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ジョージ・バーナード・ショーとは|生涯・戯曲・逆説・名言と登場人物の台詞

ジョージ・バーナード・ショー(George Bernard Shaw, 1856–1950)は、アイルランドのダブリンに生まれ、ロンドンを中心に活動した劇作家・批評家・社会思想家です。音楽・演劇批評、ファビアン協会での活動、小説、戯曲、政治・社会評論など幅広い分野で文章を書きました。

1925年のノーベル文学賞を受賞し、賞は翌1926年に授与されました。『ウォレン夫人の職業』『人と超人』『ピグマリオン』『聖女ジャンヌ』など、多くの戯曲で社会制度と人間の思い込みを、議論と逆説と笑いによって揺さぶりました。

ショーの「名言」を原典へ戻すと、三つの層を分ける必要があります。本人が警句集に書いた言葉、戯曲の登場人物が語る台詞、そして後世にショー名義で広まった出典未確認の言葉です。

ショーは本当に「警句を書く作家」だった

有名人への誤帰属が多いからといって、ショー名義の短い言葉をすべて疑う必要はありません。

ショー自身が、短く、鋭く、常識を裏返す格言を大量に書いた作家だからです。

その代表が、『Man and Superman(人と超人)』に付された“Maxims for Revolutionists(革命家のための格言)”です。教育、結婚、道徳、財産、文明などについて、わざと極端な一文を並べ、読者を挑発します。

だからショーの場合、「いかにもショーらしい」ことは他の人物より多少意味を持ちます。それでも、“らしい”と“原典がある”は別です。

「できる者は実行し、できない者は教える」

“He who can, does. He who cannot, teaches.” は、“Maxims for Revolutionists” の「Education」節に確認できます。

真正なショーの文章です。

しかし、ここから「教師という職業は無能者の仕事だ」という一般的事実を導くことはできません。同じ文章群には、教育や専門家を意図的に刺激する警句が並んでいます。

この一文は、完成した教育理論というより、常識を乱すための挑発として読む必要があります。

「あなたは世界を見るための窓」

“Better keep yourself clean and bright: you are the window through which you must see the world.” も、“Maxims for Revolutionists” にあります。

現在は「自分磨きを続けよう」という自己啓発の言葉として使われがちですが、原典では「HONOR」の節に置かれています。

窓が曇っていれば、外の景色まで曇って見える。世界を判断するとき、その判断主体である自分自身の利害や偏見も入り込む。

単なる能力向上より、自分自身が認識のフィルターであるという比喩として読む方が、ショーの逆説性を残せます。

戯曲の台詞は、ショー本人の独白ではない

ショー作品では、登場人物が非常に鋭い警句を語ります。

そのため、一文だけ引用すると「ショー本人が人生についてこう断言した」と見えやすくなります。

しかし戯曲では、複数の人物が異なる立場をぶつけ合います。一つの台詞だけを作者の最終的な結論へ変えると、作品そのものの構造が失われます。

『人と超人』――「人生には二つの悲劇がある」

「人生には二つの悲劇がある。望むものを得られないことと、得ることだ」は、『人と超人』第4幕に確認できます。

ただし話者はショーではなく、メンドーサです。

しかも、オスカー・ワイルド『ウィンダミア卿夫人の扇』には、ショーより前に非常によく似た台詞があります。

ここでは「ショーの幸福論」とするより、欲望が満たされることまで悲劇になりうるという、世紀末から続く逆説的なウィットとして読む方が面白くなります。

『ウォレン夫人の職業』――「人生に美もロマンスもない」

「人生には美もロマンスもない。人生はあるがままだ」は、『ウォレン夫人の職業』第4幕でヴィヴィー・ウォレンが語る台詞です。

ヴィヴィーは、母親の職業と社会の経済的現実を知り、芸術や恋愛による慰めより、自分の仕事と自立を選ぼうとします。

したがって、この一文を「あるがままを受け入れれば幸福になる」という一般的な心理論へ変えると、女性の経済的自立、階級、売春、労働という戯曲の具体的な問題が消えてしまいます。

『ジョン・ブルのもう一つの島』――「初恋は少しの愚かさと多くの好奇心」

“First love is only a little foolishness and a lot of curiosity.” は、『John Bull’s Other Island』第4幕でブロードベントが語ります。

この一文も、ショーが初恋を学問的に分析した結果ではありません。

ブロードベントは自分の過去の恋愛を軽く扱いながら、ノラとの会話を巧みに切り抜けようとします。人物の性格と喜劇性の一部です。

ワイルドとショー――「作者らしい台詞」が作者本人へ戻される

この問題は、オスカー・ワイルドと非常によく似ています。

ワイルドもショーも、本人が実際に鮮やかな警句を書き、そのうえ作品中の人物にも同じくらい鮮烈な台詞を語らせます。

そのため、登場人物の台詞であっても「いかにも作者らしい」と感じられ、後世には作者自身の名言として一枚にまとめられやすい。

さらに『人と超人』の「二つの悲劇」には、ワイルドの先行する非常に近い台詞まであります。作者、話者、先行表現を分けることで、名言史そのものが見えてきます。

「10回中9回失敗したので10倍努力した」は出典未確認

「10回中9回失敗したので、10倍努力した」は、ショー名義で非常によく流通しています。

ショーが若い頃に小説家として苦戦し、作品を書き続けたことは事実です。そのため、この言葉は彼の経歴に非常によく似合います。

しかし現在の監査では、本人の戯曲、評論、書簡、演説などへ戻る確実な一次出典を確認できません。

伝記に似合うことを、引用の証拠にはしません。

「人は習慣を好む。自分で作ったから」も出典未確認

「人は習慣を好む。なぜなら自分で作ったから」も、ショー名義で流通していますが、現在の監査では確実な原典を確認できません。

ショーには『Back to Methuselah』の序文など、習慣について実際に論じた文章があります。

しかし、テーマが似ていることと、同じ一文が存在することは別です。

ここでも、「ショーなら言いそう」から帰属を格上げしません。

ショーの逆説は、正反対のことを言うためだけではない

ショーの警句には、常識と反対のことを言う形が多くあります。

しかし目的は、ただ奇抜であることではありません。

「教師は教える側だから有能」「願いが叶えば幸福」「美やロマンスは人生を豊かにする」といった、疑わずに受け入れている前提を、一度反転して見せる。

その逆説によって、読者や観客に自分が当然だと思っている前提を言葉にさせるのが、ショーの強さの一つです。

劇場を「議論の場所」にした作家

ショーの戯曲では、物語だけでなく長い議論が重要な位置を占めます。

『ウォレン夫人の職業』では売春と女性の経済条件、『Major Barbara』では貧困・慈善・武器産業、『Pygmalion』では言語・階級・自己形成、『Man and Superman』では結婚・性・社会・生命力などが議論されます。

登場人物はしばしば、作者の結論を代弁する人形ではなく、異なる論理をぶつける装置になります。

だからショーの名言を読むときほど、「誰の台詞か」を消さないことが重要です。

社会主義とファビアン協会

ショーは1880年代からファビアン協会の重要メンバーとして活動し、多くのパンフレットを書きました。

革命による急激な転覆より、制度を通じた漸進的な社会改革を志向したファビアン社会主義と関わりながら、貧困、階級、労働、女性の経済的条件などを批評しました。

ただし、個々の戯曲の台詞を「ショーの社会主義思想の要約」と即断するべきではありません。政治的立場と作品内の人物の発言は分けて確認します。

1925年ノーベル文学賞

ショーは1925年のノーベル文学賞を受賞しました。NobelPrize.orgは、その作品を理想主義と人間性、刺激的な風刺と詩的な美によって評価しています。

受賞作家としての権威も、後世の誤帰属を増やす要因になります。有名で、長寿で、警句家として知られ、実際に膨大な文章を残した人物には、「誰かが言った賢い言葉」が集まりやすいからです。

ショーを「努力の偉人」にしすぎない

「10倍努力」の句のように、ショーは自己啓発的な努力論の人物として使われることがあります。

しかし、監査済みの真正な文章から見えるショーの特徴は、努力を称えること以上に、制度、言葉、常識、成功、教育、恋愛の前提を逆説で揺らすことです。

人物像に合わせて名言を選ぶのではなく、原典から人物像を作り直す。その方がショーはずっと面白くなります。

幸福と欲望をテーマから比較する

『人と超人』の「二つの悲劇」は、「幸福とは何か」というテーマともつながります。

ショーペンハウアーが「欲望が満たされても次の不足や退屈が生まれる」と考えるのに対し、ショーの戯曲では、願望の達成そのものが別の問題を開くという逆説が人物の台詞として現れます。

同じ「欲望が叶えば幸福になるのか」という問いでも、哲学論と劇的なウィットでは資料の性格が違います。

戯曲と評論、どちらから入るか

ショー本人の警句から入るなら、「できる者は実行する」と「世界を見る窓」の二記事。

戯曲の多声性から入るなら、『人と超人』『ウォレン夫人の職業』『ジョン・ブルのもう一つの島』。

誤帰属の問題から入るなら、「10倍努力」と「習慣」の二記事を読むと、“ショーらしさ”だけでは出典にならないことがよく分かります。

ほかの人物から思想と言葉をたどる → 人物索引

参考資料

生涯、作品、ファビアン協会との関係、ノーベル文学賞についてはNobelPrize.org「George Bernard Shaw – Biographical / Facts」を参照しています。個々の引用は『Man and Superman』『Mrs Warren’s Profession』『John Bull’s Other Island』および “Maxims for Revolutionists” の本文へ戻して確認しています。