した6記事へ接続しています。新規の『青ひげ』と『仙女たち』は、1697年版に対応するフランス語本文に基づく独立解説を追加しました。残る『巻き毛のリケ』『親指小僧』の全編については、この作業で精読・監査したものではありません。現代日本語訳や絵本から文章を転載していません。