はじめに
「運命は、その人の性格の中にある」。芥川龍之介の名言として広く紹介されます。
しかし『侏儒の言葉』の原文を確認すると、芥川はこの文を自分の新しい警句として書いているわけではありません。
本文は、「運命は偶然よりも必然である。『運命は性格の中にある』と云う言葉は決して等閑に生まれたものではない」という形です。
引用符が示すもの
「運命は性格の中にある」の部分は、原文でも鉤括弧に入っています。
つまり芥川は、すでに存在する言葉を取り上げ、その言葉には理由があると論じています。
今回の監査では、その短句の最初の作者まで確定していません。したがって、芥川が引用・参照した言葉であることは確認済み、芥川の造語としての帰属は不適切と扱います。
芥川自身が加えたのは「偶然より必然」という読み
芥川が直接書いている重要な部分は、「運命は偶然よりも必然である」という前置きです。
人が繰り返し選ぶもの、避けるもの、反応の仕方には性格が現れます。その積み重ねが、後から見れば「運命」のような形を作ることがあります。
ただし『侏儒の言葉』の後半には、遺伝・境遇・偶然の三者が運命を司るという別の警句もあります。芥川の運命観を「全部性格次第」と一文へ固定しないことも重要です。
まとめ
「運命は性格の中にある」という文は『侏儒の言葉』に登場しますが、芥川自身が引用符付きで既存の言葉として扱っています。
したがって「芥川の造語」とするより、芥川が取り上げ、その妥当性を考えた言葉とするのが原典に忠実です。
「運命とは何か」テーマページでは、マキャヴェッリ、モンテーニュ、ユング、ソローらと比較できます。
出典メモ:芥川龍之介『侏儒の言葉』「運命」。青空文庫公開本文で確認。引用句そのものの初出作者は現在未確定。